神保町裏路地日記(6)
2024/10/31
秋のお酒が似合う時期になってきて
都心もだいぶ涼しい、と言うよりむしろ肌寒い日が続くようになりました。白山通りには銀杏の実が至る所に落ち始めて、所によっては凄まじい秋の香りを放っています。これを踏まないように歩くのが難しい。
日本酒業界では秋には『ひやおろし』と言うお酒が出回りるようになります。早い酒蔵は8月頭から出荷し始めるもので、さすがにそんなに早く出す酒は季節感よりも色んな都合を優先してるだろと勘ぐって僕は手を付けたくねぇなぁと思います。けれどうちで取り扱う千葉のお酒に関してもお盆を過ぎた頃からポロポロお店に並び始めますから、さすがにそれは仕入れないといかんなぁと思うわけです。ですからうちでは、8月のお盆を過ぎた頃からがひやおろしを置き始める目安になっています。
「ひやおろしって何ですか?」とお客様から聞かれることがあります。日本酒には季節ごとに出てくるお酒に種類があって、秋に出荷されるお酒は『ひやおろし』あるいは『秋あがり』なんて言われます。この秋のお酒は春先に搾った日本酒をすぐには飲まず、ひと夏寝かせてじんわり熟成させてまろやかに味が乗ってきた頃に飲んで楽しむもので、この『味が乗ってくる』と言うタイミングが各酒蔵でそれぞれに時期が違って面白かったりします。
『秋あがり』『ひやおろし』と秋のお酒で名称が違っているのも、「『おろす』より『上がる』方が良い。」と言う言葉遊び的な意味合いもありますが、調べてみるとどうもそれだけではなくそれぞれに意味があるようです。今日はちょっとその言葉の意味の説明的な話。
ひやおろしと秋あがり
まずはひやおろしです。漢字で書くと『冷卸し』で、いくつか意味がありますがよく言われるのは「夏を越えて涼しくなった(冷えてきた)頃に卸す酒」という意味。もう一つあるのが、「火入れをせずに、冷や(生)のまま卸す酒」という意味で、どちらも正しいようです。
火入れというのはタンクに貯蔵する前と出荷前に行う保存のための加熱殺菌処理のことですが、通常ひやおろしはしぼりたての新酒の頃に一度火入れしたものを貯蔵して(あるいは瓶詰めして)、一回火入れしただけの生詰め酒を出荷する事を指すそうです。
秋あがりと言うのは「熟成が上手くいって状態が上がったもの」を意味して、この逆で「状態が落ちてしまったもの(駄目になってしまったもの)」は秋落ちと言うらしい。これでいくと秋あがりの対義語は秋落ちで、ひやおろしではないとなりそうですが、そもそも「〇〇政宗 秋落ち酒」と言う名前の酒が世に出ることはないわけですから、そもそもある『ひやおろしか秋あがりか』の選択肢でより季節感があって情緒的なニュアンスであればひやおろし、縁起良さそうな方を選ぶとすれば秋あがりなのだろうなと個人的には思います。
上記の言葉の説明の他に、秋に出荷されるひやおろしも実は時期によって三種類には分けられているそうです。これは知らなかったなぁ。
①夏越し酒
夏を越してからすぐに出荷される酒は『夏越し酒』と言うそうです。これがいわゆる8月に出てくるお酒のようで、確かに店頭で見たことある。これは熟成の旨みを感じさせながらもフレッシュな味わいが特徴。よく香りを残したお酒を秋酒として出す蔵があって、「ちょっと香りが…うーん」と言う商品があったりしたけど、あれは夏越し酒として熟成も早い段階で楽しむものだったのかもしれないな。
②秋出し一番酒
10月頃、秋が深まってくる時に出荷されるひやおろしは秋出し一番酒と言うそうです。これが一般的なひやおろしのようで、味わいと香りのバランスごちょうど良くなってきたもの。一番イメージしやすい秋のお酒です。
③晩秋秋酒
冷たい風が吹き始める時期に出荷されるひやおろしが晩秋旨酒です。熟成の期間と度合いで言えばこれが3種類のひやおろしの中で最も濃厚でまろやかになります。時期的に寒くなってきますから、熱燗にしたくなる酒と言えばこのタイミングのお酒なのかもしれません。
この他に最近ではひと夏寝かせとか、ふた夏寝かせとか言う呼び方もあるようで、ひとくちに秋のお酒といっても話題にあげればこれだけ細分化されていくそうです。こういうのを調べると日本酒って面白いなぁと思います。そうかそうか。来年は、もう少し時期を考えてああしようこうしようというのがあってもいいなぁ。日々勉強だな。これは。
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