06.山口里香
登場人物
・山口 里香 物語のヒロイン。健康的美少女、やや天然
・島田 美穂 ムードメーカー的存在
「それでね、私はマミヤに言ってやったのよ。アナタね、いつか女子に刺されますよって。・・・そしたらあいつね、なんて言い返してきたと思う?」
満面の笑みを浮かべながら楽しそうに山口 里香(やまぐち りか)は愚痴を言った。
「赤城君はねえ、彼はある意味里香と同じ天然だからね、仕方ないのよ。うん」
黒髪をいじりながら島田 美穂(しまだ みほ)はうなずいた。
ここは島田美穂の家。島田の家は神代高校に近く、彼女はたびたびクラスメイトの女子を自分の部屋に呼んではおしゃべりを楽しんだ。
本日のゲストは自他ともに認める島田の大親友、山口里香だ。
「ところでさあ里香、今日こそ告白するの?“ あの人”に」
島田はニヤニヤしながら山口に不意打ちをかました。
「えー!?し、しないよー。しかもこんなパーティーの日に嫌だよ、目立つし」
山口はあたふたした。その様子を見て島田はおかしくて笑った。
あなたはね、どうせ目立ってるからいつでも。
山口はその辺り天然だと島田は思う。
島田の目からみて、山口はクラスメイトの男子生徒から人気を二分している女子のひとりだ。
山口里香と愛媛みかん、二人の女子。
山口と愛媛の二人は外見が可愛いらしいのはもちろんだが、性格が天然だというのも男子生徒から人気がある理由だった。
だけど島田はそうは思っていない。本当に天然なのは山口のほうで、もうひとりは”偽物”だ。あの子は・・・。
島田の考えは中断された。
「ねえねえ、美穂ちゃん、マリ先生のメッセージちゃんと書いた?」
山口里香は島田美穂に向かってそう言いながらも、自分も忘れずに持ってきているのか心配になって、確認のためバッグのなかに手を入れた。
大丈夫。担任の桜坂マリ先生へ宛てたメッセージカードはちゃんと入っていた。山口は改めてカードを手に取ってメッセージを確認した。
”先生、ご結婚おめでとうございます!私たち憧れのマリ先生のハートを射止めたお相手の写真、今度ぜひ見せてください。山口里香より”
山口は手書きのメッセージを確認するとカードを裏返した。
このメッセージカードは今日のハロウィンパーティーの招待状も兼ねていた。
山口 里香様
ハロウィンパーティー
10月31日、午後6時
3年A組の教室に集合
メッセージカードの裏面にはパソコンから印刷されたクラスメイトの名前入り招待状の文言と、その横にハロウィンのカボチャ男をイメージしたイラストのシールが貼ってあった。
島田も部屋の机に置いてあったメッセージカードを手に取って手書きのメッセージを確認した。そのカードにもカボチャ男のイラストのシールが貼ってあった。島田はカボチャ男のイラストを眺めながら呟いた。
「今日はハロウィンかあ。そう言えば里香知ってる?学校で犬の虐殺事件の噂があったのもちょうど一年前のハロウィンのころだったね」
「ぎゃ・く・さ・つ?・・・なにそれ??」
山口は目を丸くした。
「ちょっと里香。そんな物騒な言葉、噛み締めないでよ」
島田はそう言って笑った。
「誰だっけ、ほら、あの噂好きの女の子。そうそう、大前田さん。あの子がハロウィンの次の日の朝に学校で犬の首なし死体を見たんだって」
「やだ、それ本当?ニュースになったの?私、知らなかったよ」
山口里香は臆病なタイプでもなかったし、ホラーやミステリーに騒ぐタイプでもなかったが、こうした話題は苦手だった。
「ニュースにはなってないみたいよ。なんでも犯人がうちの生徒らしくて学校関係者が事件を隠蔽したんだって。まあ、全部噂だけどね。うん」
島田美穂は逆にこうした話題に必要以上に反応するタイプで、彼女は怖がっているようにも見えたし、面白がっているようにも見えた。
「でもね、里香。もし噂が本当なら犯人はきっと”あいつ”ね。だってそういうことやりそうな子だもの、うん」
島田はさらに何か言おうとしたが部屋の時計をみて叫んだ。
「きゃ!里香、大変!もう6時過ぎてるよ!学校行かなきゃ!」
「あ、ほんとね!遅刻する!」
「遅刻してるし!」
二人は笑いながら慌てて学校へと出かける準備を始めた。
(つづく)