デザイナーの彼
マッチングアプリでデザイナーの人に会った。
アプリで少しやり取りをしていた末に、会うことになった。
実は会うべきか、迷っていた。
人を見た目で判断したらいけない。昔誰かに教えられたけど、金髪の彼をどうも信用できなくて。
それでも会ったのは、一緒に載せてた作品風の写真がすごい素敵だったから。こんな写真を取る人と話をしてみたいと思った。
チャットで、「お写真が素敵ですね」というと、
「ありがとうございます、もう今は金髪じゃないんですが」
...風景写真を褒めたのを自身の写真と勘違いしたらしい。
言い方が紛らわしかったのは認めるけど、自分に自信があるタイプなのかなと思った。ただ、普段の私なら容姿に対して素直な称賛を言えないので、運の良い勘違いをしてくれたことに、なんだかラッキーと感じてしまった。
会った場所は浅草。
予約してくれた店は隅田川沿いで、大きな窓からスカイツリーがこちらを覗いていた。
私はお得意の広く浅く話を広げて、彼のリアクションが高まる話題を探した。ただ彼ははじめは無口気味で、私ばかりが空回ってる感覚になった。
彼も私とそんなに会う気がなかったのかな。私つまらないかな。会わなければよかったかな。
ぐるぐる焦りが湧いてきたころ、ようやく話題がヒットした。
よく読む雑誌。
&Premium、ブルータス、Pen...
「あ、それ俺も好き」
そこからはぽつりぽつりといろんな話を聞かせてくれた。
思い返せばかなりマイペースな人だったのかもしれない。もう彼のペースに乗ってしまってた。
デザインが好き、夜の散歩が好き、読書が好き、仕事が好き、実は煙草を吸う、猫と住んでる...
年上だけどデザインや好きな作品を語らせたときの少年みたいなあどけなさが、素直に眩しかった。
正直あまり期待していなかった初日は、かなり楽しい日になった。
その後も度々会うことになるけど、関係が進展したところで連絡ぱったりと止んだ。
ああ、そうだよな。
よくある話だ。手軽な出会いは手軽に断捨離できる。縁なんて言葉があるけど、それは今やファストフードくらい手軽に手に取れるものになった。
でもどこかで期待してたんだ。デザインを通して人のことを考えられる彼なら、ジャンクな出会いで得た縁の先にも、血の通った、心を持った、ヒトがいるってことをわかってるって。
たまに連絡をしてくれるから、その都度期待しそうになる。
そんな高揚感に蓋をして、また期待しない日々に戻ろうと思う。
次会ったときに渡そうと思ってたチュールは、まだ捨てられていない。
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