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『行ってきます』の話

神保町裏路地日記(39)
2024/12/11㈬

 今年の9月に八ヶ岳は編笠山というお山に行きました。そこにある青年小屋という山小屋で夏山の打ち上げをするのが僕らの山の会の恒例行事なのですが、今年も無事皆で行けました。

 この小屋では毎年素敵な出会いがあるのです。去年は山岳医療パトロールの青年と出会い、今では一緒に山に登る仲間になりました。今年はどんな素敵な出会いがあるかとワクワクしながら小屋を訪れたら、やっぱりありました。今回は、壮大な夢を持つ青年との出会いです。

 夕ご飯の後の団欒の時間に小屋のご主人にお誘い頂いてスタッフさん達とお話させて頂いた時間にその出会いはありました。彼は二十代後半の元ワンゲル部で、奥さんと一緒に色んな山に登っているとか。話を聞いていくと、来年夫婦で世界一周旅行がしたくて、今はその資金を貯めているのだと言います。そういう話、聞いているだけでワクワクするでしょう。

 「神保町に行くときはお店に伺いますね。」と言ってくれて、その時は連絡先を交換しなかった彼。そんな彼が、先日奥様を連れて本当にお店まで来てくれました。これが結構嬉しくて、僕も妻も興味津々で彼らの話に耳を傾けてしまいました。どこからはじめるの?どんな旅になる予定なの?どのくらいの期間旅するの?良いねぇ!楽しいねぇ!

 僕達が新婚旅行でスペインのカミーノ・デ・サンティアゴを歩いたのも二十代から三十代に変わる頃だったこともあって、同じような年齢で旅をする彼らに自分達を重ねているのかも知れません。色々共感できることが多くて力になりたいと思いました。『力になりたい』なんて都合よく言いながら、僕もどこかで役に立てるなら、その旅に関わらせてほしい。なんて思ったのかも知れません。いずれにせよ困りごとがあるなら協力するよ。と言うのが僕たち夫婦の共通意見です。

 『旅をどこから始めるか?』って、結構大切なことだと思います。自宅のドアを開けた瞬間から旅はスタートするのだけど、それ以外にも『行ってきます』って言える場所があることの幸せさっていうのもあるのです。友達や親に『行ってきます』と言えることも然り。日頃お世話になっている人に『これから行ってきますね!』と言えることも然りです。

 自分の話になりますが、僕らがカミーノ・デ・サンティアゴへの旅を始めたスタート地点は、当時住んでいた街の行き付けの喫茶店のオーナー夫妻に「行ってきます!」と言ったタイミングだったような気がします。

 同じ様に旅が好きな素敵なご夫婦にどうしても言いたかった「行ってきます」。時を経て自分の場所を構えた僕たちが、今度は誰かの「行ってきます」に対して「行ってらっしゃい!」と言って送り出せることの幸せさを感じられていることが、とても感慨深くあるのです。


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