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炎の大地、阿蘇へ ④(完)
いよいよ最終日の9月26日。荷造りをそそくさと終えて、品数豊富なビュッフェの朝ごはんでソーセージとスクランブルエッグとヨーグルトとブラックコーヒーをかっこんで、いざ阿蘇山へ!
霧に煙る砂千里
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最終日の午前中。自分の前後左右、何Mが見えるだろうか?というほどに濃い霧に包まれていました。
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人の声が先に聞こえてくる。そして人影が霧の向こうから現れる。
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溶岩の河が流れた跡。
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地層のグラデーションは、近づいて観察すると、細かいタイルのようになっていました。触ると崩れるやわらかい質感。顔彩のよう。
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星座のように並んでいる
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銀河鉄道の線路のよう。
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自分の少し先しか見えないけれど進んでみる。ほとんど、地面しか見えない。そうすると地面しか見なくなる。
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地層の痕跡。マグマの気泡が抜けた痕跡。
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石に描かれた、黄色い矢印。
晴れ渡っていた時は遠くの景色ばかりを見ていて、ちっとも足元に目を向けていなかったようで、同じ道を歩いたはずなのに、この黄色い矢印に気づいていませんでした。霧に包まれて足元しか見えない時、なんとはっきりと見えたことか。登山ルートを示すように、幾つも描き込まれています。
黄色い矢印(しばしばホタテ貝のマークと一緒に)は、スペインの巡礼路「Cemino de Santiago」のシンボルで、巡礼者に順路を示すために数十Mおきに手書きまたは看板で示されています。つまり矢印に沿って歩けば、どんな田舎道を歩いていても、迷わずにゴールの大聖堂に辿り着くのです。
2020年の2月に、留学生だったわたしは寮仲間とともにスペイン巡礼の旅に出かけて、その後の展開も含めて人生が大きく変わる契機となりました。それ以来、今日を含めてずっと、巡礼路の情景を心に描かない日は1日たりともありませんでした。またあの路を歩きたい。またあの土を踏みたい…。コロナ禍で留学期間中の2度目の巡礼は叶わず、日本で社会人生活を送るようになった今は、さらに遠くの夢になっていました。巡礼路への想いは募るいっぽう。実に叶わない恋煩いみたいでした…
霧の中で手書きの黄色い矢印を見つけた時。
心の中でチリンと鐘がなったようでした。巡礼路の再来だ。神様からの合図だ。わたしの前に再び与えられた。スペインの巡礼路で起きたさまざまな出来事は、わたしに「神様の領域」があることを示してくれた体験でした。だからこそ、再び歩くことを心の底から欲していたのかもしれません。物理的にスペインの地を歩いていなくても、あのときの巡礼路は、少しばかり姿形を変えてわたしの目の前に広がっていて、今も同じように歩んでいるんだな。日本にいても、スペインにいても、どこにいても、時間と空間を飛び越して。そのことを教えてくれるような、阿蘇山中の黄色い矢印でした。
黄色い矢印を見つけたと同時に、サーっと霧が明け、あっというまに遠方の外輪山まで見えるようになりました。こんなに視界が良かったら、足元の石なんか見なかったでしょう。まるで「サインに気付け」とばかりに立ち込めていた霧だったかのよう。
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またね!!!またくるよ
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阿蘇駅から見る阿蘇山方面
阿蘇旅の最終日の記録は以上です。
両手にいっぱいの(目に見えない)お土産を持たせてもらって、帰路につきました。
草木も生えない火山は人を寄せ付けないような激しさや荒々しさを持っているのかと思いきや、どれだけ人が飲んでも尽きない湧き出る泉のような爽やかさと大らかさと朗らかさと優しさと、揺るぎないパワーが溢れていました。強引に酔わせるようなパワーではなく、知らずのうちに居るだけで満たしてくれる、さりげないパワー。そして無音の世界なのに、からっぽの袋みたいなのではなく、何かがギュウギュウに詰まった感じ。「何か」の正体は、分からないし、うまく言えません。パワースポットといえば平たく聞こえてしまいますが、間違いなく、阿蘇には何かが溢れていました。
都会で枯渇していたわたしでしたが、歩くだけでどんどん癒されて力が湧き、サンセットや満点の星空や虹を見ることができて。巨大生物の吐息のような噴火口、別の惑星の景色のような砂千里、地球の恵みのような草千里。そして最後に、「黄色の矢印」という粋なプレゼント。
これでもかこれでもかとプレゼントが届き続ける4日間でした…
サンセットと星空と虹と、絶大な癒しと力。そういうものを他人にあげることのできる「人」ってどんな人なのだろう。わたしもなりたいな。少しでも。
阿蘇日記はおわりです。
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