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冷徹な頭脳と暖かい心

はじめに

大学時代、アルバイトをしたいと父親に相談したことがあります。すると、父親から「大学は学問をするところで小銭稼ぎをする場所ではない」と一蹴されました。そんなわけで、ヒマになったので単位にならない他学部の講義によくもぐっていました。

その中で、記憶に鮮明に残っているのが岩田規久男先生(元日銀副総裁)のお話です。岩田先生はアルフレッド・マーシャル(経済学者)が1885年にケンブリッジ大学の講演で述べたとされる「冷徹な頭脳と暖かい心」について強い語気で喋っていらっしゃいました。

冷徹な頭脳と暖かい心

アルフレッド・マーシャルは教授就任演説で「冷徹な頭脳と温かい心(Cool Head but Warm Heart)をもって、自分のまわりの社会的苦悩に立ち向かうのだ」と述べ、ました。経済学を志す者は、この両論併記で社会と向き合わなければならないと訴えたのです。

このとき、「冷徹な頭脳」を「暖かい心」に仕えさせることは絶対にしてはならない。それでは根拠薄弱なお説教にすぎないからです。しかし、世の中では道徳を説く説教者を崇め奉り、その人を神格化する人が多すぎる。まずは冷徹な頭脳を持たなければならない。

しかし、冷徹な頭脳だけではいけない。経済学は身近な人々、ひいては自分が想像もしない苦悩に打ちひしがれる人のために存在する。暖かい心を胸に、事実や論理に基づいて社会問題と向き合い、学問の発展に努めなければならない。

・・・と述べた上で、岩田先生はデフレ経済を憂いながらさまざまな評論家を名指ししながら「アイツら、何なんですかね?」等と悪態をつきながら経済理論について軽快に解説なさっていらっしゃいました。

実務家として

僕は、アルフレッド・マーシャルの金言(冷徹な頭脳と暖かい心)は、実務家にはすべて当てはまるコトだと思っています。日本では、たとえば松下幸之助(経営者)は次のような言葉で情と理について述べています。

経営を進めて行く時に大事なのは、事に当たってまず冷静に判断すること、それから情を添えることやな。この順番をちゃんとわきまえておかんと失敗するんや

江口克彦文『松下幸之助 散策・哲学の庭』PHP研究所)

企業は市場経済の中で生き残るために活動します。結局は論理が支配する世界で、情に流されていたらそもそも企業の存立が危ぶまれます。だから「かわいそう」とか「たのしい」という感情よりも筋が通った儲かる論理を構成し、必要なことをする「冷徹な頭脳」が必要になります。

しかし、人間は「感情」の生き物です。感情が豊かであってこそ仕事というのは楽しくなるものです。だから、常に暖かい心で、身近な人の笑顔のために日々を生きること。互いに「暖かい心」を贈り合うことそれ自体が明日の働き甲斐につながるのではないでしょうか。

企業として生き残るための「冷徹な頭脳」と、身近にいるメンバー同士の「暖かい心」を両論併記で勝負する。その中で「自分のまわりの社会的苦悩に立ち向かう」のが、実務家としての精神なのだろうと思います。

おわりに

学問や事業というのは、身近な人の社会的苦悩を解決するための1つの「機能」です。このとき、誰かを助けるために必要になるのは「冷徹な頭脳と暖かい心」で、これは分離するものではなく、必ず両論併記で自家薬籠中の物にしなければなりません。

そうはいっても、人間というのは「暖かい心」に引き寄せてしまうものです。だから、意識して「論理」とか「事実」と口酸っぱく自分に言い聞かせるくらいで、ようやく両論併記できるのではないかというのが、岩田先生が語気を強めていらっしゃった理由のような気がしています。


最後に

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