13.美術室(3)
登場人物
・白尾 哲 不良グループのメンバー。頭脳派
・根津 拓斗 不良グループのメンバー
・宮内 隆 不良グループのメンバー
美術室には白尾哲がただ一人取り残されていた。一緒にいた根津の死体は床に、宮内の死体は壁にもたれて立ったままになっていた。どちらの死体も首がない胴体だけだ。
白尾は何とか心を落ち着けて考えた。
美術室からはすぐには出られそうもない。少なくとも中からドアをあけるのは無理だ。そして頼りのスマホも電波圏外のままだ。
やるしかない。白尾は勇気を振り絞って床に転がっている根津の死体のポケットを探った。根津の死体はまだ暖かかった。
あった。白尾は根津の胸ポケットに入っていたライターを見つけた。
火をつけて美術室の火災報知機を鳴らす、これしかない。
何か燃えるものはないか、白尾は身近にあった画用紙を拾い上げた。画用紙には生徒の絵が描かれていたがそんなことはどうでもよい。白尾は急いでその画用紙を松明のように丸めた。
カチッ、カチッ。手が震えてなかなかライターの火がつかない。それでも何度目かにやっと成功し、白尾はライターを使って画用紙に火をつけた。画用紙は勢いよく燃え始める。火災報知器は部屋の中央部の天井についている。白尾は燃える画用紙をそこに近づけた。煙もでている。はやく検知してくれ!
ジリリリリ!
やった!火災報知器が反応した。白尾は燃えている画用紙を床に落とし、足で踏みつけて消火した。とにかくこれでどこかに通報されるはずだ。そのうちきっと助けがくる。
そのうちって何分だ?火災報知機を鳴らすことに成功した白尾だが、再び気分が落ち込んだ。火災報知器に反応して人がここに来るまでに数分かかるだろう。その間はこの部屋でやりすごさなければならない。白尾は絵画のほうを見た。まだ絵の中は動きはないように見える・・・。
自分はカボチャ男に立ち向かえるのだろうか。喧嘩が強かった根津も宮内も、あっという間にカボチャ男に殺された。自分がどうにかなるわけない。隠れる・・・そうだ、隠れるしかない。白尾は美術室の周りを探った。
どこか隠れる場所はないだろうか。美術室は作品がいくつか置かれていて、人が一人隠れるスペースはそれなりにありそうだ。
まず白尾が注目したのは美術室の奥にあるカーテンのような布で覆われた小山だった。ここに潜り込んで息を潜めたらうまく身を隠すことができるかもしれない。
白尾は絵画からカボチャ男が再び現れないか確認しながら慎重に場所を移動し、美術室奥の目的の場所にたどり着いた。布を引き剥がしてこの中に自分も隠れてじっとすれば・・・。
ぎゃっ。
白尾はうめき声をあげた。布のカバーをどかすと、なんとそこにも複数の死体があったのだ。
2人か、3人か。やはり首のない胴体だけの死体が積み重なっている。誰だかわからない。
白尾は吐きそうだった。だめだ、こんなところに潜り込めない、他の場所を探そう。
白尾はふらふらと別の場所を探そうと美術室をうろついた。
カタッ。
ついに部屋の中央から小さな音がした。
ひきつった顔で白尾は絵画のほうをみるとそれは小刻みに揺れている。
ああ、これはさっきと同じパターンだ。根津の時は気付かなかったが、宮内が殺される前、同じように絵画がカタカタと揺れ、そこからカボチャ男が現れたのだ。
ちくしょう。
白尾は再び美術室の入り口に走り、開くはずもないドアノブをガチャガチャとまわした。やはり開かない。
絵画の中からカボチャ男が現れた。カボチャ男は無言で周囲を見渡した。さっきと同じ格好だ。カボチャの仮面、緑のマント、右手には鎌。そして左手は生首を持ち帰るためだろう、今は何も持っていない。
カボチャ男はゆっくりと白尾のほうに向かってきた。
こんどこそ終わりだ。ゲームオーバー、ちくしょう。
白尾は恐怖と無念とで歯を食いしばった。
ガチャ。
その時、美術室のドアが開いた。
「おーい、誰かいるか?」
半開きになった美術室のドアから顔を出したのは赤城マミヤだった。
「マミヤ君~、大丈夫そう?もしかして火事?」
白尾の位置から顔は見えないが、廊下から女子生徒の声も聞こえた。
赤城マミヤと水谷水穂は近くの廊下を歩いていたところで火災報知器の音を聞きつけたようだった。
白尾は何も言わずに開いたドアの隙間に滑り込み、素早く廊下に出た。
「お、白尾じゃねえか?どうしたよ?」
ガチャ!不思議そうな顔をする赤城を無視して、白尾は美術室のドアを慌てて閉めた。
白尾は肩で息をしていた。
「ハァハァ・・・。あ、赤城君、聞いてください、この中に人殺しがいるのです。今さっき根津も宮内も殺されました。たぶん他にも何名か殺された生徒が中にいるはずです」
”おいおい、ハロウィンパーティーのドッキリかよ”白尾そんな反応が返ってくることも覚悟していたが、意外にも赤城は真面目に受け取ったようだ。白尾の真に迫った物言いが通じたのだろうか。
「わかった、白尾。とにかく美術室の中に犯人がいるんだな」
赤城はドアノブを回せないように手で握りしめた。
「水穂、白尾、とにかく二人で教室に戻ってこのことをみんなに知らせろ。あと警察にも連絡だ。さっきから俺たちのスマホは圏外だがら電話できなねえかもしれないけど、とにかく何か方法はあるだろう」
「赤城君はどうしますか?」
白尾はその場を動かない赤城に言った。
「俺はとりあえずここで犯人を見張る。美術室はここしか出入り口がないはずだ」
「だめです、中の殺人鬼は尋常じゃない。宮内が首を切られるところを私は見たんです」
白尾は特別赤城と仲がよいわけではないが赤城のことが心配になった。
「え?ちょ、ちょっと。誰か首を切られたの?ねえ、それマジで言ってんの??」
水谷水穂は状況を呑み込めていないようだった。
「大丈夫だ、白尾。俺は別にいいぜ。俺だってヒーローぶって死にたくはないし、ここで犯人を見張るだけだ。逃げる必要があればもちろん逃げるさ。・・・とにかく急いで教室に行け!」
「わかりました、赤城君、気を付けてください。中の殺人鬼はカボチャの仮面をかぶった身長2メートルくらいの化け物で右手に鎌を持っています。奴が出てきたらとにかく逃げてください」
そう言い残して白尾は廊下を走っていった。
「水穂も行け!」
水谷水穂は強い口調で赤城に言われて、混乱しながらも白尾のあとを追っていった。
「まったく・・・とんだパーティーだぜ」
赤城はドアの前で聞き耳を立てている。今のところ美術室の中からは何も聞こえてこない・・・。