連載23 第四集 10~12月編 『お月さまー そこから海が見えるかー!』あきとまさきのおはなしのアルバム '90
十・十一・十二月
あき 五才十一か月~六才一か月
まさき 四才二か月~四か月
#295 陶芸子供会
先生 「おにいちゃんたちがやるのを見ながらやってみるといいよ」
あき 「いいの!」
先生 「おっ、いいな、いいなあ。おじさん、そういうの好きだぞ」
#296 お月見
子供たちと一緒にすすきを摘んで飾り、ご馳走もそろった。ところが、油断大敵。
私 「あっ、おだんご食べちゃったのだあれ?」
あき 「あきじゃ ないヨ あきじゃ ないヨ。おつきさま、たべたんだヨ。しろいて ビューって だしてさ、バクバクって たべた。なっ、まさき」
まさき 「そうだよな そうだよな。ウフッ」
私 「ウ ソ ツ キー、こらー!」
あきとまさき 「キャー!アハハ…」
子供たちは、はだしで庭へ飛び出して逃げ回る。ちょうどそこへ、夫が帰ってきた。
夫 「おっ、お月見かあ。ヘエ… おいおい、でも、月なんか、ぜんぜん出てねぇゾ」
#297 秋空のピクニック
まさき 「おかあさん、まさきの ビニールにも おしり のせて」
あき 「そうじゃないと、かぜ ビューって きて とばされちゃうもんな」
私 「ビニールに乗ったまま、みんなで飛ばされたら、おもしろいネ」
あき 「くもまで いけるかなあ。もっと もうっと うえまで いけるかなあ」
まさき 「おべんとばこ おっこっちゃったら、どうしよう」
#298 対談のあった日
望月町の婦人団連結成式にお招き頂いて、信越放送のアナウンサーの岩崎信子さんと対談をさせて頂いた。その日、帰宅して、
私 「ごめんね。私の道案内が悪くて、車、迷子になってたの。おとうさんもあきたちも、とっても心配そうな顏してたんだって?ご近所の和子さんがね、『あなた、あんなに愛されて幸せよ』って言ってくれたよ。ホントかねえ?」
夫 「知らないねえ」
あき 「知らなーい」
私 「だって、和子さんがね…」
夫とあき、ふたりがかりで私の口を押さえて笑いだす。
私 「あのねー!和子さんがねー!…」
家族そろって、大笑い。初めての対談の緊張も、一段と楽しい思い出になった。
#299 ネズミの歯になあれ
あき 「おかあさん おかあさん、あき はー ぬけたヨ」
まさき 「ほんとだあ」
私 「みせてみせて。こんな可愛い歯だったのね。あっ、おとなの歯も、みっつ出てる」
あき 「おばあちゃん おばあちゃん、あき はー ぬけたヨ」
おばあちゃん 「ほう、そうかい、そうかい。よかったなあ」
あき 「あき、よかーった!はやく ネズミの はーに なーれって やろうよ。ほら、いくゾ」
みんな、庭へ出て大声で 「ネズミの はーに なあれ!」
#300 「あらうま座」感激
子供たちは、あらうま座の祭りばやしにうかれて劇場の座席で踊りだし、止まらなくなってしまった。
あき 「アッチッチー アッチッチー。あき、 ぜんぶ ぬいじゃおっと。ああ、きもち よかった」
まさき 「まさきも ぬいじゃおうっと。あれっ?かあさんも、あせ ビショビショだね」
私 「これはね、ヒ ヤ ア セっていうの」
#301 A君の夢
まさき 「まさき、つくしぐみの Aくんと ともだちんなった ゆめ みた。ゆめ みない ときは、けんかだけど…」
#302 「体の図鑑」を読んでもらって
あき、いきなり 「おいしゃさんに なるの、だれに おそわったら いい?」
私 「大学の医学部っていう所で勉強してね、卒業してから、今度は、病院で、お医者さんに教えてもらうの。人の命を預かるんだから、けっこうたいへんよ。それに、器用じゃないとね」
あき 「あき、きようだよ!」
私 「知ってる知ってる」
あき 「あき、できるよ!もうまくの てんてん、とる ほうほう かんがえるんだから。おかあさん、どうして びょうきに なったの?」
#303 弟同士
あき 「タクちゃん、すぐ ついて くるから、カズちゃんと あきで、にげてるんだよ」
私 「タクちゃんはね、おにいちゃんやあきと、遊びたいのよ」
あき 「ちがうよ」
まさき 「そうだよ!」
まさきは、私の手をとって、自分の胸に押しつけながら 「まさき、タクちゃんの こころ、わかるんだよ」
#304 ふたりの大日堂
小学校の音楽会の帰り、あきが、枯れ葉の舞う大日堂へ私を案内してくれた。
あき 「カレハ、はらっといたよ。すわって」
さわってみると、お宮の石段に、ハンカチを敷いてくれてある。
私 「ありがとう」
あき 「あき、おっこってきたばっかりの あたらしい ハッパ、とって きて あげようか」
あきは、落ち葉を踏んで駆けて行く。木の下で、さかんに跳ねているようす。
あき 「とれた!こんどは ふたつ いっぺんだよ」
私 「上手ね」
あき 「だって きさん、いっぱい おっことして くれるんだもん。もっと とって みせようか。ほらっ!」
石段に並んでお弁当を食べる時も、ふたりで「最高だね」を連発して笑った。
あき 「おかあさん、ここ あきと おかあさんの ヒミツの ばしょに しようね」
#305 お誕生日おめでとう スペシャルかあさん号
あき 「とくべつサービス やって。おんぶ!」
まさき 「だっこ!」
私 「ウ~、動けない~ それじゃあ、ふたりとも、かあさんの背中に乗ってごらん」
あき 「おんまさん?ヤッター!」
私 「わあ、あき、重くなったねぇ」
あき 「エヘヘ…」
まさき 「まさきも のる」
私 「さあ、どうぞ。では、『お誕生日おめでとうスペシャルかあさん号』出発!」
あきとまさき 「アハハ… いけー いけー!アハハ…」
#306 何でも知ってる あきちゃんへ
あきは、通園バスを降りるなり、先生から頂いたバースデイカードを私に読んで聞かせた。「せんせいにも、いろいろおしえてね」まで読んで、私たちは、顔を見合わせて笑った。
あき 「でも、あきね、しらないこともあるんだよ」
私 「だっからいいのよ。これからが楽しみね」
するとあきは、いきなり私の両手をとって、公民館の庭を跳ね回りながら歌うように言った。
あき 「ああ、あき なんでも しりたいなあ!ぜーんぶ しりたいなあ!」
#307 六才のバースディによせて
あき、お誕生日、おめでとう!泣いてばかりだった、あの赤ちゃんが、もう六才なんて…。
おばあちゃんが、あきにプレゼントしてくれた新しい靴(十九センチ)を私は玄関で、自分の靴と間違えるところでした。こんなに大きくなったんだねぇ。
先日のお誕生会の時も、あきは、みんなの前で「ぼくは、おおきくなったら、おいしゃさんになります」と、堂々と発表しました。あきの気持ちが本当に嬉しくて、私は、あの日をずっと忘れないと思います。でも、あき、あなたは、どこまでも、あなたの心のままに、あなたの人生を味わってくださいね。
もう六才。されど、まだ六才。楽しみだよ、あき。大きくなあれ!
#308 落ち葉を踏んで
私 「足の裏が、いい気持ち」
あき 「くつ はいてるから、わかんないなあ」
私 「靴、脱いじゃおうか。こうやって」
あきとまさき 「くしゅぐってえ!」 「キャー!アハハ…」
一面、落ち葉の道で、素足になって遊ぶ気持ちよさ。
私 「ねっ、足が、落ち葉の感じ、覚えたでしょ?」
あき 「ても おぼえとこうっと」
まさき 「まさきも!」
私 「かあさんも」
あき 「においも おぼえとこうっと」
今度は三人で落ち葉に鼻を寄せ、胸の奥まで吸い込んだ。
あき 「んー、おかあさん、これ たきびの においだね」
#309 窓になったガラス戸
まさきが、ガラス戸に腕をつっこんでしまった。あきは、まさきの傷の手当てをしたり、ガラスのかけらをかたづけたりしてくれている。
あき 「おかあさん、そっちっかわ まだ おっこってるよ。じっとしててね。いま、あき そっち いくから」
「あれっ、こっちから みると、マドみたいだね」
まさきは、自分が割った窓の向こうから、嬉しそうに顔をつき出して 「こんにちわごっこしようよ!」
私 「まさきちゃん!」
まさき 「ゴメンナチャイデーチュ」
あき 「アハハ…」
#310 車泥棒をつかまえろ!?
外で、うちの車を動かす音がしたので、まさきが様子を見に行ってくれたのだが、
まさき 「とうさんの くるま!ヨーシ、まさきが!」
私 「まさき、あっ、まさき…」
私が追いついた時は、すでにまさきが、車の前へ踊り出て、力いっぱい叫んでしまった後。
まさき 「おーい!おめえた!とうさんの くるま、どこ もってくだい!!」
一瞬、シーン。
私、あわててまさきを抱きあげて 「まさき、違うの違うの。おじさんたちはね、みんな、おじいちゃんのお友達なの。あのう、どうも、すみませんでした」
おじさんたち、今度は一斉に 「ワツハッハッハ… いやいや、ワッハッハッハ…」 「心配だもんなあ。おいは、いい息子だ。なあ、おい。グワッハッハッハ…」
#311 靴箱転倒事件
まさき 「おかあ!」 ガラガラガラ ガシャーン!
あき 「まさき!」
あきは、私を追い越して、先に玄関に駆けつけた。
あき 「まさき、はやく でろ!はやく でろったら!」
大型の靴箱が、まさきの上に倒れかかっていた。私が、靴箱を持ち上げようと手をかけた時、触れたのは、あきの手。あきは、靴箱の下側に入って、自分の体をつっかい棒のようにしながら、重い靴箱を支えてくれていた。
私 「怪我は?大丈夫?」
まさきは、靴箱のとってにぶらさがっていて、倒したらしい。まさきが、無事に出てくると、あきは、べそをかきながら、メチャクチャにまさきをぶった。
あき 「まさき!こいつー!」
まさき 「ウォーン!」
私 「おにいちゃんね、うんとうんと心配してくれたの。つぶれちゃわなくてよかったねぇ、まさき」
私の腕の中で、あきは、いつまでも暴れ、まさきは、いつまでも泣いた。
#312 かあさんにチュッ
まさき 「バス のるとき、てー ふって くれたでしょ。だ か ら」
#313 ちえ先生大歓迎
私は、幼稚園からの通知が読めなくて困っていた。それを知ったちえ先生が、家まで点字を習いに来てくださることになった。家族中で大喜び。
ちえ先生 「先生、今日は、とっても嬉しかったわ。あきちゃんたちの作ってくれたケーキも、とてもおいしかったし」
あき 「ケーキじゃないよ」
ちえ先生 「なんていうのかな?『ぐりとぐらカステラ』?そう?」
あきとまさき 「ウフフ…」
ちえ先生 「また今度、来てもいい?」
あき 「あした くれば いいのに」
ちえ先生 「まあ、ありがとう!」
あき 「アハハ…」
子供たちは、先生のお荷物をひとつずつ持って、下の公園まで、お見送りするという。
あきとまさき 「せんせい、はやくはやく!」 「せんせい、はやく おいで!」
#314 おふろ
子供達は、いつも競って、私の背中を洗ってくれる。今日は、子供たちが遊びに夢中のようだったので、私は自分で背中を洗った。
まさき 「へえ、おかあさん、じぶんで あらえるように なったの?」
#315 あきたちの本「おはなしのアルバム」
あき 「これ、あきたちの ほんだよ。でも、へんなんだよ。あき、6さいなのに、3しゅうしか ないの」
私 「あきが、お話しをするようになってからは、まだ4年しかたってないの。本を作るのに1年かかるから、4引く1で3。どう?」
あき 「ん?へんなの」
吉本婦人 「あきちゃんたちが、いいお話しをしてくれるから、おかあさん、一生懸命書いてくださるのよね。いえね、私も、子供達が小さい頃から、少しずつでも何か書いておけばよかったと思うんですよ」
私 「私も、この文集は宝物なんです。ただ、何集まで作れるかは、子供達が、いつまで書かせてくれるか… それ次第ですけれど」
あき 「100しゅうまで つくってよ。ねえ!」
#316 おじいちゃん そっくり
去年の暮れ、おじいちゃんに教わったコマ回しを今年は、あきがまさきに教えている。
あき 「よし、まさきも やって みるか。いいかー、いとが こうなると しっぱいだからな。こうやって まくんだぞ。こっちの てはな、ここ もってー。こっちは、みじかい ほうの いと。うん、よしっ、ひっぱれ!」
「んーん、もっと うまく いく わけだがなあ。もう1かい やって みろ」 「うまい!まさき、うんまいゾ!」
#317 きよしこの夜
あき 「あき、おたのしみかいで、ハンドベル ファの おと やるんだよ。ファーソファレー ファーソファレー レーレシー …」
私 「わあ、それ、教えて。おかあさんも、それを覚えたら、この音をあきが鳴らしてるんだなって、よーくわかるもの」
あき 「いいよ。ファーソファレー ファーソファレー …」
ところが、お楽しみ会の前の晩になって、あきは、高い熱を出してしまった。
あき 「い いきた いきた いきたーい いきたーい…」
泣きながら眠り、翌朝も不調。それでも、あきの思いは、かなえてやりたいと、タクシーを頼み、出演ぎりぎりに、幼稚園のホールにとびこんだ。
由美子先生、走ってきてくださって 「あきちゃんがお休みだったら、どうしようと思っていました。あきちゃん、頑張って来てくれたね」
この日のハンドベルの音色は、私には、特別に澄みきって聞こえた。
連載24へ続く