物語(A):何の意味もなく
PJさん曲
A 『世界の約束 /PJ』
物語:何の意味もなく
夕日が沈む。
間に合わなかった。約束に。
息を切らして走ってみるのが、せめてものつぐない。
「ごめん……」
私は、何の意味もなかった。
友達はいつまでも笑ってる。
思い出の中で。
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「どうした?」
急に彼が顔をのぞきこんだ。
「え? ……何でもないよ」
「何でもない?」
「何でもない」
思い切り微笑んだつもりだったが、彼の表情をみることがこわくて、顔をそむけた。
「少し、休むね」
「うん、休みな」
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いつかの約束は。
いつまでも果たせないまま。
私は、何の意味もなかった、あの夕方を今でも考えてしまう。
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今日は大きな公園に彼とお出かけをした。
広場にシートをしいて座る。
青空が広い。
「いい空だね」
「本当だね」
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しばらくして、彼はソフトクリームを買うという。
「待っててね」
「うん」
私はここで待っていることにした。
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青い空に白いほわほわ雲が浮かんでいる。
風は小さい。
あたたかい。
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彼はまだ帰ってこない。
ソフトクリーム屋さんは行列しているのだろうか。
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彼は、まだ来ない。
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あまりに遅いので、シートをたたんで探しに行くことにした。
近くにはソフトクリーム屋さん。
……いない。
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辺りを探したのだけれども。
見つからなかった。
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迷子……?
いや、迷子というには、もう大人すぎる。
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怒らせた……?
何かしたかな……。
思い当たることは、ありすぎる。
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もしかして、何か事故とか怪我とか……。
急に不安が増した。
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広い公園を、探しまわる。
時間だけが過ぎてゆく。
不安で涙が溢れ流れた。
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いつかの約束と同じだ。
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夕方。
ついに会えなくて。
広場を通り、ソフトクリーム屋さんの前を通って、門へ向かった。
あ。
門に、いた。
「どこいたの!」
「ここ」
「心配したよ! ずっと探して!」
「会えてよかった。ここにいれば、会えるかなって」
「せっかくの、楽しい一日だったはずなのに」
「……」
「……何の意味もない一日だったよ……」
「そうでもないさ」
「え?」
「大丈夫だよ」
彼は微笑んだ。
「……そう、かな」
「また来よう」
「また……」
「また一緒に空眺めに。ソフトクリームも!」
彼がいたずら小僧のように笑ったので、なぜか思わず笑ってしまった。
「……今度は迷子にならないように!」
「えー! 迷子はそっちでしょ?」
「えー!」
……
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さて。
迷子は、彼だったのか。私だったのか。
そして。
今日は何の意味もない一日だったのか。そうでもなかったのか。
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まあ、どちらが正解というのは、あまり意味はないだろう。
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ところで。
私の、何の意味もなかった、はずの焦りと悲しみと不安の日々についてだが。
大丈夫だよと、彼がそっと微笑みを教えてくれたことは確かである。ような気がする。
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その後も、またいつもの日々を過ごしている。
今日も私は、何の意味もなく、彼とそっと微笑んでいる。
おわり
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A 『世界の約束 /PJ』
以上、【 うたスト 】 歌からストーリー︓歌を聴いて物語を作ろう︕
への、応募作品でした。
どうも、ありがとうございました。