見出し画像

大学進学で上京したけど、就職で東京から撤退した話

 出身が首都圏以外の地域の人であれば、「東京に出たい」と思ったことが少なからずあるのではないだろうか。

 私は、自由を求めて大学進学とともに上京したが、結局東京には根を張るのが難しいと感じ、地元に就職を決めた。その経緯について書いてみたい。

高校時代

 高校時代の私は、校則が厳しい高校に通っていて、家でも両親の顔色を伺い、日々閉塞感を感じていた。とにかく遠くの大学に行って、自由気ままに一人で暮らしたいというのが私の願いだった。刺激が多くて楽しそうで、将来の選択肢も多くありそうな東京の街は、当時の私に非常に魅力的に映った。
 また、当時通っていた高校からは、地元の大学に多くの合格者を輩出していたが、私は知り合いの少ない環境に逃げ出したかった。そういう意味でも、東京の大学は好都合だった。
 高校2年生の頃、東京の大学に行くことに決めた。

上京後直面した、コロナ禍の大学生活

 晴れて東京の大学に合格し、やってきた東京だったが、最初に直面したのはコロナ禍だった。授業はオンラインで行われ、サークルの新歓も規模が大きく縮小された。結局私は小さな部屋で孤独に毎日を過ごすことになり、特段楽しいことが起らなかったばかりか、あまりに人との会話がない生活を辛く感じるようになった。いっそ高校の頃のほうがましだと思うこともあった。

大学の同期と自分を比較して感じた焦り

 また、大学の同期と自分との差にもよく悩んだ。例えば、東京に来てはじめに驚いたのは、同級生の新しい環境に対する適応能力だった。一度も実際に会ったことがないクラスのメンバーをまとめて、Zoom上でのレクリエーションを企画・運営する人。すでに資格試験予備校に入学し、そこでの勉強仲間をクラスで探す人。テニサーのオンライン新歓や新規メンバー選考会の内容をあちこちで聞いて回る人。それぞれが自らの大学生活をデザインし始めているように見えた。
 一方で私は、初めての一人暮らしに戸惑っていた。また情報弱者だったゆえ、焦って週15コマの授業を取り、1日7時間くらいパソコンに向かって疲弊していた。大学生活という、自由度の高い環境に急に身を置かれると、毎日の時間をどう過ごして良いものか分からなくなってしまい、非常にヘタクソな時間の使い方をした。履修を少なめにして、友達を作って遊ぶなり、一人でゲームに熱中するなり、適当に旅行に行くなり、自分の好き勝手に時間を使えばよかったのだが、そもそも時間の使い方すら自分で決められなかった。ずっと人に規定された生活をしていて、人の顔をうかがっていたせいだと思う。

 さらに、周りの同期よりも劣っているのではないかと思いすぎて、人に声を掛けることに怖気づくようになってしまった。「何か自分について尋ねられたらどうしよう」とか、「自分と話をしても相手に何もメリットがないんじゃないか」と心配になった。新しい環境で友達を作るには、積極的に話しかけたり、少なくとも話しやすそうな雰囲気を出したりする必要があるわけだが、私は劣等感ゆえそれらができなくなった。

 結局そのような感じで大学の最初の2年間が過ぎてしまい、就活を見据える時期になった。この時期になっても、バイトは短期離職を繰り返していたし、友だちはできなかった。東京に根を張ることは無理だと感じた私は、この時点で東京から撤退し、地元で就職することを決めた。就活の面接のときは、「なぜせっかく東京に行ったのに、就職で地元に戻ってくるのか」とよく問われた。もちろん正直に「東京に友だちがいないから」とか、「東京のせわしなさは自分に合わないと思ったから」と話してもよかったのだが、とにかく自分に自信がなかった私は、正直に話してツッコまれるのが怖かったので、「地元が好きだから」などとごまかした。

大学後半での気づき

 ただ、大学も後半になるにつれ、悟ったというか諦めがついた部分もあった。自分のレベルはこれくらいなんだなとか、こういうこともできないんだなとかもフラットに見て受け止められるようになった。色々な人のブログだったりYouTubeだったりを見たり、就職活動をしたりする中で、キラキラ輝いて見える大学の同期のように意識高く生きなくとも、なんだかんだ多くの人は生活しているし、普通に暮らせているのだと知った。それからは、大企業の総合職ばかり見るのをやめたし、自分のキャパシティの少なさを考えて、転勤の回数や残業時間の少なさを重視して就活をするようになった。

東京を離れて感じること

 東京を出る日。スーツケースをもって、下宿をあとにした。ふと振り返って下宿の建物を見て、「これが最後か」と思うと、寂しい気持ちがしたし、そのときはふがいなさとかやるせなさも感じた。

 いまは地元の近くで社会人1年目をしている。やはりキャパシティの少ない自分にとって社会人の生活はとても忙しいものに感じられるが、ワークライフバランスを意識して就活したおかげで、他の社会人に比べれば ゆとりある生活ができているような気がする。東京にいたときは、なぜか緊張することが多く、ずっと気を張っているような感じがしていたのだが、地元だと体が安心しているのか、そのような感じはしない。また、私は地元には何人か友だちがおり、休日にはときどき友だちと出かけることができている。おそらく私には地元のほうがあっているのだとおもう。

 ただ、今大学で上京したことを後悔しているかというと、あまり後悔はしていない。地元とは違う都市空間で生活したことによって、地元を相対的に見ることができるようになった。とにかく暇で孤独で苦しい時間を過ごしたことで、暇は暇でそれなりに辛いということを理解できた。なにより、孤独な時間を過ごしたことで、一人の時間を充実させる方法を自分で考えられるようになった。noteやYouTubeで他の人のエッセイなどを読んで、自分の生き方について考える習慣もついた。

 高校の時、東京に出る計画を立ててそれを実行した自分は、やはりよく頑張ったと思うし、間違いではなかったんじゃないかと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?