仕事冥利
に尽きると思ったことがあります。
まだ、30代だった頃、
その頃はまだ写真館でのパソコン作業がそれほど普及してなかったのですが、先駆けてメーカーの研修で技術を習得しました。それまで、複写の作業は、手仕事でしたので、変色して痛んだ写真の手直しはエアブラシや筆で書いての作業だったのが一躍パソコンに切り替わり、画面の中のツールを使っての仕上げで、かなり精巧な仕上がりとなりました
そうして仕上げた写真は何十年の昔の変色した傷だらけの写真も、見違えるほどの仕上がりになりお客様にも、喜んでもらえたものでしたし、その殆どが、年配者の写真でした。
そんなある日、珍しく、赤ちゃんの写真加工の仕事が入り、私の担当となりました。
元版は亡くなった未熟児の赤ちゃんの写真でした保育器の中の顔色はくすみ、手のひらは開いたまま、鼻や口に入れられていた管と、それらを止めたテープが痛々しく、薄い肌が赤くなっていました。
早産で生まれ、保育器の中で命を繋ぎ、両親の必死の願い空しくあの世に旅立った赤ちゃんの
葬儀写真なのでした。
なんともかわいそうなその姿に、涙がこぼれそうな気持ちで作業にかかりました。もっと生きたかったでしょうに・精一杯頑張って、力つきたのでしょうね・・
マウス作業で頬の傷を綺麗に治し、くすんでいた顔色を心持ち明るく、頬もほんのり赤く、髪も整えて、レースのベビー帽子をかぶせ、裸同然の体にベビー服を着せてあげました。
数日後、写真を受け取りに来られたご両親が、とても喜んで、感動のお礼を言われたと、担当から聞いた。
「不幸な出来事の中ではあるけれど良い仕事をさせてもらった」と、思いました。