【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-10.5
カラン。
ドアにつけてあるカウベルが鳴って、誰かが入ってきたことを告げた。
「いらっしゃい」
入って来たのは、商店街でたい焼き屋をやっているあすかちゃんだった。
私の同級生、ふじえちゃんの孫で、一度は就職したものの、ふじえちゃんが亡くなったのを期に商店街に戻って店を継いだのだ。
自分より先に子どもを亡くし、自身も天寿を全うすることなく泉下の客となった彼女の、最後の忘れ形見だ。
「おはよう、あすかちゃん。いつもありがとうね」
いつもの如く、外が見える窓際の席に座っているあすかちゃんに一言声をかけ、水とおしぼりを置くと、私は厨房へと向かった。
***
彼女が食べるのは、祖母と2人で来てくれていた頃から変わらず、モーニングセットだ。
唯一変わったとすれば、食後の飲み物がいつしかオレンジジュースからコーヒーになったことだろう。
祖母と向かい合わせになって座り、朝食を食べる彼女の横にはいつも赤いランドセルが置かれていたのに。
いつしか彼女は立派な大人の女性になり、そして、いつも隣にいた彼女の祖母が姿を現すことはもう無い。
凛とした芯の強さをまとい、祖母の店を守るという強い信念を持ったあすかちゃんが立ついろり庵は、彼女がいる限り無くなることはないだろう。
いろり庵や、少し前に次男坊が店を継ぐことになったフローリストたちばなのように、若い人が引き継いでくれるところには未来があるが、うちのような店はどうなっていくか分からない。
私がカウンターに立てなくなると同時に、店を畳むようなことになってもおかしくはないのだ。
流れる時代と共に、残るものや消えるもの、変わるものや変わらないもの。
果たしてこの先、この商店街はどのような姿になっていくのか。
***
先日お届けした喫茶店のエピソードを、マスター目線で書いてみました☕️
マスターを通して語られる、あすかさんの過去と、商店街の未来の話。
喫茶ボンは生き続けることができるのか、時代と共に消えてしまうのか。
最終回を迎える頃、商店街はどうなっているのか、神のみぞ知るといったところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました😊
*「あんこちゃんとクリームくん」作品集