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ストーリーで学ぶ|美咲と里奈の温泉旅行 ~年末年始に見つけたビジネスのヒント(新春書下ろし短編・後編)

【登場人物】

今井美咲(二十九歳)

  • 職業: システム会社の営業に異動して1年目(同社でSE経験6年)

  • 資格: 応用情報技術者、中小企業診断士の勉強中

  • 趣味: カフェ巡り、サッカー観戦

佐伯里奈(二十九歳) 

  • 職業: 人材派遣会社の総務、美咲の大学時代の友人

  • 資格: 中小企業診断士、行政書士、日商簿記検定1級

  • 趣味: ヨガ、読書、写真

【前編のあらすじ】

年末、仕事納めを終えた美咲は、
大学時代からの親友・里奈と
石川県の加賀温泉へ向かいました。

システム会社の営業として
働きながら副業でウェブマーケティングを始め、
中小企業診断士の勉強にも挑戦した一年でした。

温泉宿では5年前の卒業旅行を
覚えていてくれた女将さんの心配りに触れ、
料理の説明や接客を通じて、
価値を伝えることの大切さに気づき始めます。

夜、露天風呂に浸かりながら、
新たな気づきが芽生え始めていました。

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【美咲と里奈の温泉旅行・後編】

大晦日の夜。
二人は温かい年越しそばを食べながら、
遠くから響いてくる
除夜の鐘に耳を傾けていました。

部屋の窓からは、
雪に覆われた温泉街の光が優しく漏れています。

「この一年、本当に色々なことがあったわね」
里奈が感慨深げに言いました。

「そうね。
私、今年は特に自分の提案の仕方について、
ずっと悩んでたの」

美咲は箸を置いて続けます。

「でも、この宿に来て、
何か大切なことに気づいた気がする。
女将さんのように、
その先にある価値や想いを
もっと丁寧に伝えていきたいって」

「その調子よ。
あ、でも今日は仕事のこと考えるの
禁止だったわね」

里奈は優しく窘めながらも、
親友の成長を感心して見つめていました。

「ごめんごめん。
でも、この宿での経験が、
きっと明日からの私を変えてくれる気がして」

「分かるわ。私も同じこと感じてた。
さあ、新しい年を迎える準備をしましょ」

除夜の鐘が鳴り終わるころ、
二人は窓際で日本酒を
少しだけ口にしていました。
温泉街では時折、
人々の笑い声が聞こえてきます。

「来年は、
もっとお客様の気持ちに寄り添える
マーケターになりたいな」

美咲が夜空を見上げながら静かに言いました。

「その想い、絶対に叶うはずよ。
だって、あなたはいつも真摯に
お客様と向き合ってるもの」

新年の訪れを告げる除夜の鐘が、
温泉街に深い余韻を残していきます。

元旦の朝、二人は晴れ渡る空の下、
近くの神社に初詣に出かけました。
境内には、温泉街の人たちの笑顔が
あふれています。
艶やかな着物姿の家族連れ、
はしゃぐ子どもたち、
その光景に心が温かくなりました。

お参りを済ませ、
境内の縁側で甘酒を飲みながら休んでいると、
里奈が尋ねました。

「今年の抱負は?」

美咲は少し考え込んでから、
晴天の空を見上げて答えました。

「うーん、『一歩先の幸せを届ける』かな」

「素敵な抱負ね。
その言葉、まさに美咲らしいわ」

里奈の声には、
親友を誇りに思う気持ちが込められていました。

「実は昨夜、女将さんとお話する機会があったの」
美咲は甘酒を両手で包みながら続けました。

「女将さんって、
一人一人のお客様のことを
本当によく覚えていらっしゃるでしょう?
どうしてそんなに印象に残るんですか
って聞いてみたの」

「へえ、何て答えてくれたの?」

「『お客様の笑顔や言葉の端々に、
その方の人生の大切な瞬間が垣間見えるんです。
だから自然と心に残るのかもしれませんね』って」

里奈は感心したように頷きました。

東京への帰り道、
美咲は新しい決意を胸に抱いていました。

副業のクライアントへの提案も、
会社での営業も、
もっとその先にある価値を伝えていきたい。

そして、いつか自分の会社を作るときも、
この想いを大切にしていきたい。

「あのね、里奈」

新幹線の中で、
美咲は静かに切り出しました。

「女将さんは、最後にこうおっしゃったの。
『私たちにできることは、
お客様の大切な時間に
寄り添わせていただくこと。
それだけなんです』って」

「なるほどね。
だから美咲も『一歩先の幸せを届ける』っていう
言葉を選んだのね」

「うん。
私も、クライアントの未来に寄り添える
マーケターになりたいの」

そして、新年最初の仕事日。
美咲は早速その学びを活かしました。

クライアントへの提案書には、
サービスの説明だけでなく、
それを使う人の笑顔や、
実現できる未来の話を加えました。

「こんな提案書初めて見ました。
私たちの想いを形にしてくれてありがとう」

クライアントからそう言われた時、
美咲は温泉宿の女将さんの丁寧な説明を
思い出していました。
商品やサービスの向こう側にある、
人々の暮らしや幸せを見つめる視線を、
確かに学んだのです。

1月も中旬になって、
美咲は里奈とカフェで待ち合わせました。
いつものように窓際の席で、
二人はコーヒーを前に向かい合います。

「温泉旅行の後、仕事はどう?」と里奈。

「うん、すごくいいの!
あの時の気づきを活かして、
説明の仕方を変えてみたの。
そしたら、クライアントの反応が全然違うのよ」
美咲は嬉しそうに話を続けます。

「例えば、
美容室のホームページの提案をする時も、
『新規のお客様が増える』
『売上が伸びる』といった説明ではなく、
『落ち着いた空間で、
信頼できる美容師さんとゆっくり過ごせる』
といったような
お客様の立場に立った表現を使うようにしたの」

「それ、いいアイデアね」

「でしょう?温泉宿の女将さんみたいに、
その先にある想いを大切にしたら、
もっと深くクライアントと
通じ合えるようになったの。
それに、提案を準備する私自身も、
より一層やりがいを感じられるようになったわ」

里奈はコーヒーカップを置きながら、
じっと美咲を見つめました。

「あの温泉旅行で見つけたものって、
私たちにとって大切な宝物になったわね」

「そうね」

美咲は頷きながら、
手帳を開きました。

「あの時の気づきを、私なりにまとめてみたの」

~温泉宿で見つけた大切なこと~

①お客様の気持ちに寄り添う
・お客様一人一人の想いに耳を傾ける
・心のこもったサービスで感動を届ける
・細やかな心遣いを大切にする

②伝え方を工夫する
・数値や機能の説明だけでなく、その先にある価値を伝える
・お客様と一緒に実現したい未来を具体的に描く
・想いが響く言葉選びを心がける

③人間関係づくりのコツ
・一人一人との出会いを大切にする
・常に相手の立場に立って考える
・信頼関係を育み、長く続くお付き合いを目指す

「このまとめ、すごくいいじゃない」

里奈が感心したように言いました。

「ありがとう。これを見返すたびに、
あの温泉宿での体験を思い出すの。
そして、自分の原点に立ち返ることができるわ」

そして、美咲の手帳には、
新年の目標がしっかりと力強く書かれています。
『一歩先の幸せを届ける』

その言葉には、
温泉宿で見つけた大切な気づきが
込められていました。

窓の外では、
東京で今年初めての雪が
舞い始めていました。

年末年始に過ごした
温泉宿での思い出が、
これからの美咲の仕事に、
きっと新しい価値を運んでくれることでしょう。

(完)

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