02.始まり(2)
登場人物
・隅田川 尊 真面目な学級委員長
・山田 まこと 不良グループのメンバー
・外ノ池 大志 不良グループのメンバー
「どうか皆さん、お静かに!桜坂先生から教職研修が長引きそうなので少々到着が遅れるとの連絡が入りました!ハロウィンパーティーの開始は今から30分後の午後6時を予定していますが、定刻より遅れる可能性があります!」
3年A組の教室の教壇に立ち、学級委員の隅田川尊はクラスメイト達に向かって大声でそう報告した。
主賓の桜坂マリ先生がまだ到着していない、そんなことはバカ正直に言わなければ良いのだが、それを聞いた何人かの生徒がそれならまだ教室で待ってなくても良いかとばかりにバラバラと教室を出て行く結果になった。
教室を出て行こうとする生徒たちにも隅田川は熱心に語りかける。
「皆さん!6時前までには教室に戻ってきてくださいね!なお本日は休校日ですのでどうぞ校舎内ではお静かに願います!」
こうして隅田川が孤軍奮闘しているB棟(教室棟)1階の3年A組の教室から遠く離れた、ここはC棟(実習棟)1階の美術室。そこは静寂に包まれていた。
「!?」
山田まことは目を開けた。
イテテ・・・、後頭部から鈍い痛みが伝わってきた。頭を触ると少し濡れている、これはどうやら自分の血だ。
そうか。山田は状況を理解した。ここは美術室。俺は気絶して床に倒れていたんだ。
そして山田が気絶した原因となったのは、目の前に転がっている首なし死体、クラスメイトの外ノ池大志の胴体である。
状況を思い出し、山田は再び意識が遠のきそうになったのをなんとか踏みとどまった。
起き上がらなければ。
山田は歯を食いしばって、震える足を手でかばいながら何とか立ち上がることに成功した。
ここで一体何が起こったのか。俺は外ノ池と美術室で肝試しの準備をしていた。美術室には俺と外ノ池の二人しかいなかったはず。他に誰かいたのだろうか?だとしてもなぜ外ノ池が殺されるのか?
震える体で山田まことは力を絞って周囲を見渡した。
美術室の電灯は煌々とついていたが周りは静寂に包まれている。人の気配はない。いや、ないはずだ。山田の心臓の音は鳴りっぱなしだった。
美術室の時計は5時30分を指している。自分が気絶して恐らく10分も経っていないだろう。
何とか立ち上がることができた山田は再び外ノ池の死体を見た。その一直線上には、さっき二人して取り出したばかりの古い洋館の絵画が見える。
とにかくここから逃げなければ。
山田はすぐにでも美術室から逃げ出そうとしていたが、引き寄せられるように目の前の巨大な絵画を二度見した。
何か・・・、何かが絵画の中で動いたような気がする。
絵画が動くわけない、そんなことはわかっている。だが、確かに絵の中で何か動いたように見えたのだ。
山田まことはよたよたと歩き始め、外ノ池の死体を乗り越えて美術室の中央に置かれた絵画の前に立った。
動いたのは気のせいだろううか?絵画に違和感はない。
しかし・・・なんだこれは・・・。
改めて見るとこの絵画はとても精巧に洋館が描かれている。山田はふと絵画に描かれた洋館の部屋のひとつに目がとまった。
確かに絵画の中で何かが動いた。正確には絵画に描かれている洋館の部屋の窓の中だ。
山田まことは吸い寄せられるように絵画を凝視した。
まるで遠くからカメラの望遠レンズでズームアップしていくように、絵画に描かれた洋館の部屋の光景が徐々にリアルな映像となって山田の目の中に写しこまれていった。それは実際に見えている光景なのか、具体的なイメージが頭の中に転送されているのかわからないが、とにかく山田は洋館のある部屋の窓の中の様子をありありと知ることができた。
部屋の壁にはカボチャのような丸い物体が飾られている。いや、これは・・・。
山田の心拍数がさらに高まっていった。なんと絵画に描きこまれた部屋の中にあったのは馴染みの顔、外ノ池大志の生首だった。
洋館の部屋の中の壁に吊り下げられた外ノ池の生首が揺れている。
何てことだ!あり得ない!
その瞬間、山田は得体の知れない気配を背後から感じた。
(つづく)
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