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ポジティブデビアンス - MBAリーダーシップ③

■リーダーシップとは(おさらい)

リーダーシップとは、目的のために個人が影響力を行使し、他者の思考や感情、そして最終的には行動を変えるプロセスである。つまり、次の3ステップになる。

  • 問題を見つける。

  • 解決のための行動目標(HLBs*)を特定する。
       *High leverage behaviors:具体的×効果的×順応性あり

  • フォロワーに狙い通りに行動させる。

このとき、批判的に、利用可能な最善のエビデンスに基づいてリーダーシップを発揮する(エビデンスベースアプローチ)と上手くいく。
(詳細は、リーダーシップの巧拙 オハイオ州立大MBA|Rie | 米MBA - オハイオ州立大生 (note.com)

HLBsが見極められないときもある。そんなときに使える方法を学んだ。
ポジティブデビアンスである。

■HLBsの見極め方:ポジティブデビアンス

(Ⅰ)事例1:ベトナムの栄養不足の子供👧👦

ポジティブデビアンスで検索すると紹介記事がいくつも出てくる。有名な事例のようだ。
1990年頃ベトナム政府の要請で、アメリカのNGO、セーブザチルドレンが子供の栄養不足問題の解決に取り組んだ。当時、現地の子供の2/3が栄養不足だった。

セーブザチルドレンはまず現地調査を行った。3歳以下の子供が2,000人程住む貧しい村を4か所選び調査した結果、64%の子供が栄養不足だった。
これはつまり裏を返せば、36%の子供は栄養が足りているということになる。各家庭の生活水準に違いはない。
そこで6つの家庭を選び彼らの生活を観察した結果、他の家庭と異なる独特の習慣を見つける。

■サツマイモの青菜🥬や水田で獲れる小さなエビ🦐やカニ🦀等、タダで手に入れられるものを2品追加して食事に取り入れていた。
■通常の家庭では1日2食だったが、栄養状態の良い子供がいる家庭は、1食分の食事量を少なめにして、1日3食もしくは4食に分けていた。

なお、これらを実践していた家庭が必ずしも栄養不足のリスクを意識していたわけではない。家庭の習慣として根付いていたのである。

セーブザチルドレンはこれらの行動がHLBsであると特定し、対象地域の全ての貧困家庭に2週間実践させるための栄養プログラムを展開し、その結果、栄養不足の子供が85%減少した。そして、当該取り組みはベトナム全体にも広がり、5万人の子供の栄養不足が改善した。

ポジティブデビアンス(Positive Deviance)とは、コミュニティや組織の中で、周囲と同様に困難に直面し、また、恵まれた状況にあるわけでもないのに、周囲と異なる珍しい行動によって自ずと問題を解決している人たちやその行動自体のことをいう。
現場にどっぷり浸かり現場の人々のルーティンを熟知することで、ポジティブデビアンスを探り当てることができれば、HLBsを特定できる。

(Ⅱ)事例2:製薬会社ジェネンテック💊

2003年、喘息の薬であるゾレアを上市した。競合他社よりも性能の良い薬だが売上は低調だった。
社内調査の結果、242人の販売員のうち2名の売上成績が突出して良かった。彼らの行動を観察したところ、定期訪問やゾレアの高い効能を示す比較テストの結果をアピールしてとにかく医者に買ってもらうというような伝統的なアプローチは取らず、以下の行動を実践していた。

■医者や看護婦にゾレア投与のための準備プロセスを指導(ゾレアは粘性があるので注射に10秒程かかる等)
■薬品取り扱いに係る必要書類の作成方法を職員に教える
■犬を飼える、外出できる等、ゾレア投与による患者の生活への影響を何度も伝えて売り込む

つまりこれらの行動がHLBsになる。
マネジメントはこの2人に指示し、販売会議で彼らの行動を施策として全販売員に向けて紹介させたが、一部の販売員が部分的に施策を受け入れたのみで、なかなか普及しなかった。

どれだけ良いHLBsであっても、それだけではフォロワーは受け入れない。

例えば、フライト前のチェックリスト🛫は安全のための重要なステップだが全米ビジネス航空協会が2013年から2015年に143,756件のフライトを対象に調査した結果、25,344件(18%)でチェックリストの一部もしくは全項目がチェックされていなかったという結果が出た。

また、2007年にジョンホプキンス病院でカテーテルによる感染症対策としてチェックリスト(手洗い、無菌手袋の装着、患者の肌の消毒等)が作られたが、1/3の患者に対する施術で一部のステップがスキップされていたのがわかった。

(Ⅲ)人を動かすのは難しいのだ

最高の施策なのに思ったようにフォロワーに行動してもらえない、という経験をした人は多いと思う。
フォロワーの立場で、新しい施策に半信半疑で気持ちも乗らず、誰かに見つかるまで従来のやり方をしれっと踏襲した経験だってある。

人の気持ちは難しい。
人を動かすなんてカリスマじゃない限りムリなんじゃないか、とすら思う。
だれだって信念を曲げたくないし、今まで信じていたものを否定されたくない。人に動かされたくない。

アメリカ駐在生活が始まってすぐ、アメリカ人の政治思想に興味を持って読んだ本のことを思い出した。
Amazon.co.jp: 社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 : ジョナサン・ハイト, 高橋 洋: Japanese Books

印象的だったのは、人の道徳心はまず直観や衝動、その後に戦略的思考(理性や論理)の順で出てくると説いていた点である。著者は、象使いを引き合いに直観を「象🐘」戦略的思考を「象の乗り手👨」に例えて、道徳心理に働きかけるには乗り手👨ではなく象🐘にアクセスする必要がある、と言う。
そして、道徳は人を結びつけるが同時に盲目にもするので、自分と異なる道徳思想を持った人と出会っても即断して割り切ったりせず、自分との共通点を探す等で信頼関係を築くまで道徳の話を持ち出さないようにすべきだと言う。

信頼構築には時間がかかる。リーダーシップはやっぱり難しそうだ。

だけど私は偉大な先人たちの研究や経験を大いに参照できる。
私は胸を張って、巨人の肩の上に乗って、謙虚にリーダーシップを学びたい。


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