こだまさんと、私。
はじめまして。
2児の子育てをしている主婦、「おはぎうまい」です。
読書、ラジオ、音楽、ドラマ、アニメ、漫画、お笑いなどなど…偏りはあれど、エンタメに救われ、なんでもない日々を楽しみで繋いで生きています。
皆さんと同じように、私を構成している「好き」が沢山あります。
初めての今回は、自己紹介がわりに大好きな作家さんにまつわる話を書いてみました。
読んで頂けたら幸いです。
初めて、文章にしてみたいかも、と思う出来事が起こった。
少し早いが、きっとこれを今年のハイライトとしても差し支えない。
2021年10月7日。
私の大好きな作家さんである、こだまさんに会うという奇跡が起きた。
「夫のちんぽが入らない」というストレートすぎるタイトルの私小説に出会ったのは四年前。
こだまさんの衝撃のデビュー作だった。
読みやすく、美しい、そして潔い文章。
切れ味のあるワードセンス。
正直に、痛いくらいに曝け出された壮絶な半生。
重い内容も淡々と、時にユーモアすら交えて綴られていた。
感情移入の深度が深い私は、何度も胸が苦しくなり、涙と鼻水を拭きながら読み進め、読了後はしばらく震えていた。(例えではなく、本当に謎の震えが止まらなかった。)
すぐに、こだまさんの書き手としての才能の虜になった。
考え方に共感できるところが多く、エピソードに表れる人柄もとても好きだった。
誰にも言わずに飲み込んで歩んできた20年間と、書いてなお周りに黙っている彼女の今の生活のことをよく想像した。
この話を読んでから、人の表には出ていない膨大な背景を、その人が自分で積み重ねてきた経験故の考えを、否定せずに慮る努力をしたいと思うようになった。
この感動や衝撃を誰かと共有したかったが、私の感想は言葉にならなかった。
自分の語彙の少なさ表現力の乏しさを恨み、こだまさんの文章の圧倒的な強さに憧れた。
そして、こだまさんは私の推しになった。
彼女の書いたものは全て読んでみたいと思い、新刊が出ると聞けば発売前から待ち侘びた。
ブログ、Twitter、インタビュー、web連載にも目を通して新しい発見をしたり、彼女がおすすめする作家さんの本を読んで、読書の世界も広がった。
こだまさんに起こる事件、出会うおかしな人々、その場では恥ずかしくて消えてしまいたかったり、とても笑えない辛いこともある。
しかしそれらを全てネタにして「書く」という最強の武器で昇華させていくプレイスタイルには、心底痺れてしまう。
そんな、私の「推し」に会ったお話。
その前日は旦那が泊まりの出張だったので、子どもたちに挟まれて早寝していた。
珍しく朝早く目が覚めTwitterを開くと、こだまさんと、私がフォローしている近隣の書店の店主さんとのやりとりが目に入った。
「ん。…んん!?」
寝ぼけていたので理解できずに何度も見たが、あのこだまさんが今夜、その書店でサイン会を開くという。
車で15分も走れば行ける距離だ。
人見知りで、知らない人が集まるイベントを敬遠する私。
布団の中ではもう心拍数が上がってしまっている。
それでも、このチャンスを逃したら後悔すると思った。
行くしかない。
もとから視野が狭い私は、知った瞬間からそのことしか考えられなくなっていた。
朝食中もうわの空で返事する母を子どもたちはどう思っただろう。
彼らには母の心の不在理由を知る権利があるので、かっかん(私)の大好きな人が遠くから来るのでサインをもらいに夜出かけるね、と教えた。
あそこにサイン飾ってる「こだまさん」に会ってくるんだよ、と。
「サインあるのにまたもらうの?」
「こだまさんどこからくるの?」
色々説明して分かってもらえた。
こだまさん二作目のエッセイ「ここは、おしまいの地」文庫版購入時特典のサイン。
これもサイン会が開かれる書店「本を読まない人のための本屋」の店主さんが、こだまさんに頼んで書いてもらったものだ。
行けばワクワクしてしまう楽しいお店で、店主さんもこだまさんを熱く推していらっしゃる。
当時旦那がサプライズで買ってきてくれたので泣いた。
めちゃくちゃ緊張して、朝から今年イチの勢いでお腹を壊した。
こだまさんもよく緊張でお腹を壊すというエピソードをエッセイに書かれていた。
このことは絶対言おうと謎に意気込んだ。
理解ありまくる旦那がサイン会に行くことを快諾してくれたので、昼間は仕事と家事を慌ただしくも楽しく終えた。
夕方、子どもたちに夕食を用意し旦那も帰宅。
「お前はガチ勢なんだから早く行って本読んで待ってればいいだろ」
と促され、ガチ勢なので迷った末こだまさんの著書を全てトートバッグに納めて出かけた。
ガチ勢の本棚。
こだまさんの家族は、彼女の執筆活動を知らない。
覆面作家である。
その名の通り、授賞式やインタビューでは毎回奇抜な仮面や被り物をしているか、茶色の紙袋を被って人前に出ている。
今日はシンプルに紙袋かな、と考えながら運転して向かった。
サイン会開始15分前に書店に着いた。
店内に入ると、店主さんの他にもう一人、綺麗な女の人がいた。
その人にも会釈をされたので、まさか、まさかね…と思いながら店内散策。
5分後、その女の人はこだまさんのアイコンのイラストパネルと共にスタンバイ完了していた。
こだまさん、まさかの顔出しだった。
フライング気味の一番乗りで、声をかけさせてもらった。
こだまさん「こんにちは〜」
私「こんばんは〜。お顔、出していらっしゃるんですね!」
テンション上がって今思えば失礼な第一声だったにも関わらず、こだまさんはとても優しくお話してくれた。
彼女自身の人見知りなんて感じさせない、目を見て一言一言を受け止めてくれる誠実な雰囲気に、涙が出そうになる。
たくさん笑ってくれて、目元が穏やかで、きれいだった。
この可愛らしい素敵な人の中に、あの切れ味抜群の言葉たちや毒を秘めた目線も混在しているなんて…最高だと思った。
もっと話したいし、知りたいことだらけだった。
全ての著書を買って読んでいること、とにかく大好きなこと、これからもずっと応援しているということだけ、何の捻りもなく伝えた。
こだまさんは、何度もありがとうございますと頭を下げて笑い、「全部嬉しいです」と言ってくれた。
次のファンの方が来たので私は離れ、店主さんへの感謝も込めて前から欲しかった本を二冊買った。
店内の滞在時間は15分ほど。
帰りの車で、その間に起こった出来事を何度も反芻して涙ぐんだ。
振り返れば、「あれも伝えたかった」「もっとこうしていれば喜んでもらえたかも」が限度なく出てくる。
後悔もある。
けれど、大好きな遠い存在の人にこうして直接会えて、目の前で「大好き」と伝えられた尊さの方が今は大きい。
SNSで繋がれて、誰にでも簡単に思いは届くのかもしれない。
それでも、大好きな人がそこに「居る」と実感できたことは、私にとって計り知れなく大きな体験だった。
一生に一度かもしれないチャンスを逃さなくて、本当に本当に本当に良かった。
粋な計らいでこの場を設けてくれた「本を読まない人のための本屋」店主さんと、迷子になりながらもはるばる来てくれたこだまさんに、心から感謝している。
翌日は寝坊して函館の朝市を素通りすることになってしまったというこだまさん。
是非、またリベンジしに来て頂けたら嬉しい。