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「鬼人追儺録」第4話【漫画原作小説】

鬼人追儺録きじんついなろく

鬼と人が紡ぐ魂の復活と希望の物語。鬼の血を引く少年カイリが、人の気高き魂に火を灯す和風ファンタジー冒険譚。


 第4話のあらすじ

 カイリは「魔物に憑かれた村長を討ってほしい」と依頼され、厳しい掟に縛られた村に訪れる。そこで村を支配する村長の老婆と対峙するが、カイリが魔物の正体を見極める間に、老婆の息子に率いられた村人たちは老婆を討とうと決起する。カイリは村の真実を明らかにし、ヒノクニの魂を守るため剣を抜く。

 登場人物・設定紹介

カイリ……主人公。鬼の血を引く少年。桃太郎を祖父に持ち、桃源流剣術で羅刹を斬り祓う追儺として旅をしている。目指すは鬼と人がともに生きる世界。
老犬チェス……カイリの世話をやくおしゃべりな犬。歴史家。
追儺ついな……ヒノクニの守護者として、伝統と知恵を駆使して羅刹と戦う存在。
羅刹ラセツ……ヒノクニに巣食う厄災。人の肉と魂をむさぼる魔物。


第4話「親不孝者」

序幕

◆老婆

 村の屋敷で、カイリは村長である老婆と向かい合って座っていた。老婆は目が窪み、ほおは痩せこけ、恐ろしい形相をしてカイリを睨んでいる。その姿は獣のようで、とてつもない威圧感を放っていた。対するカイリも老婆から一瞬たりとも目を離さない。屋敷の広間に張り詰めた緊張が漂い、ピリピリとした空気が流れていた。

◆掟に支配された村

 この村の村長は、厳格な掟と作法を村全体に強制していた。

・日没後に外出することを禁ず
・村人は外部の人間との接触を禁ず
・外来の作物や動物の肉の摂取を禁ず
・外来の作物の栽培や動物の飼育を禁ず
・掟に反することは重大な罪と心得よ

 他にも労働や婚姻についても厳しい戒律が存在した。

 その掟の圧力は村人たちの心を強く縛り、恐怖を一層増幅させる要因となっていた。掟に苦しむのは村の者だけでなく、村長の息子さえも怯えていた。彼らは次第にその束縛と恐怖に耐えかねていった。村長が魔物に憑かれていると感じ始め、ついに追儺ついなであるカイリに退治を依頼することにしたのだった。

 村に到着したカイリと老犬チェスは、村人たちの案内で村長の屋敷を訪れた。チェスは村に異変を感じてその調査に向かったが、カイリは今まさに村長と対峙しているのだった。屋敷の中には、緊張感が張り詰めるような静けさが漂っていた。


◆魔物憑き

「貴様が追儺か小僧」

 老婆の声が低く響き渡る。カイリは静かに頷いた。

「そうだ。ワシはカイリ。村人たちはあんたが魔物に憑かれたと言ってる」
「何を言うか。村の者たちは、掟を守らずに我が言葉を疎ましく思うだけじゃ」
「そんなに掟で支配することが大事なんか」
「当然じゃ。掟を破り貴様をここに招いた者は必ず罰する」
「あんたの息子でもか」
「関係ない。外部の人間を招くのは重罪じゃ」
「それなら大丈夫だ、ワシは鬼だからな」

 そう言うと、カイリは鬼の姿を見せる。
 老婆の目が一瞬驚きに見開かれるが、すぐにまた鋭くなる。

「鬼の末裔か。なるほど私を殺しにきたか」
「斬るのは、あんたに憑いているっていう魔物の正体を知ってからだ」


 カイリは元の姿に戻ると、脇に置いた五尺の大太刀を引き寄せた。
 ふと屋敷の隅に目を向けると、ネズミを咥えた年老いた猫がじっとこちらを見ていた。老猫はカイリと目があうとどこかへ立ち去った。

「婆さん、この村には異常な数のネズミがいるな」
「それが何を意味するか、貴様が追儺なら知っているはずだ」
「ああ、“人の心が乱れている”って証だ」

 老婆は一瞬息を飲むが、すぐに冷静を取り戻し、答える。

「心が乱れ、村が侵されている。だが、それは私のせいではない」

 その時、屋敷の外から村人たちの騒ぎ声が聞こえてくる。村長の息子が拘束されて屋敷の庭に入ってきたのだ。その目は怒りに燃えている。

「……おっ母、もう限界だ!村を支配するのはやめろ!」
「来たか掟破りの重罪人め、母と呼ぶでない!」
「この悪魔め!」
「こいつをひっ叩け」

 老婆の命令で息子は男たちに棒で何度も何度も打たれ、ついに気を失った。

「おいその辺にしとけ。死んじまうぞ」カイリが割って入るが、老婆は冷たい視線を向けてくる。
「掟破りは元々死罪じゃ。しかし外部の人間と接触したとはいえ、貴様は鬼人のようだからこの程度の罰で済ませている」

 男たちはようやく殴るのをやめ、息子は引きずられながら屋敷を出た。

「……それで私の中の魔物の正体は分かったか」
「いや、わからねえ」
「とんだ出来損ないの追儺だな。私を斬らぬのなら、日が落ちる前にこの村を去れ。そして二度と足を踏み入れるな」

 老婆はカイリを睨みながら続けて言う。

「これ以降も貴様と接触する村の者がいればあのような目に遭わせる。鬼人の小僧、貴様は歩く厄災と心得よ」

 老婆が部屋を立ち去った後、息をつきながらあたりの匂いを嗅いだ。
 しかし、羅刹の香りはどこにもなかった。


◆ネズミ

 カイリが部屋の中でじっとしていると、チェスが素早い足取りでやってきた。その顔には緊張が漂っている。

「カイリ、大変だワン。村のあちこちでネズミが湧いて出ているワン。それに、異常な数の死者が埋葬されていた形跡もある」

 カイリはチェスの報告に眉をひそめた。

「この村はどうも異様だ。ここから早く立ち去るべきだワン」
 チェスの言葉にカイリは思案した。
「放っておけってのか?」
「ワン、あまりにも危険すぎる。この村に留まる理由はない。村人たちの怒りが老婆に向かうのは時間の問題だワン。奴が羅刹でも全てをお前が斬らねばならんことはない。人間に任せよう」

 窓の外を見ると、日が沈みかけている。

「あの婆さんは本当に魔物……羅刹に取り憑かれているのか?ワシはそう思えない」
「どちらにせよ、吾輩たちのやるべきことは完了した。ここに留まる理由はないワン」

 カイリは深く息を吸い、決意を固めた。

「分かった、だが一つだけ確かめておきたいことがある」
「カイリ、気をつけるんだワン。吾輩はここで待っているワン」
「ああ、すぐ戻るよ」

 カイリは部屋を出て、老婆の匂いを辿った。その様子を庭の木の上で老猫がじっと見ていた。血で濡れた口の周りを舐めながら、カイリの姿を目で追っていた。

◆魂の在処ありか

 日没後、息子は傷ついた体をふらつかせながら、村人たちの前に立って言った。

「血のつながった俺にもこの仕打ちだ。奴は魔物に取り憑かれたあやかしに違いない!みんな力を貸してくれ。この村を解放するんだ!」

「おお!」「村に自由を!」と村人たちの決意が広がる。彼らはそれぞれ武器を手に取り、屋敷の前にやってきた。そこにはすでに待ち受けている老婆の姿があった。燃え盛る松明の炎が、辺りを明るく照らしている。緊張と怒りが村人たちの中に渦巻いていた。

 屋敷で座り込んでいたカイリ。
 村人たちの姿を見ると立ち上がり、大太刀を抜き放つ。


ヒノクニのこころ、しかと見た


 そう言って、カイリは息子の前に・・・・・立ちはだかり剣を突きつけた。
 驚いた息子は叫んだ。「一体どういうことだ!?」
 カイリの瞳は鋭く光り、息子の心を見透かすように睨みつけた。


「婆さんに憑いていた魔物は、お前だったんだな<親不孝者>」


 息子はその言葉に一瞬息を呑み、村人たちもその場で凍りついた。
 カイリは続けて言った。
「婆さんはこの村を、ヒノクニを守ってたんだ」

 息子はカイリを睨み返す。
「嘘だ。この悪魔がそんなことをするはずがない!」

 そう言う息子に、カイリは一歩前に進み、綺麗に磨かれた石の玉を見せた。

「見ろ、これはこの村の祭壇にある石だ」
「なっ! 御神体を持ち出すなんて罰当たりなことを!」
「上っ面ばっか見るんじゃねえ。この石がどれほど磨かれてるのか気づかんか。こうなるまで触れて祈った人がいたんだ」

 村人たちは村長の手を見る。擦り切れて祈りの跡が残るその手に、息子は衝撃を受けた。

「ちゃんと見ろ。どれだけの犠牲を払ったのか!」

 先ほどカイリは老婆の後をつけて、村の祭壇に辿り着いた。そこで御神体の石に手を擦り合わせ、必死に祈る老婆の姿を見た。

「……そんな……」

 その瞬間、ネズミたちが一斉に屋敷に集まった人々の間に入り込んでくる。それにいち早く気づいたカイリは素早く大太刀を抜き放ち、ネズミたちを一掃する。しかしネズミは辺りからも次々と湧き出て、村人たちを襲う。夜の村に悲鳴が響く。その時、カイリは鬼の力を解放した。

「カアアアッッ!!」

 体から噴き上がる蒸気の熱と、とてつもない威圧感が辺りを包む。ネズミたちは一斉に逃げ去った。村人は腰を抜かし恐怖に震えた。幸い致命傷を負った者はいなかったが、何人かは噛まれて傷ついていた。老婆はチェスに支えられてその様子を静かに見守っていた。

「日没後に外出を禁じた意味が分かったか。今は鬼の小僧に救われたが、もう手遅れじゃ」
「ど、どういうことなんだ!なんだ今のは」

「吾輩から話そう」老婆に代わってチェスが息子に語る。
「すべては一匹のネズミから始まったのだワン。先代村長であるお前の父親は外との交流を大切にしていたが、ある日、行商人から買った一匹の白ネズミに噛まれて亡くなった。そして、その白ネズミの繁殖によって村は疫病に侵されたんだワン。そんな時、後を継ぐはずだったお前は、母にその役を押し付け、自分は外の世界に出ることばかりを夢見ていたワン」

 息子の顔は青ざめていく。
 チェスは続けて語る。

「お前の母は疫病の被害を外に出さないよう止め、疫病を終息させるために厳しい掟を村に敷いた。これは村を守るための英断だったワン。しかし、お前も村の者もそれを理解しようとせず、自分の欲望に忠実だったワン」

「婆さんは一人でも戦い続けたんだ。魔物と呼ばれても」
 鬼の姿のままカイリが村人たちに告げる。
「お前たちが婆さんの肉と魂を食い散らかしていたんだ」

 カイリの言葉に、村人たちは次第に理解し始めた。
 彼らの怒りは今や哀しみと後悔に変わっていった。

「もういいよ。村の者をこれ以上怖がらせないでおくれ」
 老婆のその言葉にチェスは押し黙り、鬼の姿から元に戻るカイリ。
 老婆は続けて村人たちに語りかけた。

「この村も私も静かに死にゆく運命だったのさ。私はお前たちにとって魔物だった。いっそここで楽にしておくれ」

 老婆の言葉に、息子はその場に膝をつき、頭を抱えた。
(そういえば、昔の母はこんな姿じゃなかった。

ーー俺が幼い頃は、よく笑っていた
ーー隣村のお菓子が好きで、必ず俺より1つ多く食べた
ーーちょっと小太りで、肌のハリが良くて村娘と間違われたことを喜んでいた
ーー村長だった奔放な父を支えて、よく学んで働いていた
ーーどんなに忙しくても毎日抱きしめてくれた

 そんな母をこんな姿にしたのはーー俺だ)

 今さら後悔が押し寄せてきて、息子は泣き叫んだ。
「おっ母……おっ母ごめん!ごめんよ!」

 老婆は必死に感情を抑えていたが、涙が頬を伝う。
「私こそ悪かったね。村を救えずすまない」

 カイリは、やりきれない気持ちで剣を収めた。

◆大地は問う

「もうどうにもなんねえのか……」

「いや、どうにかなるかもしれんワン」とチェスが前に進み出て言った。
「疫病の正体はおそらく、かつて海の向こうで広がった病だワン。そのため、石灰やアルコールが有効だと吾輩は知っているワン。カイリ、御神体の石を持ってくるワン」
「へ?この石が役に立つんか」

 カイリは転がしていた、御神体の石を拾う。

「その御神体は石灰岩だワン。この周辺が産地だと推測されるワン。それを使えば村全体を消毒可能だろう。この村は疫病に勝てるワン」

 チェスの言葉に、老婆の目に驚きと希望が宿った。

「お犬さま、本当にそれで救えるのかい?」老婆は声を震わせながら尋ねた。
「やってみる価値はあるワン」
「ヒノクニの大地の力を使うのか」

 カイリの中でとてつもない感動の波が押し寄せた。ヒノクニは何という力を持っているのだろう。どんな絶望からも立ち上がる強さを秘めていると感じさせられた。



 ーーしかし同時に大地は彼らに問うていた。「お前たちに生き抜く意志はあるか」と。



 突然、地震が訪れた。大きな揺れに村人たちは這いつくばり、恐怖に震えた。村の建物の一部が崩れ、周囲の切り立った山々からは崩落した瓦礫が降りかかってくる。まるで村を飲み込もうとするように。

「ああ……これがこの村の結末だったか……」と老婆が絶望に呟く。
「終わらせん! 希望を捨てるな。みんなひとかたまりに集まれ!」

 カイリの叫び声に、村人たちは一瞬立ちすくんだが、次第に互いを支え合いながら一箇所に集まった。カイリは鬼の力を解放して大太刀を抜き放つ。

「桃源流・『鬼迅旋乱きじんせんらん』!」 

 カイリの動きがまるで一瞬にして何度も場所を変えるように移動し、次々と降り注ぐ瓦礫を切り裂いていく。しかし全ては斬り払えず、何人かは瓦礫が当たり血を流して倒れた。それでも村人は祈り、互いを支え合った。

 カイリは必死に村人たちを守り続けた。だが、長い鬼の力の使用で次第に肉体も傷ついていく。何度も腱が切れ、骨が砕ける音がした。ついに瓦礫に足を取られて倒れ、動けなくなってしまった。

 その時、老婆の叫びが響き渡る。
「これより掟から解放する! 追儺を守れ! 村の誇りにかけてその者は絶対死なせてはいかん!」

 村人たちは倒れたカイリを引き寄せ、抱きかかえた。まだ降り続く瓦礫の中、あとは祈るしかなかったが、人々は決して屈しようとはしなかった。人々の中に灯る炎を、カイリは静かに見ていた。



 揺れがようやく収まると辺りは静寂に包まれた。
 その静けさを破るように、次々にネズミが湧き出してきて、集団で村の崖下の湖に飛び込んでいくのが見えた。ネズミたちはまるで何かに追われるかのように、次々と湖に消えていった。

 傷ついた村人たちもいたが、彼らは互いに助け合いながら立ち上がり、震える手で瓦礫を取り除いていった。「生きてる……生きてるぞ」と誰かが呟き、やがて歓声となって広がった。その後、息子の指示で怪我人が屋敷に運び込まれていった。彼自身も血を流して傷ついていたが、その目には強い意志が宿っていた。村人たちは手を取り合い、絆の強さを感じながら救助活動を進めていく。

 一方、カイリも運ばれ、部屋の中に寝かされていた。戦いの疲労と傷が彼の体を蝕んでいたが、その表情には安堵の色が見えた。その横にチェスに支えられた老婆がやってきて、疲れ切った顔で微笑みながらカイリに言う。

「ありがとう、カイリ。あんたのおかげで救われたよ」

 老婆は感謝の気持ちを込めて、そっとカイリの手を握りしめた。その手の温もりに、カイリは安らぎを感じた。

 カイリは静かに頷くと、ふと視線を屋敷の庭の方に向けた。すると、老猫が一匹の年老いた白ねずみの脊髄に牙を立て、とどめを刺していた。老猫はこちらを一瞥すると、「にゃあ」と鳴いて屋敷の中に戻っていった。


 辺りにはまだ瓦礫が散乱していたが、空気は澄んでいた。
 まるで厄災が去り、新たな始まりを告げるかのようだった。
 村人たちは危機を乗り越え、再び力強く脈動し始めた。忙しく動き回るその姿には、生き抜くための決意と希望が満ち溢れているようだった。


 チェスが指導する中、村は疫病対策に励んだ。

 あちこちで夜通し火が焚かれ、消毒薬が作られ、湯が沸かされて着物が煮込まれていた。怪我人の治療や建物の修復、瓦礫の撤去、ネズミの生き残りの駆除など、大人も子供も夜を徹して行った。それでも村は活気に満ちていた。朝になるとすっかり体を回復させたカイリは、村人たちに言われるまま風呂に放り込まれ、わしゃわしゃと洗われた。村人たちの手厚い世話に、思わずカイリに笑顔がこぼれた。

 日が高く昇る頃に、カイリとチェスは村の門に立った。村人たちは一斉に集まり、感謝の言葉と共に大きく手を振って別れを告げる。息子も、深々と頭を下げながら「ありがとう、カイリ」と言った。

「孝行しろよ」と告げてカイリは村をあとにした。

終幕

◆猫

「未熟だがいい追儺じゃないか」

 村を経ってしばらくすると、屋敷にいた老猫がカイリの肩に飛び乗って話しかけてきた。驚いたカイリが警戒の色を見せたがチェスが宥めた。

「カイリ、大丈夫だワン。今回コイツが教えてくれたおかげで、村の事情や疫病の正体がわかったんだワン」
「そうだったんか。屋敷にいた時からなんか気になってはいたけど」
「この猫は村の守り神みたいなもんだワン」

 そう言われると老猫は少し笑ったように見えた。

「アタシがいようと村人の心が乱れている限り、魔物がつけ入る隙を与えてしまうニャ。心を正せば、村は再び平穏を取り戻すだろう。感謝するよ」
「ああ、羅刹はいなかったけど役に立てて良かったよ」 
「いや、あのネズミも羅刹の手によってもたらされたものだニャ」

 カイリは驚き、立ち止まった。

「な、なんだって? じゃあ、この村の厄災は羅刹の仕業だったのか?」
「カイリとやら、羅刹は狡猾になっているぞ。桃太郎の時代のように力で押し通していた奴らとは違うようだニャ」

(羅刹が力をつけ始めている。この国のどこかで奴らは牙を研いでいる)
 その事実にカイリは血が冷たくなるのを感じた。

「今こそ真の追儺の力が必要だ。だがお前さんは正式な継承の儀を受けていないようだニャ」
「じいちゃんたち、急に死んじまったからなあ……」

 その時、チェスが話に割って入る。

「最後の追儺の生き残りがいるワン。お前の鬼の祖母だワン」
 カイリは一瞬、言葉を失った。
「ばあちゃん? ばあちゃんに会えば追儺の力を受け継げるのか」
「そうだワン。しかし、彼女は深い森の奥に住んでいる。会うにはキジと猿の協力がいるワン。まずはあいつらを探すワン」
「わかった。猫のばあちゃんも、教えてくれてありがとうな」

 老猫は満足そうに微笑み、「カイリ、お前の心の強さが試される旅になるだろう。道は険しいが、自分を信じて進むニャ」と言い残し、影のように消えた。カイリは老猫が消えた場所をしばらく見つめた後、決意の表情を浮かべて前を向き、自らに言い聞かせるように呟いた。

「ああ、ワシは必ずヒノクニを解放する。人とともに生きるのだ」

 カイリは決意を新たに、果てにある深い森の祖母を目指して旅路をゆく。そして、ほどなくキジに出会うが、その雉のせいで大事件に巻き込まれた。


ーー第4話 親不孝者 (了)ーー
(第5話に続く)


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