引っ越し前日にスマホを紛失した話(前編)

前回の投稿で引っ越しの話と、その時に工夫/苦労した話を投稿しました。
私はその後、結婚に際して一戸建ての賃貸に引っ越すことになりました。

引っ越し時の留意点は心得ており、安心しきっていた私ですが、引っ越し前日に思わぬトラブルに見舞われることになりました。

今回はその時のエピソードをお話しします。


あの日、私は妻のご実家に伺い、一緒に食事をしておりました。

お父様もお母様もとても優しく、心温かい方々でして、食事が終わった後は最寄り駅まで送っていただくことになりました。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気付いたら最寄り駅に着いていました。私は感謝を告げて車から降りて駅まで向かいました。

時間に余裕はあったので急ぐ必要はなかったのですが、楽しい一日だったこと、若干の緊張の糸が解れたことで、ルンルン気分で改札を通過しました。

普段なら、ここで日課の音楽鑑賞タイムに移るのですが、明日のために少しでも体力を温存しようと思い、目的地まで睡眠を摂ることにしました。

私はブラック企業に長年勤めていたことで「電車の中で爆睡しても目的地で必ず起きられる」という特殊能力を獲得しています。
※危険ですので、絶対に真似しないでください。

そのため、電車に乗った後は安心して爆睡を決め込みました。

ここでいつも通り、音楽鑑賞を選んでいれば、あんな事にはならなかったかも知れないのですが…


計画通り、目的地で目が覚めて無事に電車を降りられました。

私は帰宅後に引っ越しの最終作業に移る予定でしたので、景気づけにコーヒーでも飲もうと、駅前のコンビニに向かうことにしました。

歩いていると、ふと、妻とLINEがしたくなりました。
私達は当時、そこそこの遠距離恋愛でしたので、帰宅後に「LINEをするのが日課でした。

しかし…

あれ?スマホが無い?

私は体中を弄り、スマホがどこにも無い事に気付きました。
鞄の中も探しましたが、影も形もありません。

この事実を理解した途端、体中に冷や汗がにじみ出てきました。
連絡が取り合えなければ目も当てられません。

(明日は引っ越しのやり取りをする必要があるのに…)

私は寝起きの頭をフル回転させて、記憶を辿りました。
1点、間違いなく言えることは電車の中に落としてはいない事でした。

(そうなると…車の中か?)

思い返せば、送迎中。
お父様の連絡先をスマホに登録した際に、座席に置きっぱにしていました。

そうと決まれば話は早い。

妻に連絡して、スマホの件を報告することにしました。



ところで、皆さん。
自分以外の携帯電話の番号って覚えてますか?

私は覚えてません。

スマホに登録しているから、番号をいちいち入力したりしないですよね。
こんなに便利なモノがあるんだから電話番号なんて覚える必要ないんです。

※そもそも、ただでさえ物忘れが激しい私にとって、11桁の自然数なんて危険が迫らない限りは覚えられるはずがない。


過去にタイムスリップできるなら、1時間前の自分に説教したいところですが現実を見なければなりません。

私は記憶を張り巡らしました。

哀しいかな。思い出せるのは自分の電話番号と、ブラック企業にいた時の先輩の電話番号だけ(思い出したくもない)

しかし、唯一の救い。
私の実家の電話番号だけは思い出すことができました。
今の時間なら、実家に母親がいるはずです。

(これっきゃない…!)

私は駅前の公衆電話に掛け込みました。
財布の中には10円玉が5~6枚あります。
(悲しい事に)100円玉は無いですが、10円だけで事足りると思いました。

私は実家に向けてダイヤルしました。
ところが、何度コールしても電話に出ません。

それもそのはずです。
現在、午後十時。

こんな時間に。
しかも、公衆電話からの電話なんて、誰も出るはずがありません。

しかし、私もそれは計算済みでした。
そこで「数撃ちゃ当たる作戦」を実行しました。

・電話に出ないことを前提に、5~6コールで電話を切る。
・すると、硬貨が返ってくる。
・また電話を掛けて、5~6コールで電話を切る。
・これを出るまで繰り返す。

要するに鬼電なのですが、こうでもしないと出てくれません。

(謝罪なら後でいくらでもしてやる!)

祈る気持ちでコールしていると…

ガチャ
もしもし

電話の向こうからは野太い男の声が聞こえました。
私はこの声を聴いて、舞い上がりました。

(次男坊だ!)

次男坊は仕事柄、あまりスマホを触らないようでして、
LINEをしても返信が来るのは、だいたい数週間後です。
しばらく会ってなかったので、声を聴くのも久しぶりでした。
とは言っても、状況が状況なので、今は懐かしんでもいられません。

この時、私の脳裏には一筋の不安が過っていました。
(これは虚勢だ…弟は内心焦っている…)

無理もありません。
現在、午後十時半。

こんな時間に掛かってきた電話なんて、誰も出たくないでしょう。
恐らく、母親にせがまれ、勇気を出して、受話器を取ったんだと思います。

私は弟の勇気に感謝しつつ、コンマ数秒で次の言葉を考えました。
今一番大事なことは、弟を落ち着かせて、電話の向こう側の男が実兄だと分かってもらうことです。

私は弟の勇気に答えるように、最初の一言を発しました。

「あ、あの!…俺!…俺!俺だけど…!!」

ツー ツー ツー

電話を切ったのは弟ではありません。
首都圏と実家までの距離では10円では10数秒程度話すのが限界でした。

私は財布から、ありったけの10円玉を公衆電話の上に置き、
一旦、深呼吸しました。

(まずなにより、自分が一番落ち着かなければ…)


心に決めた私は、もう一度受話器を手に取って実家に電話しました。


後編につづく。

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