一人暮らしでいいや。
このnoteは、鶴さん(@dmdmtrtr)が主催されている、
「年の瀬にエモ散らかし隊 Advent Calendar 2019」の参加記事です。
前日の担当は、はぴこさん。
明日の担当は、mottuさんです。
それでは、しばし、お付き合いくださいませ。
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「年の瀬だからエモくなりたい」と、えいやっ、と勢いで登録してみたものの、結局何を書くか決まらないまま、時刻は16時をまわった。
新潟出身、東京在住、27歳。男性、独身、一人暮らし。
朝からつけっぱなしのエアコンの音だけを聞きながら、こうしてパソコンに向かっている。
あと2時間で、新潟から友人が泊まりに来るらしい。
「日曜日、宿を借りてもいいか」。
出張で長野に行っていた、木曜日の夜。
彼から届いた連絡に、僕は居酒屋で、べろべろになりながら承諾していた。
昨夜、彼からリマインドが届かなければ、うっかり忘れていたかもしれない。どうもここ最近、お酒が弱くなって情けない。
「今出発したから、着いたらLINEするよ」。
ほら、また、彼から連絡がきた。
その几帳面なところは尊敬しているけれど、今の僕にとってその連絡は、締め切りへのカウントダウンと同義。少しくらい、遅れても良いんだけれどな、と苦笑いする。
やれやれ、と、1Kの部屋の中をぐるりと見渡す。
僕の一人暮らし生活は、関西での大学生活と同時にスタートした。
京都、滋賀、大阪、新潟、そして東京。
この8年間で随分と引越しを重ねてきたが、地元へUターン就職をした際、一時期だけ実家に戻ったことがあった。
一人暮らしが良かった。
仕事が遅くなり、既に寝ている両親を起こさぬよう2階に上がるとき、僕は強く思った。
きっと両親は、迷惑にも思っていなかっただろう。けれど、20を過ぎてもまだ、誰かに気を使ってしまうような生活を、僕は良しとできなかった。結局2年と経たず、僕はまた、一人暮らしへと戻った。
初めて住んだアパートに比べると、今の部屋は随分と変わった。
間取りは狭くなったのに家賃だけが高くなり、キッチンからは調理器具や調味料が激減し、大学時代の教科書の大半はビジネス書になった。
沢山のものを買って、沢山のものを捨ててきた。
過去この部屋にあったもの、そして今この部屋にあるものは、すべて僕が選び取ってきたものだ。決して豪邸ではないけれど、まわりを見渡すとき、僕は少しだけ誇らしくなる。
一人暮らしで良かった。
彼からのLINEを見返し、いつでも好きな友人を泊めることができる幸せを、改めて感じる。出張の荷解きは未だにできていないけれど、きっと彼なら許してくれるだろう。
最近、大事な人やものとは、ある程度の距離を保った方が良い、と思っている。
再会のときを楽しむために。その幸せを、当たり前にしすぎないために。
こんなことを考えてしまうから、やっぱり僕はまだまだ、一人暮らしでいいのかもしれない。
今夜は宅飲みにしようか、と思い立つ。
少ない調味料でも、簡単なつまみなら作れるだろう。ご飯くらいは、炊いておいてやろうか。
いつの間にか、窓の外は真っ暗だ。エアコンが、ごうっと、再運転をはじめる。
間もなく引っ越すことになるかもしれないこの部屋を、僕はもう一度見渡しながら、彼の到着を待っている。