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千羽鶴

ふとしたきっかけで、ドイツ人の女性と話す機会があった。
彼女は鶴の模様の入った、小物を探していた。随分時間をかけて、色んな品物を見て、それでも決められないみたい。

鶴は、日本の伝統的なモチ-フとして、外国人には人気がある。いくつか彼女が好きそうなものを選んで、手伝っていると、彼女が話し始めた。

「日本の習慣で、折り紙で鶴を千羽折ると、願いが叶う、ってあるでしょ?何かで読んだわ、ある女の子が、折り鶴を作ったら、病気から快復したって。私の父が病気になってね。私も鶴を折り始めたんだけれど、私ゆっくりで…間に合わなくて…」

ちょっとドイツ語なまりの英語。シンプルで、ドライな語り口。明るくて優しい声音。でも万感の思いがこもっていた。そう、澄み切った、哀しみのようなもの。

一瞬、私は胸が詰まって、彼女を見つめてしまった。なんか返事しなきゃ、って。でも出てきた言葉は「残念だったね」とだけ。

彼女のお父さんは、彼女の折った鶴と一緒に、天に飛んで行ってしまったのかもしれない。

その女性は、また作業に戻る。いくつも、いくつも、色んなものを手に取って。迷って。

今はわかるような気がする。彼女は自分だけの鶴を探しているんだろう、って。だからあんなに迷って、真剣なまなざしで、ひとつひとつ、見つめているんだ。まるで自分の心の中にある、何かと比べているみたい。

静かで優しい時間が流れた後、彼女は、白い鶴の模様の入った、
小さな朱色のお財布を選び、
「I have my crane.」と胸に抱きしめて、
少女のような笑顔を浮かべた。

あしべはるかでした。今日もお読みいただきまして、ありがとうございました。



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