第二章の3. 温度差と無関心の中で
年明けの2009年。
改めてその改革が自分たちに大いに関係のあるものだ、という話を聞いても理事長のMはもちろん、院政を引く北の波すら、ピンと来ていなかった。
それどころか、
「もっと税金が安くなる方法があるなら、先生たちに考えてもらえばいいじゃないか。」
「制度が変わって、財団法人から公益財団法人になって、もっと優遇してもらえるなら、それに越したことはない」
と都合のいい受け止め方しかしていなかった。
外の世界のことは、好角家の専門の人たちに任せる。
相変わらずの角界不可侵神話、誰かが必ず何とかしてくれるという甘い考えだ。
しかし、今回の制度改革は、そんな小手先の書類仕事で通用するものではない。懇意にしている外の専門家達も「今回ばかりは・・・」と言葉を濁した。
新理事長Mは、協会の法律や税務を担当している顧問たちに、新制度に関する北の波の意向を伝えたところ、やり玉に挙げられることになる。
「何を他人事みたいに言ってるんですか。あなた達の現状、生活から変えて頂かないと出来ないような一大事なんですよ」
コンコンと説教をされたところで、そもそも北の波のリリーフとして理事長になったMにとっては、自分が主体になって動く、なんていう概念を持ち合わせていない。
業を煮やした顧問達はMと何人かの幹部を連れて、移行認可の管轄省庁でもある文科省を訪れた。
文科省には前回「外部理事招聘」の件で小言を言われ、ご意向に沿って外部理事を入れた実績がある。
Mは今回も、役人からのアドバイスに従い、移行のための準備や手続きを進めればいいと気負いなく訪問するが、またも結果は予期せぬものとなった。
アドバイスどころか、これまでの角界の黒い噂や、ここ何年かの不祥事についても触れられ
「今のままでは、公益はおろか、一般財団法人としての移行や認可が難しい可能性すらある」
と冷たく跳ね返されたのだ。
初めて事の重大さに気付き震え上がるMと幹部たちを見て、法律顧問たちはようやく新制度移行へのスタートラインに立てた気がした。
協会に戻ったMは、北の波や幹部たちに対し、新制度移行について真剣に考えてくれるよう頼み込んで歩く。
しかし一緒に役人の話を聞いたはずの幹部たちまでもが、北の波と一緒になって不平を言うばかりで具体的な改善案はひとつも挙がらない。
終いには、「他にやり方があるんじゃないのか」「応援してくれる誰々先生(政治家)に頼めば、今のままでもなんとかなるんじゃないか」と、行政の通達を真に受けて動いていること事態を馬鹿にされる始末だった。
Mと法律顧問たちは、今までの角界を変えたくない者達のワガママと、新制度の認可基準の間に挟まれて、右往左往するばかりだったが、特に還暦を過ぎたMは、まるで管轄外の難しい話の中でもみくちゃにされ、みるみる憔悴していった。
そんな時、Mに影で手を差し伸べたのは、派閥の違う一門に属する「異端の理事」だった。