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病院での感染対策【とりあえずこれだけ!感染講座】

今回のポイント

  • 感染対策は人の命を守り、コストも抑える効果がある

  • 感染経路を遮断することで感染は防げる

  • 手指衛生・個人防護具の着用・清掃が重要である

  • 施設の感染マニュアルの内容を知っておくとよい

感染対策の基本

 本記事を読む前に、ぜひこちらの記事を読んでおかれることをおすすめします。

病院での感染対策の必要性

 病院で感染対策をするなんて当然じゃないか!と思われるかもしれませんが、何故感染対策が必要かについて考えたことはありますか?一度整理してみましょう。


①危険な病原性微生物の存在
 病院の中には注意が必要な病原性微生物が多く存在します。結核などの特殊な感染対策や治療を要する病気、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症などの感染性の強い病気、感染すると治療が難しくなる薬剤耐性菌などがそれにあたります。これらは適切な感染対策を取らずに拡散させてしまうと患者を危険に晒したり、病院経営上の大きな打撃を与えることがあります。

②感染に弱い人が多い
 病院には高齢者や小児、免疫不全の患者、留置物がある患者など感染しやすく、感染が重症化しやすい特性を持った人が多く存在します。健常な人が無症状で保有している病原性微生物もこういった人々では重症な感染症を引き起こす…といったことは大いに起こりえます。

③感染の機会が多い
 病院では患者へ病原性微生物を運んでくる経路がたくさんあります。外来患者の持ち込み、面会者の持ち込み、入院患者同士のやり取り、医療従事者や出入りする業者の持ち込み、環境面の病原性微生物による汚染などです。そして患者を感染へ導く行為もたくさんあります。手術、留置物の留置、創傷処置、注射や点滴、吸痰などの医療行為などがそれにあたります。これらはどうしてもなくすことのできない行為ですが、適切な感染対策を取らなければ感染のリスクを大幅に上げるものばかりです。


 このような理由で病院では感染対策が重要である、といえます。また、感染対策は患者を守ることだけでなく、我々医療者を守ることも大きな目的としています。
 また、患者を守るということだけではなく病院経営上も感染対策は非常に重要です。感染対策は様々な物品を使用するため一見するとただコストがかかるだけのように見えますが、感染を起こした患者の治療にかかるコストと比較すると前者のほうが費用的にも時間的にも低く抑えられるという報告が多数あります。感染対策は現場がやること、ではなく病院一丸となって取り組むべきことという意識が大切です。

もっとも重要なのは「感染経路への対策」

 さて、上記に挙げた感染対策の必要性を頭に残しつつ、こちらの画像を思い出してみましょう。(「感染症の基本」の記事より)

 感染は3つの要因が重なると起こる、というものでした。
 上記に挙げた感染対策が必要な理由はここに当てはめることができます。①=感染源、②=感染性宿主、③=感染経路ですね。つまりこのどれかに気をつければおそらく感染が減る、となるわけです。
 しかし、感染源となる病原性微生物を病院内のあらゆるところから駆逐することは不可能でしょう。また、患者をみんな健康な成人に変えてしまおう!となるともうわけがわかりません。
 ということで、現実的に感染対策として行えるものはほとんどが感染経路への対策となります。感染経路への対策にもいろいろな方法がありますが基本であり、効果が高いのが手指衛生個人防護具の着用清掃の3つです。

重要な手技①手指衛生

 手指衛生は感染対策の基本です。しかし、そのわりに手指衛生についてしっかり学ぶ機会が少ない手技でもあります。手指衛生で大切なことは①方法②タイミングの2つです。
 ①方法に関して、手指衛生というのは手洗いと手指消毒の2つを含めた表現です。それぞれの使い分けは基本的には「手が汚れていたら手洗い汚れていなければ手指消毒!」です。ただし下痢便や吐物の処理をしたあとや、アルコール抵抗性の病原性微生物(クロストリディオイデス・ディフィシル、ノロウイルス、アデノウイルスなど)を有している患者と接触したあとは手洗いが必要です。
 また、正しい方法をしっかり時間をかけて行うことが大切です。手洗いを行うシンクなどに手洗いの手順を掲示し、確認しながら行えるようにしましょう。特に指先、爪の間などは洗い残しが多くなりますので注意が必要です

 ②のタイミングに関してはWHOが提唱する5つのタイミングが有名です。このタイミングを覚えることは大切ですが、もっと大切なことは病原性微生物を持ち込まない・持ち出さない・自分を守るというポイントを理解しておくことです。


○手指衛生5つのタイミング
1.患者に触れる前 → 持ち込まない
2.清潔・無菌操作の前 → (患者の体内に)持ち込まない
3.体液に曝露された可能性のある場合 → 自分を守る
4.患者に触れた後 → 持ち出さない
5.患者周辺の環境や物品に触れた後 → 持ち出さない


 なにか行動をするときは病原性微生物を移動させている可能性を意識し、その病原性微生物が本来いるべきではないところに移動させないことを考えながら手指衛生を行うことができれば一人前です。

重要な手技②個人防護具の着用

 個人防護具の着用は標準予防策、経路別予防策のどちらでも必要な手技となります。つけるべき場面については「感染症の基本」の記事を参照していただきたいのですが、ここでお伝えしたいことは着脱の順番着脱のタイミング外したあとの手指衛生についてです。
 個人防護具をつけるときは「エプロン→マスク→ゴーグル→手袋」、外すときは「手袋→ゴーグル→エプロン→マスク」の順番で行います。特に外すときの順番は大切で、手袋は一番汚いので汚れを広げる前に最初に外す、エプロンとかもそりゃあ汚いけど外したあとに手指衛生をすればOK!という考え方です。
 着脱のタイミングに関しては「必要なときだけつけて、必要なくなったタイミングですぐ外す!」つけたまま患者のベッドサイドから出ない!」「ただしN95マスクだけは病室の外で外す!」の3点を覚えておいてください。これも患者にいる病原性微生物を広げないために必要な対策です。また、N95マスクを病室内で外してしまうと結核など空気感染のおそれがある病原性微生物に曝露してしまうので大変危険です。ちなみによく手袋をつけたままうろうろしている人を見かけますが、感染対策チームの人に見つかると変なスイッチが入って非常にめんどくさいのでやめたほうが無難です。
 最後に外したあとの手指衛生ですが、使用後の個人防護具は汚染されており、それを触れた後には当然手指衛生が必要です。また、手は手袋をしていれば一見きれいに思えますが、実は手袋には製造上の理由で目には見えないものすごく小さな穴が空いていることがあり、そこから病原性微生物が手に付着することがあります。そして手袋を外すときにはどうしても汚染された手で手首の皮膚に触れて汚染させてしまいます。そのため手袋などの個人防護具を外したあとには手指衛生が必要となります

重要な手技③清掃

 皆さんは高頻度接触部位、という言葉をご存知でしょうか?これは読んで字の如く、人がよく触れる場所という意味です。例えばドアノブ、電気や空調のスイッチ、ベッドの手すり、オーバーテーブル、医療機器、病室のトイレ、電子カルテのマウスやキーボードをはじめとする診療で使用するICTデバイスなどがあります。これらは人が頻回に触れている、すなわち様々な病原性微生物が集まってしまう場所です。いろいろな人が持ってきた病原性微生物がここに集まり、そしてここから持っていくことになります。なのでこれらの部位を定期的に清掃、消毒することが大切です。勤務ごとの定期清掃など、システムとして清掃を取り入れることが大切です。普段の清掃においても、ここはいろいろな人が触っていそうだな…!と効果的な場所を考えて清掃をするとより効果的です。

マニュアルの存在、内容を知っていますか?

 ずいぶんと長くなっていまいましたが最後に1点お伝えしたいことがあります。皆さんは病院の感染マニュアルに何が書いてあるか知っていますか?感染マニュアルは何かあったときに見るものではあるのですが、そこに何が書いてあるかを知らなければ活かしようがありません。
 ちなみに一例としてこんなことが載っています。


○感染に関する組織図や報告・連絡先
○標準予防策、経路別予防策の具体的な方法
○感染性廃棄物の廃棄法
○針刺しなどの事故発生時の対応
○具体的な各感染症への対応策
○インフルエンザなどの流行性疾患への対応


 感染マニュアルはこれらの項目についてお硬い言葉で長々と書いてある全く面白くない書物だと思います。しかし目次だけでも目を通し、何が書いてあるかを知っておくことで、「あ、これ感染マニュアルに書いてあったかも!」と思い出すことができ、困ったときの助けになるのではないかと思います。

まとめ

 本記事では感染対策の目的と具体的方法の一部をお伝えしました。
 多くの人が感染と聞くと目を背けたくなると思います。僕もそうでした。それは「病院において感染対策は必要だ!めんどくさいとか言わずとにかくやれ!」という先輩からの押し付けに従っているだけで、なんでなのかわからないけどやるという意識が根付いてしまっているからではないでしょうか。 
 是非一度感染対策の目的について考え、ご自身の施設ではどういった取り組みがされているのかに興味を持っていただけたらと思います。

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