ちょっとよく分らない
私の話を聞いてください。実話です。エッセイかもしれません。ひとつ言えること。「それはネコミミをかじるようなもの」……。
夕方近く急に万葉集の本が入り用になりました。図書館は定休日。本屋は二駅先かもしくは大型書店なら繁華街へ行くべきでした。しかし私は近所の少し離れた小さな小さな本屋を目指したのです。駅から家へ帰りを急ぐ人々に紛れ込んで。小さな本屋なのでやっているかどうか疑問でした。
ゆったりと曲がった道をゆくとその小さな本屋に火が灯されていました。中を覗くとだァれもいない。透明な硝子戸は手動で少しばかり空いていました。平気な風を装いながらカラカラと硝子戸を開けて入ると。りろりろりろんと曲が鳴り、奥から奥さまがにこっとしました。
「いらっしゃいませ」
「あ、◯☓△※……」
もしゃもしゃと訳の解らないうわ言を言いながら棚をツーと眺めてゆきました。『万葉集』あった。『良寛歌集』にも心は揺れたのですが。とにかく『万葉集』を手に取りレジの処へ。奥さまはフフっと微笑みフェアーの小冊子と共に売ってくださりました。いつの間にか開け放たれた硝子戸は夕闇に覆い尽くされてゆくところでした。
私は慌てて店を後にしました。奥さまが遠くで微笑みます。「ありがとうございました」と言われたのか「それはネコミミをかじるようなもの」と言われたのか見当もつかぬまま。私は夕闇の曲がりくねった道を歩いてゆきました。
『そうあれは猛暑の夕闇。じわぁーと汗のモワァーと大気の入り混じる頃。天地の分れし頃の太古の記憶を蘇らせるように。天と地はこの夕闇に入り混じっていたのであった。薄暗闇の曲がりくねる道を辿れば。灯り少なく。おんや? こんなところに喫茶店かと。迷い込むには持って来いの本を手にしていた。それなのに。立ち止まれずに四辻を目指し。立ち戻れずに天と地の交わりの光の消えゆく西の彼方へ向かう。「それはネコミミをかじるようなもの」どこかで幽かな囁きと。聴くか聴かぬかその瞬間に。あ。と思う。いつもの町の十字路。帰ってきたと云うべきか。旅の途中の戯言か。』
という詩を思いつきましたよ。皆様。帰り道には重々気をつけましょう。只今は行きつけの喫茶店でこれをしたためております。あぁ。ケーキが苦い。
(931文字)
ありがとうございました。
ありがとうございました。
すみません。ルールに則ってるかどうか、ちょっとよく分らないものですが……。