【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-12〈前編〉
「女の子?1人うちでジュース飲んでる子がいるけど……」
「4歳くらいで、白いニット帽被ってるよ」
こちらの状況など露知らず、のんびりと答えるあすかに、俺は思わず溜め息をついた。
「ユウちゃん?何かあったの?」
「おつかいの帰りに迷子になってる女の子がいるって騒ぎになってんだよ……
すぐ行くからそのまま待ってて」
電話を切るや否や、いろり庵に向けて軽トラを走らせる。
……ああ、紗希子さんにも見つかったって連絡しないと……
***
「娘がご迷惑をおかけしまして、本当にすみませんでした」
「こちらこそ、私が娘さんを引き止めてしまったせいでご心配をおかけしてしまって申し訳ありません……!」
俺がいろり庵に着いた時には既に女の子のお母さんが来ていて、あすかと話をしていた。
あすかは自分が女の子にジュースを飲ませていたせいで周囲が探し回る羽目になったとでも思っているのだろう、顔を青くして平謝りしている。
「お詫びと言っては何ですが、ご家族様の人数分たい焼きをお包みします」
「そんな、それは違います……!
むしろお世話になったのはこちらですし、代金はきちんとお支払いします。私も娘も、いろり庵さんのたい焼きが大好きなんですよ」
あんこ1つとクリーム2つお願いします、と言いながら財布を取り出すお母さんに折れたのか、あすかは申し訳なさそうにしつつも代金を受け取った。
「お待たせ致しました。あんこがお一つとクリームがお二つです」
たい焼きが入った紙袋を手に、「おねえさん、ありがとう!」と女の子が一生懸命にお礼を言う。
それを見て、あすかはようやくホッとしたような笑顔を浮かべた。
***
「そういえば、何でユウちゃんは女の子が迷子になってるって知ってたの?」
母娘が店を後にしたところで、あすかが俺に尋ねた。
「配達の帰りに、紗希子さんから電話があったんだよ。
さっきの子、こども食堂の常連らしくて、初めておつかいに行くから気にかけて欲しいってお母さんから聞いてたんだってさ」
「あ〜、そういうことね」
「あの子、自分で店に入って来たのか?」
「うん。 泣きながら入って来たから、どうしたの?って聞いたら、おうちに帰れない、って。
しましまの壁がいっぱいで、道がわかんなくなっちゃったって言ってた」
「しましまの壁……
………もしかしてシャッターのことか……?」
どこもかしこもシャッターが降りた商店街。
小さな子どもにはどれも同じに見えてしまって、場所の区別などつかないのかもしれない。
そんなところにも過疎化の弊害が及んでるのか……。
「初めて1人で買い物に行って迷子になっちゃうなんて、きっとすごく怖かっただろうな。
……そういえば、私たちが初めておつかいに行った時も大変だったんだよ」
昔を懐かしむかのように、あすかは遠くを見つつクスクスと笑う。
「ハルくんとユウちゃんと3人で神社に熊手をもらいに行ったんだけど、ユウちゃんが迷子になっちゃって」
「………全然覚えてねえ……」
「確か、ユウちゃんはまだ3歳くらいだったんじゃないかな」
懐かしいなあ、と呟くように言いながらあすかが語り始めたのは、俺の知らない、俺らの子ども時代の話だった。
***
前回の更新からかなり間が空いてしまいましたが、某テレビ番組から着想を得た12話をお送りさせて頂きました…!
3人が初めておつかいに行ったのは、あすかさん&ハルくんが6歳、ユウちゃんが3歳の頃です。
その模様は後編にてお送りしますので、そちらもぜひ読んで頂けたらと思います☺️
最後までお読みいただき、ありがとうございました🌸
☆これまでのストーリーを確認したい方は、こちらからダイジェスト編と前話をお読みいただけます😊
〈人物相関図〉
〈ダイジェスト編〉
〈前話(11.5話)〉
*「あんこちゃんとクリームくん」作品集