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【Step14】“沢”だらけの一日【東京都/棒ノ嶺/小澤酒造】

 お店の皆と行く月一回の山の会。今月は東京都と埼玉県にまたがる棒ノ嶺(棒ノ折山)を歩く。標高の高い山は既に紅葉が始まっているが、東京の山程度の標高ならまだ紅葉には少し早い。暑さがぶり返す週末に少し涼が欲しい、そんな時は沢を歩くのも良い。ちょっとスリリングでエキサイティングなハイキング。


山行記録

棒ノ嶺(棒ノ折山)について

山頂標識(地味な方)

 棒ノ嶺(棒ノ折山)は奥多摩と奥武蔵の境にある標高969mの山である。“棒ノ峰”や“棒ノ折嶺”と言った呼ばれ方の他、“坊主の尾根”、“坊の尾根”と呼ばれることもあったそうだ。

穏やかな陽気の日の有間ダム

 登山コースは飯能側から見てさわらびの湯もしくは有間ダムを起点にして北東尾根コース、滝ノ平尾根コース、白谷沢コースと様々。山頂から奥多摩方面へ下る際には黒山を経て小沢峠へ下るコースや大丹波へ下るコースもある。バスの接続も考えると奥多摩側は多少不便で、飯能側を往復する人も多い。 今回皆で歩いたのは白谷沢コースである。このコースの最大の魅力は何と言っても沢歩きで、特にゴルジュ帯と呼ばれる切り立った岩壁に挟まれた峡谷を詰めていく景観には圧倒される。 

時には足を濡らしながら

山名の由来

気持ちいい急登を上がっていく

 棒ノ嶺という山名は、鎌倉時代に活躍した秩父の畠山重忠と言う武将がこの山を越えた際に、杖として使っていた石棒が折れてしまったという伝承に由来するとされている。山名の由来には諸説あるようで、棒に由来する説としては、ゴンジリ沢に建てられた祠に金精様(=男根)を祀るとき、それに見立てて棒を立てたからという話もあれば、「山頂が坊主の頭のように丸い形だから。」という理由で坊の尾根、坊主の尾根と呼ばれたという話もある。山名に【嶺】を付けるのか、【峰】を付けるのかという点も意見の分かれるところだ。

 私的な意見に過ぎないが、個人的には「金精様を祀ったから」という理由で「坊」を付けたという考え方が自然だと思っている。山間の民間信仰として根付くもので、繁栄を願って自然物を男性器や女性器に見立てて祀るのは日本に限ったことでも珍しいことでもない。集落の人々が子宝を願って棒を祀って願掛けをして、子宝に恵まれるように「坊」と名付けたのが起こりで、時間を経ていくにつれて変化する価値観の中で山名も地元の武将にちなんだ伝承を後付けしたのではないだろうかと想像した。

 山名表記については【峰】よりも【嶺】の方が適切と思う。これは以前大菩薩嶺を歩いた時に知ったことだが、漢字の意味として【峰】は鋭い形状のものを指し、【嶺】は山頂のなだらかに広がった形状のものを指すらしい。こうやって山名についていろいろ調べて自分なりに好き勝手に考えを巡らせるのは、それが合っているかどうかはさて置き面白い。

棒ノ嶺で見られた草花

セキヤノアキチョウジ(関屋の秋丁字)
ツリフネソウ
マツカゼソウミカン科の草

 今回見たいくつかの草花は、調べてみるとロマンチックな花言葉を持つものが多かった。ツリフネソウは「安楽」の他「私に触らないで」という意味もあるのでそれは一旦置いておいて、セキヤノアキチョウジは「秘めやかな思い」、マツカゼソウの花言葉は「揺らめく恋心」とどちらも心の内にある感情のゆらぎを表している。
 今日出会った花がそうだったからか、だんだんと秋が訪れるにつれて感じるようになる哀愁が花言葉と重なるとより秋という時季を強く意識するようになる。今年もたくさん山に登らせてもらって、色んなことを思ったなぁと考える。

栗はたくさん落ちていた。
大丹波へ下山してから見つけたホオズキ

 山中でたくさんの樹の実を見つけた。ドングリや栗の実がそこかしこに転がっていて、中にはすでに誰かが食べたような跡があるものもちらほら。先日お店に来た東北のお客さんが「今年は樹の実が多い。」と言っていた。山に食べるものが多いということは、山の生き物たちの食糧が多いことを意味するわけで、それは山の生き物たちにとっても、里に生きる僕たちからしても喜ばしいことだ。

大丹波へ下る途中のわさび田

 草花とは違うかも知れないが、下山途中の沢沿いの斜面によく整備された石積の段々を見つけた。そこに沢の水が流れ、ぎっしりとわさびが栽培されていた。奥多摩と言えばわさび。江戸時代から続く伝統野菜の奥多摩わさびは、ここで作られて江戸神田へ運ばれていたそうだ。生産量では長野や静岡には及ばないが、東京で暮らす僕としては奥多摩の山々が馴染み深く、やっぱり奥多摩わさびを応援したい。ちなみにわさびの花言葉は、「目覚め」「嬉し涙」なのだそうだ。

下山後のお楽しみは…

小澤酒造へ

さわのすけがお出迎え

 川井駅へ下山したあと、夕方の打上げに予約した青梅の居酒屋さんの予約時間までに少し余裕があったので途中下車して酒蔵へ行こうということになった。

 元禄15年(1702年)創業の小澤酒造は、澤乃井という日本酒を醸す。「東京の日本酒と言えば?」と聞かれたら澤乃井だと答える人は少なくないだろう。今でこそ東京の酒蔵も酒質や知名度が上がって、豊島屋酒造(神田/東村山)の金婚や屋守、東京港醸造の江戸開城など日本酒ファンの間でも知られるようになったが、それ以前から東京の日本酒シーンを牽引してきたのは、小澤酒造だと言っても過言ではないと思う。

澤乃井園
唎酒処

 小澤酒造は観光に広く開かれた酒蔵だ。多摩川のせせらぎを聴きながら酒を楽しめる屋外のイートスペース“澤乃井園”と、屋内で日本酒を楽しめる“澤乃井唎酒処”は日本人のみならずインバウンドにも大人気。僕達も毎回この唎酒処にはお世話になっている。とにかく小澤酒造のあらゆる澤乃井が、格安で試飲できてしまうのだ。

何を飲もうか
年間のラインナップをチェックして

 日本酒のいいところは、年間通して様々な酒が楽しめるところだ。今時期なら秋のひやおろしが良い。もう少し涼しくなって、澤乃井園で紅葉が始まったらそれを見ながら酒を飲むのも良い。四季折々の景色と酒が楽しめるから、奥多摩の山に来る度についついここに寄りたくなる。

今回の土産酒
小澤酒造脇を流れる多摩川
後ろ姿から漂う満足感

青梅駅の居酒屋にて

 小澤酒造を出て再び沢井駅から電車に乗り、今度は青梅駅で降りる。さっきまでは前哨戦に過ぎない。これからいよいよ打ち上げだ。

 今回は青梅駅前の“お食事処 ぜん”にお世話になった。個人的には山へ行ったらその麓の酒場で完結したいと思う。その土地に行ったら地元の酒、地元の酒場というのが良い。
 
 お店でひと通り料理を頼んで思い思いに酒を飲む。今日の山も良かったなと振り返りに盛り上がり、その勢いで次はどの山に行こうかと今回も山談義が捗った。来年の新年会山行の行き先もほぼほぼ確定。新メンバーも加わった山の会は色々形も変えながら盛り上がっていくのだろう。

 店の最大の魅力は美味しい料理もさることながら、チャーミングな女将さんの人柄だった。テキパキと1人で店内を回し、時々冗談を言って笑わせてくれる。素敵な店だと思った。大きな店ではないから大人数で行くなら事前に席の確認や打ち合わせが必要だが、青梅駅でいいお店を見つけてしまった。我ながら、良いセンスだ。

終わりに

大丹波での風景は、日本の原風景的で素敵だ。

 今回も良い山行だった。よく歩き、良く遊ぶ。思い返すと棒ノ嶺の沢歩きに澤乃井と、ある意味で沢だらけの一日だった。ちょっと頑張って歩いたあとは美味しい酒とおつまみで楽しい時間を過ごす。高橋ガイドの協力もあって、段々毎回のクオリティも上がってきたように思う。もちろん、会を繋いでくれる参加してくれる皆さんの力も欠かすことが出来ない。皆と歩くから1日が楽しいのだということは言うまでもない。仲間は多いほうが良い。まだまだ一緒に会を盛り上げてくれる仲間は募集中だ。

 今年の山行も残すところあと2回となったが、安全に、皆で楽しみたい。

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☆小澤酒造☆
【住所】東京都青梅市沢井2-770
【  tel  】0428-78-8215
【アクセス】JR沢井駅より徒歩5分

☆お食事処 ぜん☆
【住所】 東京都青梅市本町163−9
【  tel  】0428-22-8549
【アクセス】JR青梅駅より徒歩3分
【定休日】月曜日(要確認)

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