バイオジェン、エーザイ、アルツハイマー薬Aducanumab(アデュカヌマブ)FDA新薬審査で何を指摘されたのか?
はじめに
6月7日にバイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー薬AducanumabがFDA薬事審査承認されました。下は、エーザイHPに掲載の承認を伝えるニュースリリースです。
エーザイ社:
このnoteは、FDAの判断、つまり、上の最後の文「本迅速承認の要件として、今後検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。」、の根拠をFDAの言ってることを鵜呑みにするのではなく、きちんと根拠となったデータから、薬効の何が問題なの、をみなさん自身でも評価していただくことを目的にしています。
注意:このnoteは投資を目的としたものです。医学的な判断のための情報提供を目的としていません。
もし、できるなら、英語の論文を各自読んでいただけばFDAがどんな部分で苦悩したのかわかると思います。FDAの審査議事録だけをよんでいると、他者の判断結果しかわかりません。どれだけ薬が効いていたのか、みなさん自身でも見ることがバイオジェンやエーザイ投資のリスク、損切りのタイミングをより正確に設定できると思います。
このnoteにかかれた参考文献を読むだけで全体像がつかめると思います。
アルツハイマ病ーってなに?
アルツハイマー病がどのように始まるのかは、まだわかっていません。どのように起きているのかによって「コリン仮説」「タウ仮説」「アミロイド仮説」の3つの主要な仮説が考えられています。バイオジェンとエーザイが注目したのが「アミロイド仮説」となります。どのような原因にせよアルツハイマー病の脳内には老人班がみられ、その老人班からはアミロイドβが多く検出されることがわかっています。
下の図左上の脳を見てください。脳の左半分が健康な脳で右半分がアルツハイマー病の脳です。高齢者の肌に見られるような黒いシミが脳の内部に見えています。さらに脳全体の萎縮がみられます。これらがアルツハイマー病患者の脳の見た目の特徴です。
この黒いシミ(老人班という)を調べるとアミロイドβが集積していることがわかっています。下の図左下のAmyroid PETと書かれている図を見てください。左は健康な68才の脳で、右はアルツハイマー病の脳です。アミロイドβが存在するところでは赤く光るような装置で脳をスキャンした結果がこのようになります。アルツハイマー病の脳ではアミロイドβが集まっていることがわかります。
引用;Biogen ADUHELM Launch Webcast
バイオジェンとエーザイの薬:アデュカヌマブ
アデュカヌマブは、アミロイドβを取り除いたらアルツハイマー病治るんじゃないのかという考えで作り出された薬です。
アデュカヌマブ投与によってアミロイドβは減少する
下の表は、アルツハイマー病にかかった患者さんを
①なにも投与しない(疑似薬を投与します)、
②アデュカヌマブを少量(Low-dose ADU)投与、
③アデュカヌマブを多量(High-dose ADU)投与、
の3つのグループにわけ, Amyroid PETでスキャンしアミロイドβの量を確認した結果です。
アデュカヌマブ投与前と投与後のアミロイドβの量の変化量は、「Adjusted mean change in SUVR from baseline」(調整後SUVR変化量)の欄で見ることができます。SUVRはAmyriod PETによるアミロイドβの計測量のことです。
ENGAGEのところを見ると「①なにも投与しない」患者さんは、−0.005であるのに対し、②アデュカヌマブを少量(Low-dose ADU)投与:−0.168、③アデュカヌマブを多量(High-dose ADU):−0.238 となり、アミロイドβの量が大きく減少していることが分かったわけです。ちなみに数字の右上の星印は、その差が明らか(有意)であったことを示しています。
EMERGEも同様の結果となっています。
アデュカヌマブ投与によって認知行動は改善する?
ここがFDAパネルでもめた内容となります。
次に検証したのがアデュカヌマブ投与によって認知行動(普段の生活行動)は改善するのかどうかという事です。
上と同様、
①なにも投与しない
②アデュカヌマブを少量(Low-dose ADU)投与、
③アデュカヌマブを多量(High-dose ADU)投与、
の3つのグループにわけ、CDR-SBとよばれるアルツハイマー病を口頭質問や行動によって診断する臨床認知症評価尺度を使い、アデュカヌマブ投与によってどのくらい普段の生活行動に変化があったかを調べました。下はCDR判定表の一部です。下のように「忘れ物するのか」「時間の間隔あるのか」などによってその認知症の度合いを判定するものです。
引用:
公益財団法人長寿科学振興財団HP:第3章 認知症の診断 4.認知機能検査
The Clinical Dementia Rating (CDR) : Current version and scoring rules
アデュカヌマブ投与によるCDR-SBの変化
下は、アデュカヌマブ投与によるCDR-SBの変化を78週にわたって検査した結果です。縦軸:CDR-SBの治験開始時からの変化量、横軸:時間(週)を示しています。いままでと同じように3つのグループに分けました。
黒線:①なにも投与しない、人のCDR-SB
緑線:②アデュカヌマブを少量(Low-dose ADU)投与、
青線:③アデュカヌマブを多量(High-dose ADU)投与、
を示しています。線が下にさがればさがるほど、認知症は改善の傾向をしめすということになります。
引用:Evaluation of aducanumab efficacy in early Alzheimer’s disease at AD/PD
全体的には、どのグループも認知症が進んでいます。しかし、緑、青と黒線を比較すると差がみられます。特に青線と黒線の78週後の点(図の右端)を比較すると統計的に有意な差がみられました(☆の印は有意差を示します)。
これが、バイオジェンとエーザイ側が主張する薬が効くんだというデータです。確かにプラセボと比較すると③アデュカヌマブを多量に投与した患者さんは、認知の悪化が改善しています。
これからはわたしの想像です。これに対し、FDAの審査員は、「アミロイドβがアルツハイマー病の主たる原因というのなら、今回の治験によって、①のグループと差があることを示すのではなく、認知症が治る傾向にあることを示さないといけないのではないか?」という事を言ったのではないのかなと思います。
多分、アミロイドβがアルツハイマー病の主たる原因ではない気がします。何か複合的なことが起きているような気がします。
しかし、今回の薬を承認しなかったら、アルツハイマー病の方はまたずっと待つ、認知症になった場合待つと言う感覚もないのかもしれませんが、苦しい生活を強いられてしまいます。それよりも少しでも改善傾向があったとして承認することをFDA審査員は決定せざるを得なかったのかなあと思います。
以上、Aducanumabの何が問題なのか、データを使って調べてみました。
他の薬ではどのくらい、改善傾向があるのかなどの情報を私はもっていないため、何もいう事ができませんが、とりあえず一つ目のFDA薬事審査について覚えたので次の他の薬でFDA薬事審査があった場合今以上の何かが言えるようになるのではないかと思います。
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ある方からのコメントがありました。
「医薬品の試験では、主要評価項目が重要で達成できなかったらその試験は普通失敗と評価されます。今回はメインエンドポイント未達なのに代替エンドポイントで評価し承認しましょう。」ということになってしまったので騒がれている。
とのことでした。その通りですよね。このへんについてもいろいろ調べていきたいです。
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参考文献
1. 筑波大学医学部の先生によってまとめられた論文:アルツハイマー病:分子病態と治療戦略
Biogen HP:
2. Biogen ADUHELM Launch Webcast
3. Evaluation of aducanumab efficacy in early Alzheimer’s disease at AD/PD
アデュカヌマブの治験結果をまとめ、評価した論文:
CDR-SB: アルツハイマー病を口頭質問によって診断する臨床認知症評価尺度
5. 公益財団法人長寿科学振興財団HP:第3章 認知症の診断 4.認知機能検査
6. Neurologyの論文:The Clinical Dementia Rating (CDR) : Current version and scoring rules
下も参考になるのかも。
nature: Landmark Alzheimer’s drug approval confounds research community