【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-9
「悪いな、わざわざ取りに来てもらって」
「ううん、ユウちゃんも忙しいだろうし。
………それにしても、本当に大量だね、マリーゴールド。何でこんな一気に仕入れることになったの?」
「紗希子さんがまたこども食堂でイベントするらしくて、それに使うんだと。……確か、死者の日、とか言ってたかな。
それで多めに仕入れたんだけど、父さんが量ミスったらしくて。もらってくれて本当助かる」
「ううん、ちょうどおばあちゃんのお仏壇のお花取り換えなきゃって思ってたし。
………それにしても、死者の日ってどっかで聞いたことあるような……
……あー!思い出した!」
「うわ、びっくりした。急にデカい声出すなよ」
「ごめんごめん。ほら、前にハルくんがメールで写真送ってくれたやつじゃない?確かスマホに写真が残ってた気がするな……
……あ、あった、これだ」
———写真を撮るのが好きで、世界中を飛び回ってはたくさんの人々の笑顔を収めていたハルくん。
私のスマホに映し出されたその写真は、メキシコの「死者の日」というお祭りの様子を写したものだった。
たくさんのマリーゴールドやろうそくで派手に飾りつけられた祭壇、色鮮やかなガイコツモチーフのメイクをした街の人たち。
内容は日本のお盆に近い感じだけど、メキシコでは賑やかに楽しく亡くなった人の魂を迎え入れるのだと、ハルくんからのメールに書かれていた。
「死者の日、ねぇ。……兄貴も、どっかから俺らのこと見てたりすんのかな」
「私は、ハルくんはずっと見守ってくれてると思うよ。
……ハルくんが写真撮るようになったのってさ、確か、3人で影送りしたあの日からだったよね?」
「あー、そういえばそんなこともあったな。懐かしいな……」
私たちの頭の中は、すっかりあの日へと引き戻されていた。
***
「あー、楽しかった……!」
「お前があんなに笑うなんて初めて知ったよ。ちゃんと笑えんのな」
「だってハルくん、近づいて来る度に変な顔するんだもん……!」
「変な顔とか失礼だなー、ちょっと面白い顔しただけじゃん」
「それを変な顔って言うの!」
学校が終わった後、私はハルくんとユウちゃんと一緒に「だるまさんがころんだ」をして遊んでいた。
『だーるーまーさんがこ・ろ・ん・だ!』
鬼をしていた私が振り向く度、ハルくんは変な顔をしながら近づいて来ていて。
笑いがこらえられなくなった私は、背中をタッチされるまでもなくハルくんに負けたのだ。
「でも、本当に楽しかったなぁ。今日のこと、ずっと忘れずにいたいね」
「……なぁ、影送りしようぜ」
ぽつりとつぶやいたハルくんは、立ち止まるときゅっと私の手を握った。
つられて私も隣にいたユウちゃんの手を握る。
「ねぇ~、見えない~」
「しー、静かに。黙って集中しろ」
ちょっと泣きそうになるユウちゃんをハルくんがたしなめながら、私たちはじーっと影を見つめ続けた。
「……あ、見えた………!」
キレイだね、と話しかけようとハルくんの方を見ると、ハルくんは笑って言った。
「今日はあすかの本当の笑顔を見た記念日だな!」
ドキッ。
少しだけ心臓が跳ねたのが分かって、私は不思議な気持ちになる。
……どうして、私は今、ドキッとしたんだろう?
「どうしたら忘れずにいられるかなぁ〜」
私の戸惑いなんて気づくことなく、ハルくんは空を見上げながら言った。
「………写真、とか」
「それだ!ユウ、お前いいこと言うなー!
俺、写真撮るよ!」
「それなら、ぜってぇ形に残るもんな。
今日のこと、忘れずにいような!」
「うん。私も忘れないよ」
***
それ以来、ハルくんはおじさんのカメラを持ち出して、商店街にある写真屋さんに通いつめるようになった。
幼かったハルくんが描いた夢は、ハルくんと一緒に大きくなって、大人になると共に現実のものになって。
……大きく飛躍しつづけていた夢と一緒に、ハルくんはいなくなってしまったのだけど。
いなくなったハルくんの代わりに私たちの手元に残ったのは、あの頃写真の練習に明け暮れていたハルくんが撮った、私やユウちゃん、おばあちゃんが写ったいくつもの写真だけだった。
***
第9話も、前回に引き続きあすかさんの子ども時代をメインにお送りしました!
ユウちゃんの兄であり、あすかさんの幼なじみであるハルくんの人物像が少しずつ明らかになってきました。
ハルくんやユウちゃん、あすかさんの間にあったことや、ハルくんがいなくなってしまった理由など、今後も少しずつお届けできたらと思います!
ちなみに、冒頭に登場したメキシコの「死者の日」は、
・亡くなった人のことを思い出す
・お花が飾られる
・国際色のあるイベント
という要素から、ハルくんを連想してもらうために入れてみました。
そして「死者の日」、現地では10月31日~11月2日に行われるそうです!
タイムリーですね✨
最後までお読みいただき、ありがとうございました😊
*「あんこちゃんとクリームくん」作品集