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「彗星アルカンティルを追いかけて」サイドストーリー(2)【創作大賞2024・応募作品】
サイドストーリー(2)
私は必ずそばで、あなたの夢を支える。
私は必ずあなたをアルカンティルに導く。
私だけ世界に置いていかれたような気がしていた。
彗星と人類が奇跡的な交信をしたなんて、世間の誰も知らない。でも、カケルはあの出来事を心から信じている。本当に現実だったのか、それとも幻想だったのか、きっと世界で唯一、私だけがずっと心のどこかで疑問を抱えている。
一体あの出来事は何だったんだろう……。
(もっと深く宇宙を知らなきゃいけない)
それから私は、大学で教授たちと熱心に議論し、観測を重ねて知識を深める日々を続けた。でもアルカンティルの謎は深まるばかりだった。次第に教授たちも私の話を聞いてくれなくなり、ある日ついに言われた。
「そんな馬鹿げた出来事をいつまで議論するつもりだ!」
その言葉は私の心に深く刺さった。研究室を追い出されそうになった私は、それ以来、アルカンティルのことを誰にも話さないと決めた。あの彗星との出来事を心の奥底に秘め、ただひたすら研究に没頭するしかなかった。
大学卒業後、私は宇宙工学の専門職に就くことを選んだ。仕事の合間を縫って、アルカンティルの謎を追い続けた。新しいデータを手に入れるたびに、あの夜のことを思い出す。カケルと一緒に見上げた星空。私たちの人生を変えた彗星。
あの彗星は一体何者で、私たちに何を与えたのだろう。その答えを見つけるために、私は決して諦めない。アルカンティルと出会ってから7年間、カケルと同じように私もずっと彗星を追い続けている。
星屑の願い
カケルが宇宙飛行士候補生の試験に落ちた。
試験会場のロビーには、落ち込んだ彼の姿があった。
出会った頃よりも大きくなったはずの背中が、今はとても小さく見えた。
あの自信に満ちていた彼がこんなにも打ちひしがれているのを見たのは初めてだった。
彼の夢が遠のいてしまった。その現実に、私は胸が締め付けられるようだった。
でも、その瞬間、心の奥底で一つの考えが浮かんだ。
(このまま全部彼の思い通りにいかなくなったら、私たち一緒にいられる?)
その考えに、自分でも驚いた。彼の夢が砕けたとき、私たちの人生はまた元に戻れるかもしれない。未来で彼と一緒に、穏やかで優しい生活を送れるかもしれない。
ーー本当にずるい。
カケルが夢を諦める未来なんて、望んでいないのに。
あなたの夢が私の願いを壊すことを知りながら、それでも私は、あなたの背中を押す。
「カケル、諦めないで」
自分自身の心を殺して、私は彼に立ち上がる力を与えようとする。
「私は君が宇宙に行く姿を見たい。それに、あの時のアルカンティルとの交信が誰かの悪戯だとしても私は、君の夢は本物だって信じてる」
この言葉を口にした瞬間、胸が痛んだ。
ーー私は本当に、ずるい。
交信が誰かの悪戯だなんて、本当はどうでもいいのに。あなたを現実に縛り付けていたのは私だった。どこかで、あなたが諦めてくれるのを願ってたことに気づいてしまった。
カケルの目に浮かぶ涙を見て、胸が締め付けられる。彼の純粋な眼差しが私の言葉を信じている。私の願いが彼の夢を壊すことを、彼は知らない。その無垢な瞳が、私を引き裂くようだった。
今、この瞬間、私は気づいてしまった。彼のそばにいるべきではないと。彼の夢は私にとっても大切なものなのに、私が彼を迷わせていた。私の存在が彼の道を曇らせていたのだ。
だから、私は決断した。彼が暗闇で道を見失わないように、私が彼の行く先を照らし続ける。カケルの夢を支えるために、私自身の感情を抑えてでも、彼を導く光になろう。
*
カケルと別れた後、私は、久しぶりにあの彗星に出会った夜と同じ丘を訪ねた。空には無数の星が静かに瞬き、あの時のアルカンティルの輝きを思い出させる。
ーーカケルの夢を支えることは、私にとっても辛い道のりになる。
彼が宇宙飛行士になれたとしても、彗星を追いかける計画が実行される可能性は限りなく低い。恒星間天体の研究は数多くの試みがされてきたが、実際に追跡することはほとんど不可能とされている。ましてや、人が直接接触するなんて、夢のまた夢だ。
(どうすればカケルの夢を叶えられる?)
自問自答が頭の中で渦巻く。彼が夢を追い続ける限り、どれほどの困難が待ち受けているのか想像するだけで胸が痛む。
(私が宇宙開発の総指揮をとる立場になるしかない)
でも、本当にできるの?
たとえ私が犠牲を払ってもできるかわからない。
どれだけの競争を勝ち抜かなきゃいけない?
怖くて仕方なかった。未来が見えない不安に押しつぶされそうだった。
ついに私は立っていられなくなり、膝をついて泣いた。
「カケル、ごめんね…」
その言葉が自然と口をついて出た。私の心の中で渦巻く不安と恐れ、そして彼を支えたいという強い願い。それらが一つになって、私の中で葛藤している。彼の夢を応援したい、でもそのために私がどれだけの代償を払わなければならないのか、考えるだけで怖くなる。痛みが胸を締め付け、涙が頬を伝い落ちる。
それでも、私は彼の夢を信じることをやめるつもりはなかった。
カケルの本気で夢を追い求める姿を思うと、私の心に火が灯る。彼の瞳に宿る情熱と決意が、私の心の闇を照らしていた。
(決して諦めないわ)
私はどんな困難にも立ち向かう決意を固めた。そして涙を拭って、立ち上がる。膝に残る痛みが、私の決意を強くする。
私は星空を見上げ、誓った。
君の夢が叶うその日まで、私はそばにい続ける。どんな困難が待ち受けていようと私は君をアルカンティルに連れていく、と。
サイドストーリー(3)ラスト に続く。
◁前:サイドストーリー(1)
▷次:サイドストーリー(3)ラスト
◀︎本編
(第1話:プロローグ)
(第2話:夢への一歩)
(第3話(最終話):プロジェクト・アルカナ)