はじめて音楽を聴いた日
はじめて音楽を聴いた日はいつだったろうか。
と、ふと東へ向かう電車に揺られながら考えていた。電車の揺れというのは人の思い出に、ささやかに響くのだろうか。
鮮明に覚えているのは、初めてウォークマンを買った日だ。
たしかあれは小学4年生の頃。当日家にはMDカセットを再生できるミニコンボアンプとMDプレーヤーがあった。家ではよく音楽をかけていた気がする。オレンジレンジとか宇多田ヒカルとか。
ふと、自分で音楽を聴くためのデバイスが欲しくなった。それは衝動的だった。毎週届く家電量販店の広告チラシを見て、手持ちにあるお年玉で買える音楽プレーヤーを探した。そして見つけたのがウォークマンのEシリーズ。今では懐かしいUSBメモリ一体型のものだ。母親と一緒に隣町のコジマ電気まで行って、迷わずに買った。それが初めての、自分一人で音楽を聴ける日になった。
買ってからは毎日音楽を聴いていたと思う。福山雅治とかYUIとかパンプとか。ジャンル問わず聴いていた。
そこからずっと、音楽は僕にとって必要不可欠な存在になった。
いつの間にかギターをはじめていた。家にたまたまあったアコースティックギターを物置から取り出して、見様見真似で触っているうちにいつの間にか12年以上も経っていた。時々ギターを教えたりするぐらいには上手になった。
地元がジャスで有名な街だから、大学の頃にはよくジャズバーに行った。質のいいレコードとスピーカーから流れる音楽は他のどの音楽よりも素敵に聞こえた。友人と安めのウイスキーをロックにしてよく飲みながら、音楽の話をするのがとても好きだった。
音楽の聴き方も年をとるたびに移り変わっていった。初めで買ったウォークマンはいつの間にかスマートフォンに変わっていた。レンタルショップへ足を運んで、CDを借りていたのに、いつの間にかその曲全てがネット上で聞ける様になった。
今の人間関係も全て音楽が関わっている。友人のほとんどは音楽好きで、何かしらの楽器をしているし、大切な恋人も歌を歌う。出会いのきっかけも音楽から始まった。
初めて買ったあの小さなウォークマンから始まって、さまざまな出来事が起きていると思うと、人の一生というのは本当に不思議だな思う。音楽がない人生を想像すると、それは何も存在しない夜の砂漠のように殺風景だ。
大人になってから毎日が同じ様に進んでいく。同じ時間に同じ場所にいて、同じ作業をすることばかりだ。正直つまらないし、楽しくはない。
その分、音楽が日常を彩ってくれている気がする。新しい音楽に出会うと胸が躍るし、懐かしい曲を聴くと素敵な思い出を振り返ることができる。大人になってからより一層音楽を好きになって、大切さを知った気がする。