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個人作家が法人成りしても職人を圧迫しない理由

質問箱にこんな質問が届きました。

お答えするのに少し長くなりそうなので、noteで回答いたします。

この質問は、私のこのツイートに対しての質問と思われます。

まず、個人作家と法人の違いを定義しておきたいと思います。
ただし、以下の見解は私見であり、また、話をしやすくするために概念を一般化させたものになりますので、「私はそうじゃない!」や「弊社はそうじゃない!」ということがあってもお許しください。

【個人作家】

作品を制作して発表することを活動が主なモチベーション。
その活動を継続していくことが目的。

【法人】

商品を制作して販売していくことが主なモチベーション。
利益を出し、事業を継続していくことが目的。

もちろん、各々のスタンスに多少の違いはあれど、客観的に両者を大雑把に定義すると、こうなります。

もっと簡単に定義すると、個人作家は「作ってなんぼ」、法人・職人は「儲けてなんぼ」と言えるでしょう。

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質(Quarity)と価格(Price)のバランス

さて、質問の中にあった、圧迫される可能性を示唆された「職人さん」についてですが、これも、「儲けてなんぼ」側のスタンスと解釈します。

次に、個人作家が職人を圧迫するケースを考えてみましょう。

健全な市場とは、市場に出回る商品郡の質(Quarity)と価格(Price)が比例している状態です。
つまり、拙い作品、質の良くない商品は価格が安く、質の高い商品は高い状態が消費者の選択によって成り立っている状態です。

例えば、質20の作品に80の価格をつけても売れませんよね。
価格100の作品でも、質が100なら、ユーザーを選ぶことにはなりますが、成り立ちます。

ここで、質=価格の状態が、バランスの取れた適正価格だとします。

適正価格の場合、価格(Price)/質(Quarity)【PPQと定義】=1となり、これを基準とすると、PPQが1を上回ると割高感がでてしまい、売れにくくなり、逆にPPQが1未満になると、お買い得ということになり、よく売れます。

価格と質の関係

PPQ>1 供給側に儲けが出ており、客にとっては割高な状態
PPQ=1 市場のバランスが取れており、適正価格で販売されている状態
PPQ<1 供給側の利益が少なく、客にとってコスパがいい状態

本来であれば、市場に出回る商品のPPQは1に収束していくはずなのですが、ブームになった市場はそのバランスが崩れることがあります。

例えば、現在大ブームのタピオカですが、「タピオカ」というだけで質が悪くてもお金を出してもらえる状態になっています。

本来であれば入場料を払ってまで入る価値のない施設でさえ、「タピオカ」というだけでみんながお金を出す状態です。

つまり、PPQが1を大きく上回っている商品が世に出て、さらに成り立っている状態です。これは健全とは言えません。

一般的に、ブームになるものの需要は供給よりも早くピークを迎えます。
タピオカの需要のピークはどこにあるのかわかりませんが、受給のバランスはいずれ逆転し、その先に待っているものは価格競争と淘汰です。

職人はすでに圧迫されている?

つまみ細工における市場は、現在明らかに需要を供給が上回っている状態です。

これまでは和装市場が主な供給先でしたが、つまみ細工ブームによってアクセサリージャンルやインテリア・コレクターズジャンルまで市場を広げたことは事実です。

しかし、和装需要は基本的に下がり続けています。七五三、成人式などにおけるつまみ細工の需要を、供給が上回っている状態です。

これは、市場原理から言うと、「職人が圧迫されている状態」です。

たとえば、昨年の七五三において、自分で七五三の髪飾りを制作したり、個人作家さんから購入した人はどのくらいいるでしょうか。
かなりの数になると思います。
その分、割りを食った法人や職人は決して少なくないはずです。

自分で作らなければ、あるいは個人作家からかわなければ、呉服店やデパートなどで、職人が作ったかんざしを買っていたかもしれない。

つまり、法人成りするしない以前に、個人作家さんの台頭は、職人や法人を圧迫していると言えるのです。

しかし、これは自由競争主義の日本において、なんの問題もないことです。職人や法人は、個人作家さんに負けない商品を作ればいいだけです。

いつも言っていることですが、選ぶのはお客様です。質と価格とブランディングにおいて、勝てなかっただけの話です。

最強の人

作り手が増えて業界が活性化し、新陳代謝することは良いことです。
事実、新しい技法や作風が登場し、つまみ細工は過去に例を見ないほど多様多彩な作品が登場しています。

問題は、健全な市場になっているかどうか、だと思います。

PPQが1より高い、つまりコスパの悪い商品はお客様に選ばれませんので問題ないです。
問題なのは、PPQがが1よりも遥かに低い商品を作る個人作家さんです。

簡単に言うと、めっちゃクオリティ高いのに、めっちゃ安く売っちゃう人です。

価格設定が下手なのか、材料費+少しの手間賃が入ればOKなスタンスなのか、本来1万円でも売れたであろう商品を5000円で売ってしまう人です。

最強の人の誕生です。

そうなると、「儲けてなんぼ」の法人・職人は太刀打ちできません。

これは、残念ながら健全とは言えません。

本来誰かが得られたであろう利益を提供してくれる顧客に、少ない利益で販売してしまったからです。
つまり、市場全体の利益率が低下している状況です。

PPQが1付近では買ってもらえなくなり、1以下を目指さないといけなくなります。
つまり、価格を下げるか、価格据え置きでクオリティを上げるかのどちらかです。

結果、価格競争が引き起こされ、「市場全体ではたくさん売れているけど、だれもさほど儲けが出ていない」という状況に陥ります。

健全な市場とは、作り手全員が等しく適正に利益を求めている状態です。

法人成りするということは、これまでのスタンスに、「儲けてなんぼ」のスタンスを付加していく必要があります。

利益を追求するために仕入れを適正化し、ロットを管理し、経費を計上し、自分に報酬を出し、製造責任を負う。

突き詰めると、法人成りしたほうが良いということになります。(個人の見解です)

尤も、すべての作家さんに法人成りを進めているわけではありません。
どちらかというと、法人成りしたほうが良い作家さんは一部だと思います。
趣味でつまみ細工をされている方のほとんどは、「作ってなんぼ」スタンスでしょうし、それを大事にしてほしいからです。

「つまみ細工で食っていく!」という方は、法人成りしたほうがメリットが多い場合がありますので、あのようにツイートしました。

ですが、法人成りしたからといって、職人を圧迫する、ということにはなりません。

結論

作家さんも職人さんも法人さんも、みんなで健全な市場で切磋琢磨していきましょう!(強引にまとめた)

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おはりばこ代表北井@つまみ細工
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