【音楽×小説】LITMUS
想い人と結ばれ、心も身体も一つになる。
自分にそんな日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
「……ネラ、起きていたのか」
「えぇ、ヴァイス様」
「こら、今は様付けで呼ぶな。
今は、俺の恋人、だろう?」
「……そうね、ヴァイス」
だって私は、世界で最も愛しいこの人を殺めるために遣わされた暗殺者なのだから。
——この国で多大な権力を持つ貴族の一つであるリュミエール家。
私はこの家に仕えるメイドとして潜入した。
ヴァイスの父親である当主の信頼を勝ち取り、ヴァイス付きの専属メイドになるまで、そう時間はかからなかった。
そうして彼に近づき、ある程度信用を得た上で手にかけようと目論んでいた。
———だけど。
身の回りの世話を一通り任されるようになって、その生活を間近で見るうち、彼の人柄が想像とは違っていたことを知った。
仕事中は険しい顔をしていることが多いけれど、笑った顔はとても優しいこと。
凛々しい外見とは裏腹に、実は虫が苦手なこと。
甘いものが大好きで、ブラックコーヒーは飲めないこと。
そうやって、ヴァイス・リュミエールという伯爵家の子息の、社交界では見せない“本当の顔”を知っていくうち、専属メイドとしても、暗殺者としても抱いてはいけない感情が芽生えてしまった。
……これでは本来の任務が遂行できない。
最初は、自分の気持ちに蓋をして、気持ちを悟られないようにとそれまで通りに振る舞っていた。
それなのに。
「素の自分を晒すことができるのはお前だけだ」なんて抱き寄せられたら、想いを抑えることが出来なくなって。
私は、彼と心を通わせてしまった。
ターゲットに恋をした挙句、深い仲になったなんて知られようものなら、確実に私の命は無い。
ルールを破った者に対する制裁は血縁者であろうと関係なく下す、それが私の生家の鉄則だ。
——それに、この世で一番愛した人の命を奪った挙句、この人がいない世界で生きていくなんて絶対にできない。
ならば。
この人を殺めた後に私も後を追う、もうそれしか方法は無い。
「なぁ、ネラ。
お前はずっと、俺のそばにいてくれるよな?」
「……えぇ、もちろん」
嘘はついていない、本当にも触れない。
あなたには言えない、私の秘密——。
「ねぇ、ヴァイス。喉、乾かない?」
「……あぁ、確かに乾いたな。水を一杯頼めるか」
「分かったわ。すぐに持って来るわね」
「ありがとう」
〜終〜
***
緑黄色社会さんの「LITMUS」という曲を基に小説を書いてみました!
ちなみに、ネラはイタリア語で「黒」、ヴァイスはドイツ語で「白」という意味です🙇🏻♂️
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