映画感想文│『REPLICAS』気味の悪いSFサスペンス
私の頭の中には定期的に映像作品を求める波がやってくるので、最近ポツポツと映画を観ている。面白そうだと思った映画しか観ない私だが、それでも面白いと感じる映画とそうでない映画がある。
当たりもあればハズレもあるのが楽しみではあるのだが、たまには感想でも残しておけば整理や分析に役立つかも知れない。当たりを多く引けるようになるかも知れない。そう考えて感想を書いてみようと思った次第である。
感情移入が難しい登場人物たち
今回観たのはキアヌ・リーヴス主演の「REPLICAS」。
今見ると評価はそれほど高くなさそうだが、私は誰かの意見に左右されたくないので、事前にこういうものを調べることがない。鑑賞が終わった後ならば、他の人の視点を調べる為にザっと読むことはあるのだが、それは大抵面白くなかったり消化不良だった時のことである。
さて本作の感想だが、結論から言えば少し退屈だった。面白くないというわけではない。そういうわけではないのだが、どうも集中できない。多分どの登場人物にもイマイチ感情移入できないことが原因だ。常に置いてけぼりなのだ。
映画を観る際には、実際に自分が同じ状況に置かれたら…などと考えるものだが、本作の登場人物が選択する行動はどれも不自然な感じがして、それが原因で感情移入できなかったのだと思う。
特にラストシーンは「気味が悪い」の一言に尽きる。結局ロボットと手を組むことにしたオジサンも、あれだけ苦悩した上に小細工を重ねたのにも関わらず娘を呼び起こしたキアヌも、そしてそれを微笑みながら受け入れ、涙ながらに抱き締める奥様も、どれもこれも理解を超えていて気味悪かった。しかしこれは貶したいわけではなくて、薄気味悪いハッピーエンドという独特の後味は嫌いではなかった。むしろ賞賛したい。
小林泰三や鈴木光司の小説が示すように、ホラーとSFはかなり近いものなのだ。だから薄気味悪いSFというのは正しいSFなのだ。と、私は信じて疑わない。
作り込みや脚本の甘さは目立つが…
野暮な指摘にはなってしまうのだが、細かい部分の作りの甘さがイチイチ気になってしまう作品でもあった。まず冒頭で例のハイテクなロボットが登場してひと悶着あるわけだが、観ている側としてはその時点でかなり先の未来を想像してしまうだろう。だが他の部分は基本的に現代と差異が無く、自動車も視界不良で呆気なく事故ってしまう。スマホもパソコンも見慣れたものだし、船着き場は南京錠で施錠してあるのみだ。
しかしこういった指摘をしていては多くのSF作品を観られない。スターウォーズの艦隊を見て、無重力空間なのに同じ方向を上にして移動することに突っ込んでも仕方ないのだ。だからわざわざ指摘したくはないのだが、終盤で例のロボットが大立ち回りをして見せた時、私は顔をしかめてしまった(針を刺した後もピンピンしている時点でかなり片眉が吊り上がっていたが…)。そんなに動けるロボットならば人間の頭脳など載せない方が安全ではないだろうか。軍上層部は一体何を考えているのか。しかも量産などしてしまったら、確実に反逆されてアイロボットやターミネーターの世界に突入していまうだろう。ロボコップはオンリーワンだから辛うじてギリギリ成立していたのだ。
そういう突っ込みどころは非常に多い映画だと思うが、その辺を全て「外連味」の一言で片付けてしまえば、これはこれで結構面白い映画でもあると思う。実際私は最後までキッチリ観終わった。
テーマは重いが軽い気持ちで
本作は恐らくかなりの低予算映画だろう。しかしあの限られたセットや空間の中で、観る者の想像を超える大きな話を展開させていたと思う。努力と工夫の跡は随所に見られた。多少の無理は強引且つ素早い展開で塗り潰していくという選択は間違っていないと思う。中盤からの意外な展開には一瞬思考が停止してしまう程だった(その割に余り意味の無い病院のシーンが妙に長いあたりもジワジワ込み上げてくるものがある)。
そしてキアヌが程良くカッコ悪い状態に仕上げてあり、細かな部分ではあるが、そこも良かった。もし本作のキアヌがコンスタンティン状態で撮られていたら、強すぎる違和感によって観る側の処理が追いつかなかっただろう。そして何より、「ED-209」のようにウニウニ動くコマ撮りロボットが懐かしい気持ちにさせてくれた。最近のヌルヌル動くCGとは違った味わい深いアクションシーンを久々に観ることができた。重ねて言うが貶しているわけではない。
もう一度観たいかと言われると即答はし兼ねるが、充分に楽しめる作品だった。クローンや記憶操作など倫理的に重厚なテーマが根底にありそうな雰囲気を感じつつ、ポップコーン片手に軽い気持ちで鑑賞するのが正解だと思う。
このモヤモヤしたレビューで気になった諸兄には是非一度お試しいただきたい。男の子ならば最後まで観られる筈だ。多分。
おわりに
映画の感想を書くのは難しい。どこまで本編の内容に触れるかが特に難しい。
私はたまに、観たことのない、そして今後も観ることがないであろう映画の感想をネットで拾って読むことがある。そこには「ネタバレあり」の表記がされていても、大抵の場合は程々に覆い隠して感想が書かれているものである。だからこそ私は映画本編を観ることなく、それらを楽しむことができるのだと思う。本編の内容に沿ってベッタリと感想や考察が書かれていたら、全くついて行けないからだ。
だから私もそういう雰囲気を目指したのだが、果たして如何だろうか。
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