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夏の夜

景色に紛れていられるように今日は既製品の服を着た。昨夜遅い時間に食べたものたちが腹の中で重い。向かいの家の屋根に落ちる雨の音を聞いていた。

幼い私に母が買ってきた歯磨き粉の味を唐突に思い出す。おそらくいちご味。好きではなかったが人工甘味料は記憶に残りやすいのだろうか、はっきり味を感じる。

自らの手で命の幕を引けると知ったのは、小学校へ上がる前の夏だった。あの時もひとり畳に寝そべって、天井の模様がぼやけたりくっついたりするのを眺めていたのだった。

なんとなくもったいない気がして、もう1日もう1日と今日もしぶとく生きている。


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