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ウマ娘から競馬に興味を持った方にぜひ読んでおいて欲しい本があるのだが……
失われた後楽園の名物書店
今年の初めに、とある「局地的に衝撃が走った悲しい閉店ニュース」が報じられたのをご存知だろうか。
東京ドームシティ内の、いわゆる "黄色いビル" に入っていたオークスブックセンター(旧名:山下書店)が閉店してしまったのだ。56年間も営業していたというので、東京ドームよりもよほど古い。
さて、この本屋さんは立地のためなのだろう、野球に関する本の品揃えに定評があり、文系野球の聖地とまで呼ばれていた。
それとは別に、ここが得意とするジャンルがもう2つあった。それはプロレスと競馬である。
東京ドームシティには2つの名物ビルがある。通称 "青いビル" と "黄色いビル" だ。この2つのビルは隣接しているのだが、青いビルにはかの有名なプロレスの聖地・後楽園ホールがあり、東京近郊のプヲタにとって非常に愛着の強い場所である。
そして書店が入っていた黄色いビルには、中央競馬の場外馬券場であるWINSと、地方競馬の場外馬券場であるオフト後楽園があり、週末ともなると身なりでそれと分かる "人生の先輩的なこ汚いオッサン達" でごった返し、中々の場末感を醸し出す。
ダービーや有馬記念といった有名G1レースがある日など、普段は馬券など買いに来ない客まで押し寄せるので、現場はさらなるカオスに。
このように、東京ドームシティは【野球・プロレス・競馬】という3ジャンルの聖地なのである。
したがって、この書店はその3ジャンルに関する品揃えの良さが異常であった。私など生粋のプヲタであり競馬好きだから、この本屋でしか見掛けないようなムック本を何冊買ったか分からないほどだ。
今日はこの書店で買った、とある本について語りたい。
競馬に興味を持ったなら是非とも読んで欲しい一冊
前置きが長くなってしまったけれども、私がこの書店で購入した本の中で最も強烈なインパクトを受けた一冊がコレである。
『サラブレッド99頭の死に方(流星社)』
これは今から20年ほど前、コンビニ売りのムック本などで『○○99の謎』なんてタイトルの雑学本が流行った時代に、こっそりと発売された競馬ネタの "99本" である。
問題なのが、この本のテーマはライトな雑学などではなく、比べ物にならぬほど重苦しい "サラブレッドの死に方" であるという点だ。
いま『ウマ娘』のゲームが大ヒットしたお陰で、競馬に興味を持ったという人が大勢いるらしく、ネット上にはそういう方向けの競馬雑学的な情報が増えて来ている。
そうした動画の中には、レース中の事故で予後不良となった競走馬に関して解説しているものも多く、ビギナー競馬ファンはそれを見て少なからずショックを受けるようだ。
思えばオレもそうだった。初めてお馬さんが脚をポッキリやっちゃった場面に遭遇した時の、無知ゆえの「なんだよ転びやがって!馬肉になれクソ野郎!」という怒りと、しばらく後の「え、本当に死んじゃったの?なんで?たかが骨折でしょう?え、え、あの子はもう生きてないの?え?」という例えようのない感情を、未だに覚えている。
無知だった頃は「予後不良になった」なんて聞いても、引退するのかなくらいにしか思っていなかったのだが、「快復の見込みがないからその場で薬殺処分されたって意味だよ」と教えられた時の心の痛みな……。
だけどね、サラブレッドってのは常に死が付き纏っているような弱い生き物でな。運良くレース中に死ななかったとしても、引退後に人間の都合で理不尽な死を迎えたり、グロテスクな死に方をしたり、そもそも生きてるのか死んでるのか分からなかったり、命を全う出来る子の方が珍しいんじゃないかと思えるほど。
この『サラブレッド99頭の死に方』という本には、レース中に死んでしまったサイレンススズカやライスシャワーといった有名どころの他に、もっと無名な条件馬(獲得賞金が低くて重賞に出られないような馬)の話も書かれている。
死に方についても、レース中の事故だけではなく、引退して牧場に引き取られた後の話も多いため、ジョッキーや生産者など、あらゆる立場の人間の証言や述懐で構成されている。
そのため、これ一冊を読めばレースに直接関わる部分だけではなく、生産牧場や馬主、または競馬記者まで含めた競馬業界全体の空気がなんとな~く理解できるのだ。
基本的には昭和~平成の馬が殆どなので、相当古い話が多いのだけれども、ウマ娘にはその時代の馬が何頭も登場するため、読んでいてもそこまで違和感はないかもしれない。
例えば、未だに最強説を唱える人も多いナリタブライアンは、引退して種牡馬として暮らしていた98年、突然の胃破裂により8歳で死んでしまった。
その最期を看取った方への取材内容によると、普段は痛い素振りを表に出さないブライアンが、ある時涙を流して疝痛に苦しむようになり、開腹手術を決意した時にはすでに手遅れだったそうだ。
こういう話が事細かに、その場を目撃した人間によって淡々と語られるのである。それが99頭分詰まっているのが、この本なのだ。
各ページにはこのように享年、死因、死亡した場所などが記載されている。
実にグサっと、ズシンと来る内容なのだが、しかしこれを含めて競馬の魅力なのだという事を、1人でも多くの方にご理解いただきたい。
人間の身勝手さによって意図的に生み出された「脚が早いだけの弱い生物」それがサラブレッドである。
そういう大前提を頭に入れた上で競馬に触れて欲しいなと切に願う。
こういう裏側の部分を知った上でウマ娘を遊ぶと、「ああこのゲームは実在した競走馬達に幸せなIFを与えてやりたいという転生物なんだな」とハッキリ分かるはず。
ところが売ってないんですよ奥さん……
で、この本を出来るだけ多くのひとに読んで欲しいなとあちこち調べて回ったんだけれども、通販サイトもオークションサイトも見事なまでに売り切れっていう……。
それじゃあと出版社のページを調べてみたら、そこでも売り切れだとハッキリ書かれているではありませんか。
しかも06年の段階で全て売り切れって、ハナからそんなに刷ってねえな……。
心の底からビギナー競馬ファンにオススメしたい "情緒100%" の名著だってのに、無いってどういうこっちゃ。
ところがどっこい、困った時のアマゾンさんにだけ中古品があったんですよ!
お値段は定価よりはちょっと安い程度だけど、たぶんここで買わないと二度と手に入らないと思われる。
非常に貴重なインタビューが詰め込まれているので、競馬・サラブレッドの闇の部分と向き合える方は、ぜひぜひ読んでみて欲しいなと思います。
ちなみに、私はこれを読んで以来、出遅れや転倒で馬券を外しても怒らなくなりました。馬は何も悪くない。みんな命懸けで頑張ってるんや……。
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