デ・キリコ展
特別展「デ・キリコ展」
@神戸市立博物館 2024.9.14 – 2024.12.8
デ・キリコを象徴するようなビビッドなオレンジのポスターが目を引く展示。
美術史では「形而上(けいじじょう)絵画」として
サラッと紹介されることが多いデ・キリコ。
たっぷりとした展示を味わえるまたとない機会との事で、
神戸まで行ってきました。
回廊を彷彿させるようなエントランスから始まり、
日常から非日常へゆっくり移行していくような
不思議さを感じながら、足を進めていきます。
たくさんの自画像や肖像画から
画力の高さに見惚れていると、
形而上絵画のはじまりと言われる
イタリア広場の作品が現れます。
デ・キリコの絵画はとにかく不安になります。
絵の前に立っていると頭がぐにゃりと曲がるような
不思議な感覚になるからです。
そもそも形而上(けいじじょう)絵画とは
なんなのでしょう?
日常世界の背後にある世界を表現するもの、
合理的な思考では理解できない世界のことです。
デ・キリコは合理的思考では割り切れない、
詩的な直感のような世界を
遠近法の強調された人気のない広場
長い影
マネキン
石膏像
汽車
時計
などを使って表現しました。
様々なモチーフを、日常的ではない風景で組み合わせる事で
未知の世界を作り上げていったのです。
キリコは、
芸術作品を不滅にするためには
常識や論理でははかれない世界に立たなければダメだと
考えていたそうで、
そこから
現実を超えた超感覚的な世界を表そうとしていたようです。
後のシュルレアリスムや
アンディウォーホル、ピカソなど
名だたる芸術家たちに影響を与えたデ・キリコ。
現実のようであって、
そうではないアンバランスさが
謎や神秘をほのめかします。
これなに?と言いたくなるような
マヌカン(マネキン)。
デ・キリコと言えばこのマネキンを思い浮かべる人も
多いのではないでしょうか。
マネキンの印象が強すぎて
見逃しそうになりますが、
それぞれの構図や配置にも
変化が見られます。
上半身に比べて足が小さいような
描き方が多く見られるようになるのですが、
そう描く事で権威性や威厳などを増す
効果を狙って描かれていたようです。
1920年ごろから、
キリコはティツィアーノやラファエロ
デューラーといったルネサンス期の作品に、
その後はルーベンスなどバロック期の作品に傾倒し、
いかにも西洋美術らしい絵画へと回帰していきます。
いかにもバロック美術らしい
ダイナミックな構図、強烈な明暗表現、官能的な女性像、輝く色彩。
1978年に没するまで、人生最後の10年余りの時期に
改めて形而上絵画に取り組んだキリコ。
そして同じ時期に彫刻などにも取り組んでいます。
彫刻は完成度が高すぎて、実物を目の前にすると思わず息をのんでしまうほど。
こんなにも作風を変えられることは
キリコが絵に人生を注ぎ、芸術を愛した芸術家だったということを
証明している気がします。
子どもの頃によく味わった、
「時間のない世界」
全ての時間が止まっているような
まるで異次元に自分だけ入り込んでしまったような世界。
あの不思議な感覚を絵画で味わうことができる
デ・キリコ。
現代芸術の、オブジェや作品で包まれることがなくても
違う世界に入り込む経験ができること。
絵画鑑賞の楽しさと奥深さを感じた1日でした。
オシャレでセンスの良い先輩と一緒に鑑賞することが出来たので、
イタリアのチョコレート、カファレルをお土産に買って帰ろう!と
楽しい時間を過ごしました。
誰かと一緒に訪れた展覧会は、いつも人生の忘れられない思い出になります。
鑑賞体験と、人と過ごした体験がエピソード記憶として長く残ることを
この歳になって実感しています。
これから沢山大切な人と、
一緒に心震えるものを見ていきたいなと感じた1日でした。