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MRSA【とりあえずこれだけ!感染講座】

今回のポイント

  • MRSAを健康な人にもいる菌

  • ある程度健康な人には問題とならないが、抵抗力の弱い人に移ると薬が効かず重症化することがある

  • ベッド周りの環境や、人の手を介して広がる危険性がある

  • だから感染対策をする必要がある


よくみる厄介者「黄色ブドウ球菌」

 世の中にはたくさんの菌がいます。その中の一つに「黄色ブドウ球菌」というそれはそれは有名な菌がいます。(英語ではS.aureusといいます)
 こいつは人の皮膚や鼻の穴などによくくっついている(=保菌しているといいます)菌で、健康な人に対しては普段は悪さをしません。
 しかし傷があったり、免疫不全だったり、高齢だったりして少しでも弱っている人を見つけるやいなやいろいろな感染症を引き起こす、少々厄介な菌でもあります。


☆黄色ブドウ球菌が引き起こす感染症
創部感染、敗血症、肺炎、髄膜炎、心内膜炎など


 いろいろな感染症を引き起こす黄色ブドウ球菌ですが、基本的には抗菌薬による適切な治療を行うことにより治っていくものがほとんどです。

黄色ブドウ球菌界の精鋭部隊「MRSA」

 しかしここで登場するのが黄色ブドウ球菌の中の精鋭部隊「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌=MRSA」です。(英語の「Methicillin-resistant S.aureus」の頭文字を取ってMRSAと呼びます。)
 病院で働く看護師さんにとっては非常に馴染み深く、嫌いな言葉ではないでしょうか。
 MRSAはおおまかに2つの経路で患者さんのもとにやってきます。


☆MRSAがやってくる経路
①他の患者さんや医療者にくっついていたMRSAが環境や医療者の手指などを介してやってくる
②抗菌薬による攻撃を受けた黄色ブドウ球菌の中から抗菌薬が効かない=耐性を持った黄色ブドウ球菌が現れる



MRSAが問題となる理由①感染すると治療が難しい

 ではMRSAは何が厄介なのか。それはMRSAがいろいろな抗菌薬が効きにくい黄色ブドウ球菌である、というところです。MRSAはメチシリン耐性…という名前がついていますがイメージとしては「多剤耐性黄色ブドウ球菌」です。治療に使用できる薬は非常に限られています。
 先述したように通常であれば黄色ブドウ球菌による感染症になった患者さんには抗菌薬による治療が行われますが、この抗菌薬が効かないとなるとどうなるでしょう。そこに待っているのは死、です。大げさな表現ではなく、黄色ブドウ球菌による感染症は重症化することも多く、感染部位や患者さんの状態によっては死亡することもよくあります。
 また、ひとくちにMRSAといっても、実はそれぞれの菌には個性があります。Aさんの持っているMRSAにはバンコマイシンが効くけどBさんが持っているMRSAには効きにくい…ということもあります。
 すべての抗菌薬が効かないということは非常にまれですが、効く薬の選択肢が非常に狭いところがポイントです。そして、今使える薬の耐性も獲得し、使えなくなってしまう…そしてだんだん使える薬がなくなってしまう…といったことも起こりえます。


☆MRSAの治療に使われる薬
バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、テジゾリド、アルベカシン、ダプトマイシン


 これらの薬をその菌に効くかどうかや、感染している臓器・疾患に適応があるかどうか、薬の副作用のリスクはどうか、薬の形状は適しているか、などを考えながら抗菌薬を決めていきます。

MRSAが問題となる理由②人から人へ伝搬していく

 先にも述べましたがMRSAは健常な人も保菌している可能性があります。日常的に保菌していない人も、MRSAが何かしらの理由で一時的に手にくっついている…といったこともあります。また、一定の期間はベッド柵やドアノブなどの環境下でも生存することができます。
 そして、そのMRSAが様々な理由で抵抗力の弱い人にたどり着き、治療が難しい重症な感染を引き起こす…といったことが怖いのです。その渡り歩くお手伝いを医療従事者がしてしまっているかもしれない…と考えるとぞっとしませんか?
 それを防ぐための方法が接触感染予防策です。この記事では詳しく説明しませんが、日常的な標準予防策とMRSA保菌者に対する接触感染予防策を確実に行うことが必要とされます。
 

MRSAが問題となる理由③患者の人権や権利を侵害する

 みなさんはこのような経験はないでしょうか?

  • 大部屋に入室している患者の元へ行き、「MRSAが出ました。他の人にうつってしまうと大変な菌なので対策をしますね!」と伝えた。その後隣ベッドの患者から感染するのが怖く隣の患者と離れたい、と部屋移動の希望があった。

  • MRSAが出ていて接触予防策をするのが大変だから患者のもとへあまり行きたくないと感じた。

  • MRSAが検出された患者の転院先の病院から「MRSAはうちでは取れないので検査して消えたことを確認してから転院させてください。」と言われた。

  • デイサービスにMRSAを保菌している患者が利用したいと申し出てきたが、マニュアルがなくどうしていいかわからないのでお断りした。

 どうでしょうか。どの事例でも患者のプライバシーや治療・サービスを受ける権利が侵害されているのがおわかりかと思います。どれも大げさだと思われるかもしれませんが、実際に筆者が経験した事例です。
 このような事態を避けるために必要なことは、MRSAを広げない努力をすることとMRSAに対する正しい知識を持つことです。
 とりあえずは対応のマニュアル化をすることと、何が患者の最善の利益になるかを考えることが大切です。
 

まとめ

 いかがだったでしょうか。得体が知れないがとってもよく聞くMRSA。結構慣れてしまって対応がなあなあになってしまうこともあること思いますが、やっぱり厄介なやつだから気をつけようね、というお話でした。
 今回の記事を読んで「なんかよくわからんけどめんどくさいやつ」から「ちょっとやばそうだから対応頑張ろう」くらいになっていただけたら幸いです。

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