カスタマーサクセスとは何か 著者 弘子ラザヴィさん 読書レポート
経営コンサルタントの弘子ラザヴィさんが書いたカスタマーサクセスの本。(個人的な感想として)少々小難しい表現が多くて読み解くのに時間がかかるが、最近よく耳にする「カスタマーサクセス」を理解する上で良書。カスタマーサクセスを仕事としてしている方、経済市場におけるビジネスモデルの転換を学びたい方にはお勧めです。
■カスタマーサクセスとわたし
かれこれ数年、HR領域のカスタマーサクセスとして仕事をしています。もともとはいわゆる新規の営業職として入社し、入社後1年ほどでカスタマーサクセスの部門への異動事例がでました。カスタマーサクセス・・?という状態から実務を経て、様々なお客様とのかかわりを通じて、カスタマーサクセスというものをもっと突き詰めていきたいと感じている今日この頃です。
■カスタマーサクセスとは
直訳すると顧客の成功。お客様に成功を届ける行為やそういった役割を担っている人、というところでしょうか。言葉としては「ふんふん、なるほどねー」と理解した風にはなれますが結構抽象度が高く「具体的にどゆこと?」って感覚ですね。事例として著書内ではサブちゃんが紹介されています。サザエさんで、主に家の裏口に登場するお兄さんですね(全然関係ないけど彼は高学歴で大手企業出身らしい)
サブちゃんがやっていることの現代版がカスタマーサクセスだよ、と著者はよく説明するそうです。サブちゃんがなにをしているかというと、定期的に磯野家を訪れては注文された品を届けています。こうなると「ルート営業ってこと?」となる方が結構いらっしゃいますがカスタマーサクセスはルート営業や御用聞きではないと。彼が何をしているかというと、「そういえばそろそろ醤油きれそうじゃなかったでしたっけ?」とか「この前買ってもらってご好評いただいてた商品に似た新商品が出たんですけどどうですか?」などサザエさんの先回りをしてより質の高いサービスを提供している。
サザエさんは専業主婦なので醤油が常備されていたらおいしいごはんを家族につくってあげられる。サザエさんは家族においしいごはんを届けることが成功なので(もちろんほかにもいろいろあると思う。専業主婦って年収換算すると300万円以上になるというし)サブちゃんはサザエさんに成功を届けている、ということになる。
■なんで「カスタマーサクセス」?
これはビジネスモデルの転換に大きな要因がありそう。以前はめっちゃいいものを作って販売し、その瞬間の売り上げを最大化することが重要だった。いわゆる売り切りモデル。高度経済成長期の日本はこれで復興した。製造業がめっちゃ頑張って経済大国になった。そこから数十年インターネットが爆発的に普及した。情報をすぐ取得できるし真似できる。どんどんコストを抑えた類似品も出てすぐコモディティ化する。製品の希少性も下がり、あれ欲しい!という感覚も薄れていった。使えればいいよね!ってこと。僕は子どもの時、お小遣いをためてCDを買いに行ったけど、今ではアップルミュージックで音楽を聴く。両方とも「音楽を聴く」という目的は同じなのに所有から利用に変わってきている。
アップルミュージックはいわゆるサブスクリプションモデル。僕のようなユーザーが継続的に利用していると、その期間中売り上げが上がるシステム。多くのIT企業がこのモデルでビジネスを行っている。そうなると企業側からすると「継続的に」使ってもらうかがカギ。売って終わりじゃない。サービスに満足できなければ他サービスに乗り換えられてしまう。だからこそ継続的に使ってもらうために顧客にいい体験をしてもらって、成功を届け続けなければならない。その役割を担うカスタマーサクセスが注目されているしアマゾン、アップル、マイクロソフトなどの大企業もカスタマーサクセスの体制強化には注力している。
■カスタマーサクセスに必要なこと
なにをもって「成功を届けられた」となるのか
大切なのは成功の定義を知ることとされています。僕もHR領域でカスタマーサクセスをしていますが、サービス導入においての成功の定義が表層的(あいまい)であることが多いと感じています。たまにあるのが(ありがたいんですけどね)競合他社が使っているから、知り合いにいいと聞いたから、という理由でのサービス利用。このパターンは結構うまくいかないことが多く結果としてあまりサービスを使いこなせずに契約終了を迎えてしまうことがあります。せっかく投資をしてくださっているお客様にネガティブな体験をさせないためにも成功の定義をともに言語化することが大切だと思います。ゆえに、ご挨拶のタイミングではご担当者様の役割や社内での立ち位置、その会社の事業モデル(どうしたら売り上げがあがるのか)を聞いてこちらから成功イメージをお伝えできるようにするのも手です。
共感性
継続的にお客様のサポートをするので、事情を理解し寄り添うことはとても大切です。いわゆる「いい人」はカスタマーサクセスに向いているとされています。ただし共感だけしていると、本当はお客様に要望しなければいけない時も必要なことが言えず結果として成功を届けられなければ意味がないので「事なかれ主義」ではよくないように思います。
データの鬼であれ
お客様の成功イメージがあまり具体的でない場合、いくら聞いても本質的な悩みは出てきません。だからこそカスタマーサクセスが先回りして道筋を作ってあげることが大切。そのために必要なのが未来を予測するためにデータを駆使すること。サブちゃんも「醤油の在庫が多いから磯野さんとこにお願いしにいってみようかな」ではなく、磯野さんは7人家族、ということは前回購入時から逆算するとそろそろ購入タイミング、毎日忙しくて醤油が減っていることに気づいていないかもしれない、みたいな思考をしているはず。こういう先回りした(カスタマーサクセス界隈でいうプロアクティブな)提案こそがお客様に継続的にサービスをご利用いただくうえで大切。
まとめ
営利企業に勤めている以上、売り上げの最大化を追求するのはとても正しい行動。一方でそちらに舵を切りすぎて、売上発生後のお客様をないがしろにしてしまう会社や人を見かけると少々残念な気持ちになります。この本を通じて、顧客の成功を理解し、先回りした提案をして成功をたくさん届けられるようになったら、そういう人が増えたら、とぼんやり思いつつこの将来性のあるロールをもっと突き詰めていきたいと感じる次第です。