#恋したい
大学3回生の時の課題が面白くて思い出す時がたびたびある。
まず最初にあった課題が『ポーズ』という題をもらい、そこから発想を広げて作品を作るというものだった。私はそこから自撮り→欲求について考えた。次の課題はそこから派生したもので、『Our World』というものだった。自分が関わっている世界・環境について作品と作る課題だった。
前回の欲求と#(ハッシュタグ)の関係性に興味があった私は #恋したい というタグのついたインスタグラムの投稿を200枚スクショし座標に貼り付けるという実験的なインスタレーションを行った。
まず上下↕︎の軸は、その欲求が自発的か他発的かいう軸である。自分の中で生まれた欲求なのか、それとも他者から影響されて生まれたものなのか欲求の生まれた根源を知りたいと思った。どこから生まれ、自撮りのハッシュタグとして使われているのか知りたかったのだ。
次に左右↔︎の軸は性欲か自己顕示欲かという軸である。写真として映っている彼女ら・彼らは一体どう言った欲求からこの自撮りをSNSで発信したいのか。欲求が解消される、行き着く場所を知りたいと思った。
当日は友人に声話掛けたり、たまたま居合わせたクラスメイト・先生に手伝ってもらいながら作業を進めた。(↓実際の様子)
進めていくごとに気づいた事がある。
①自発的な性欲と②他発的な自己顕示欲が比較的多いという事だ。
まず、①自発的な性欲は一人で自撮りをしているものが多いのとInstagramの加工機能のみで加工された写真が多いという事だ。
簡易的な加工を施し、SNS上に公開する。このスピード感には「早く多くの誰かに見てほしい」という思いを感じた。
加工にこだわりは感じ取れなかったものの、バストアップの写真や斜めからの角度をつけたいわゆる性的対象を意識した写真が多いように感じた。
もう一つの②他発的な自己顕示欲はプリクラや加工アプリで既に加工されているものをInstagramの加工機能で再加工したものが多かった。
大勢で撮ったものや友人と2人でといったパターンが多く正面から撮った写真が多いのも特徴であった。
さらに可愛く見せよう、という時間を惜しまず「盛る」ことをされた投稿が多かったのだ。
しかし、この2つの最大の違いは投稿を見せたい特定の相手が居るか否かという点だと思った。
①に関しては誰でもいいから、今すぐに欲求を埋めてほしい。という意志と勢いがあった。
②に関しては加工で盛ることでフォロワーの中の誰かによく見られたいという下心と長期戦に持ち込む図太さが見えた。
だが、この両者とも本当に見せたい人がいるようには感じなかった。
もしかして「#恋したい」は本当に好きな人がいたらそもそも付けないタグなのではないか?
少し話は変わるが森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』という小説の一節にこんな言葉がある。
” あらゆる芸術はLiebeswerbungである。口説くのである。性欲を公衆に向って発揮するのである……性欲の目金を掛けて見れば、人間のあらゆる出来事の発動機は、一として性欲ならざるはなしである。”
この言葉が言うように、つまるところ性欲は私たちを動かすきっかけやエネルギーになっているのではないだろうか?
#恋したい あくまで①②のエネルギー出力のために使われているが、本当に好きな人がいたらタグをつけるエネルギではなく、もうその人に向かってエネルギーを出力し発揮しているのではなかろうか?
性欲を出すターゲットがあればわざわざ大衆に見えるタグ付けという行為はしないのだ。
#恋したい の効力の範囲は決まっているのだ。
欲が形容詞から動詞になる瞬間、その瞬間に私たちは好きを放出して性欲や自己顕示欲やらを兼ね備え、時には自発的、時には他発的に恋をしているのだ。
性欲≠ #恋したい ≠自己顕示欲 ということが分かったインスタレーションだったのだ。
この課題と結果は今の自分にも時々問いかけてくるような不思議な魅力がある。
これからも様々なハッシュタグや欲求の中でエネルギーを出力していきたいと思う。
2016年に書いたレポートより、再編集&考察
#恋したい ハッシュタグがついた沢山の投稿たち↓
追記
吉本ばななの短編とかげより、恋の始まりが動詞そのものになっている一節がある。
【どうしてもどうしてもさわりたくて、気が狂うほど、もういてもたってもいられなくて、彼女の手に触れることができたらもうなんでもする、神様。
そう思った。そう思ってした。自然も不自然もない。せざるをえない。思い出した。本当はそうだった。何となく気があるふたりがいて、何となく約束して、夜になって、食べて飲んで、どうする?となって、今夜あたりいけるとお互いが暗黙の打ち合わせをしてる、というものではなかった、本当はただたださわりたくて、キスしたくて、抱きたくて、少しでも近くに行きたくてたまらなくて一方的にでもなんでも、涙がでるほどしたくて、今すぐ、その人とだけ、その人じゃなければ嫌だ。それが恋だった。思い出した。】