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テート美術館展 光

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ
@大阪中之島美術館 2023.10.26 – 2024.01.14

イギリス・テート美術館のコレクションから「光」をテーマに厳選された展示。
18世紀末から現代までの200年に及ぶアーティスの創作の軌跡に注目する企画。

昨年の12月に行ったものですが、
記録として残しておきます✏️



まずは、最も見たかった、初来日のターナーの作品。

「光と色彩(ゲーテの理論)ー大洪水の翌朝-創世記を書くモーセ」(1843年)


豆知識ですが、
絵の具メーカーのターナー色彩(株)は
創業者がJ.M.W.ターナーのファンだったため
名付けられたそうです。

美大受験の色彩構成で大変お世話になる
アクリルガッシュの会社ですね。

アクリルガッシュ13本セット(12色)
https://www.turner.co.jp/brand/acrylgouache/ag-13c/


ちなみにターナーは大阪の会社なのですが、
ホルベインやサクラクレパスなども大阪です。
絵具メーカーが大阪に多い気がするのですが、なぜなんでしょう。


絵画に話を戻します。

イギリスの風景画を代表するイメージのターナーですが、
こちらは旧約聖書の創世記に登場する大洪水の、
ノアの方舟を題材にした作品です。

大洪水のあとに戻ってきた太陽の下、
中央に創世記を書くモーセ。
下方に描かれた沢山の人。

中心に描かれた蛇の杖と
その周りに大気のように感じられる円が描かれ
大胆な構図としても目を惹きます。


「光と色彩(ゲーテの理論)ー大洪水の翌朝-創世記を書くモーセ」(1843年)
と作品のタイトルにもなっている
ドイツの文豪・詩人として有名なゲーテは、
心理学的に色を捉えた自然科学者でもあります。


ゲーテは『色彩論』で
全ての色彩は光と闇の対立によって生まれるとし、
色彩をそれぞれプラスとマイナスに分けました。

プラスは黄、橙、黄赤など暖色、
活発で生き生きとした、内的欲求に溢れる気分にさせるもので
プラスの作用

マイナスは青、薄紫、紫などの寒色、
不安で弱々しい、憧憬するような気分にさせる
マイナスの作用

ターナーの絵画にはよく黄が用いられていますが、
作品の中では、黄色はプラスではなく
マイナスの面に傾いている様な気がします。

ゲーテに対するアンチテーゼ的なタイトルの様にも感じます。

それだけ当時のゲーテの、
色彩の持つ情緒的な力を強調した考えは
衝撃的だったということかもしれません。


色は光、
太陽の光の下で一瞬にして変わりゆく
自然の美しさはいつの時代も私たちの心を掴み、
そのあまりの雄大さに畏怖の念を抱く。

ターナーの絵画は、美しい一瞬の情景の前で
身震いするような感動を覚えたあのシーンに引き戻される感覚を
何度でも味わえます。

ターナーの影、闇、色彩、光の表現の
集大成ともが見られるようなとても美しい作品です。



「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」(1822、2011修復)

ジョン・マーティンのこちらの作品も
絵画の前に立つと、どこまでも続く奥行きを実際に感じられるような
圧巻の作品。

1979年に起きたイタリア南部のヴェスヴィオ火山での大噴火が題材です。
天変地異の圧倒的な力を描き出せる表現力。



ウィリアム・ローゼンスタイン 「母と子」(1903)


柔らかな光が心地よいローデンスタインの作品。
イギリスのロイヤル・アカデミー(王立芸術大学)の
校長を務め、どこか凛とした雰囲気の作品が多いように感じます。

絵の中で母親に抱かれているのは
画家の息子であるジョン。
大きくなってテート・ギャラリーの館長に就き
テート美術館ともゆかりの深い作品なんですね。



デイヴィッド・バチェラー「ブリック・レーンのスペクトル 2」(2007)

日没後のロンドン通りの喧騒に想を得た作品。
作者は人工的な色や光に関心が強いようで、
絵画のあとにこの光(色)の作品が続いている並びが
とても面白いなぁと。

絵の具の色と、光の色は異なるもので
感じる印象も全く違います。

現代の色は人工的であり、街中で見る色彩も
光の割合が高くなっていて
色彩と科学、資源と技術について感じることの出来る
現代アート作品だなと思いました。


オラファ―・エリアソン「星くずの素粒子」2014

美しかった星屑の素粒子。
吊り下げられたガラス製の球体多面体がモーターで回転し、
ミラーボールのように展示空間に反射光の模様を映し出す
インスタレーション。

デンマーク出身のオラファー・エリアソンは、
自然現象、時間、人間の社会的、文化的規範にも
関心を向ける作家として知られています。

有名な「ウェザープロジェクト」も
とても興味深い作品で、
目の前に立って体験してみたいです。

火力発電所をリノベーションした
イギリスの現代美術館テート・モダンで発表された
巨大なインスタレーション。

大型発電機が置かれていた大きなエントランスホールを、
自然の雄大、あるいは神的なるものの荘厳を喚起させる
聖堂に作り変えたもの。

「ウェザープロジェクト」

オラファー・エリアソンは
「光と色が特定の環境下で人間の知覚にどのような作用を及ぼすのか」
をテーマに制作しているとのことで、
色彩を学んでいる身としては、とても興味のある作品テーマです。

目に見えるのに、形を持たない光(色)。
とても神秘的で、多くの人が惹かれながら
個々によって感じ方は違う。

ですが共通の認識や印象を与えるのは
私たちが人間という生き物だからなのでしょう。

実態を掴めそうで掴めない
でも確実にそこにある「光」がテーマの本展。
非常に創造力を掻き立てられる展覧会でした



今回は小学生の娘二人と、お友達親子で訪問しました。

印象派と現代アートが上手にミックスされていて、
展示構成も大変よく練られていたので

印象派の一瞬を切り抜いたような美しさ
抽象絵画の自分だけの見え方
大型のインスタレーションの体験

子どももとても楽しかったようで、
長期休みの良い思い出になりました。


ゲルハルト・リヒターの作品を
何に見えるか子どもたちと考えると

一人は、「火」
もう一人は、「水たまり」

に見えると教えてもらい、
先入観のない絵画鑑賞の面白さも
味わうことができた展覧会でした。





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