【二次創作】オッドアイのしろいねこ
夢を見た。
街灯に照らされた夜の道を1人ぼんやりと歩いていた私の前に、不思議な猫が現れる夢。
綺麗に整った真っ白な毛並みに、
左右で色が違う瞳。
魔女とか占い師の隣にちょこんと座っていそうな、ミステリアスな雰囲気が漂っている。
猫は、私をまっすぐ見据えながら言った。
「今、迷っていることがあるでしょう」
「どうして分かるの……?」
「僕の左目は、過去を視ることができるんだ」
太陽のように輝く金色の左目と、月の光のような薄青の右目が私をじっと捉えたその時、走馬灯が走るようにこれまでの日々が頭を過った。
———職場での人間関係に悩み、休職せざるを得ないほど体調が崩れた時。
会社を辞めたくて転職活動をしたものの、上手くいかなかった時。
形式的に行われる上司との面談は平行線で、やっぱりこんな会社には戻れないと苦い思いをした時。
そして。
「……きっと、これも視えてるんだろうなと思うけど」
「うん」
「私ね、ずっと自立した人間になりたいって思ってるの。
母がとんでもなく過干渉で、就活した時も思いっきり口出しされてずっと冷戦状態だったし、一人暮らししてた時も毎朝LINEがきて、返信できないと鬼電だったし」
「うん」
「だから、ちゃんと自分のことは自分で決めて、自分の力で生きていけるような大人にならなきゃっていう思いが強くてね?」
「うん」
「……だけど、休職することになった時に実家に戻ることになって。
休んでる間に、その先の生き方とか理想の自分について考えたんだ」
「うん」
「母は、看護師の資格を持ってて。
資格って生きてく上でとても強い武器だし、働き方の選択肢も広がるなって思ったの。
私が子どもの頃、家計が苦しかった時に、看護師の資格をフル活用して母が働いてたのを見てたこともあって」
「うん」
「だから、私も看護師の資格を取って、どんな状況でも、どこででも生きていける人間になりたいって思った。
もちろん理由はそれだけじゃなくて、大学で勉強してた内容を活かせるかもって思ったところもあったんだけどね。
とっても大変な仕事だってことも覚悟した上で、それでも挑戦してみようって思ったんだ」
「———でも、君の中には引っかかってる何かがある」
「………実家にいると、いろんな面で閉塞感が大きいの。
もう20代も半ばなのに未だに干渉もひどいし、母は自分が絶対正しいと思ってる人だから、意見が合わなくて衝突すると自分が擦り減るんだ」
「実家から看護学校に3年間通うか、看護学校を諦めて働いて、早いうちに家を出るか。
本当はどちらも選びたくて、迷っているんだね」
自分の人生を自由に謳歌することと、生きていくために手にしたいものを手にすること。
どうして、どちらも同時に選ぶことができないんだろう。
思わず俯いたその時、再び猫が口を開いた。
「時には、嘘をつくことも必要なんじゃないかな」
「……噓?」
「前に進むには、どちらかを選ぶことを決心しなければならない。
だけど、どっちも大事なのが本音だから、分かれ道の分岐点で立ちすくんでしまっている。
この状況を打開するのに、嘘は有効な手段だと思うよ」
どちらかを選ぶための、どちらかを捨てるための嘘。
オッドアイの白い猫は、私に問いかける。
「自分につく嘘と他人につく嘘、はたまた両方につく噓。
さあ、君はどれを選ぶ?」
「———私は、」
言葉の続きを発することなく、夢はそこで途切れた。
猫の問いかけに答えることもできなかったし、私の答えを聞いた猫がどんな反応をするのかも分からない。
だけど、私の心ははっきりと決まっていた。
………本当はきっと、猫に会う前から気づいていたんだ。
私が大切にしたいのは、私が大切にすべきなのはどちらなのか。
いつもと変わらぬ駅までの道を、今日も変わらずまっすぐ歩く。
歩いている私の前を、白い猫がスタスタと横切っていった。
***
りようさんの作品から二次創作を書かせて頂きました……!
何かに悩んだり迷ったりしている人の前に現れる、オッドアイの白い猫さん。
猫さんに出会って「嘘」をついた人たちの未来は、いったいどうなっていくのか。
りようさん、朗読に引き続きコラボさせて頂き、ありがとうございました🐈
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