25.さねかづら（百人百色）
25.名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られで来るよしもがな（後撰集 恋 700）三条右大臣
名にし負はば……名前に持っているのならば
さねかづら……つる草の一種。「さね」は「さ寝」（一緒に寝ることに通じる）
逢坂山のさねかづらが、会って一緒に過ごすというその名の通りだったら、さねかづらをたぐるように、こっそり、あなたのところへ行く方法があればなあ。
三条右大臣（さんじょうのうだいじん）（873-932）藤原定方。京都の三条に住み、右大臣であったことからこう呼ばれました。平安時代中期を代表する政治家でした。
【ここから物語】
（ここは未来）
ぼんやりとした ここはどこだ。
逢いたい どこの誰に。
目の前にツルのつたう 一体どこまで。
ひとに知られる ことのない場所。
時空に入った亀裂をつたう涙のような植物のツタがあった。
植物学者やガーデナーたちは、それはさねかづらだと言った。
辿ればおそらく逢えるだろうとも。
白昼夢で出逢った。時空を超えた 私の恋人よ。
。。〜〜。〜〜〜
（ここは過去）
赤い実がきれいですわね。
えぇ。
それ、誰からの贈り物なの？
そうねぇ。
お姉さまったら、とぼけてらっしゃるのね。
まぁ、そんなこと。
このツルの実を贈った方は、お姉さまのことがお好きでらっしゃるのよ。
また、ませたことを言うのね。
お姉さまこそそんなにぼんやりなされてばっかり。
そうねぇ。
良いですわ、私が調べますから。
えっ。
お姉さま！ 赤い実のツル、調べましたわ。
あら、早いことね。
この植物はね、さねかづら。「逢う」の枕詞よ。人目を忍ぶ恋なのですって。お姉さま。お心当たりあって？
え？ そうねえ……。
（ないことはないかもしれない。けれどもそれは、信じられない白昼夢で出逢ったようであり、この国のこの時代の人間ではないような、不思議なお方でした……。そのようなことを言っても、おかしいわって笑われるだけね……。でも……）
お姉さま、お心当たりのあるのですね？
……。
ご安心なされませ。私も妹としてお姉さまの恋をお手伝いいたしますわ。
ふふ。その気持ちだけはありがとうね。でも……。
夕方になり、空があかくそして星が輝きはじめた。さねかづらは時空の芯をつたうように、ゆらりと揺れていた。
ミシ、ミシ、とさねかづらのツルが泣いた。
お姉さま……、さねかづらが……。
し。大丈夫よ。
お姉さま……。
大丈夫。安心してね。
さねかづらは夕陽から夕暮れの闇にかけてツルを大胆に遠くまで伸ばして、それは時空の亀裂をつたって、贈られたさねかづらとリンクした。
さねかづらはフルフルと震えていた。
フルフルと、フルフルと震えていた。
姉と妹は、手を取り合ったまま、部屋の隅で目をぎゅっと閉じて息を潜めていた。
誰かの気配がする。
それは白昼夢で出逢った方に違いないと思われた。
ドキドキと脈打つこの身が、近づくことを勧める。
でも、もう二度と元へは戻れない気がして。妹を守らなければという思いがして。ただ息を呑み込んで、隠れている他なかったのだ。
フルフル、フルフル……。
……。
さねかづらの震えが止まった。
姉と妹が、目を上げると、そこは何事もなかった。いつもの部屋だった。
ただ、闇が遠くまで続いているように思われるばかりであった。
お姉さま？
……さ、安心して。もう大丈夫。
……？ お姉さま、泣いてらっしゃるの？
えぇ、大丈夫。大丈夫だから……。
。。〜〜。〜〜〜
（ここは未来）
研究は失敗だった。
いや。正確に言えば、実験は成功した。
が、いわゆる私が失恋したということか。
あの日、白昼夢で出逢った時から、好きあっていたと思っていたのだが……、思い込んでいただけなのかもしれない。
なんてこったぁ。
タイムトラベル植物『さねかづら』の研究。
あゝ、時空を超えた 私の恋人よ。
花言葉は「また逢いましょう」なのさ。
その時まで。この物語は終わらないのさ。
〜♪
名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られで来るよしもがな
（あとがき）
SFになりました。いきすぎた片想いっぽいですね。ちょっとこわい。
今回はあまり調査をせずに勢いで書きました。ので、詳細があっているか保証出来ずに申し訳ありません。
読みかけの本、『美貌の女帝』（永井路子）の場面を思い出しながら見習ったので、場面の様子（？）が似ているかもしれません。どうもすみません。
どうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
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