目的なんてなくても留学に行っていい話。遠い太鼓の話。
留学に行く理由とは何だろう?
おおよその答えはネットで検索すれば一覧で出てくる。
語学を向上させたいから。将来英語を使った仕事をしたいから。異文化交流をしたいから。色鮮やかな海外生活をしたいから。自分を変えたいから。就職の際にメリットとなるから。
おおよそそんなものだろう。
僕は思うのだけれど、こうした「留学目的」なんて必要ないんじゃないかと思う。むしろこうした「留学目的」が限定されている人ほど、実際に留学した際に現実とのギャップによって悩んだりする気がする。つまり多くの人が過大に「留学」=「何かを得るための便宜的な手順」ととらえすぎている気がする。そして「目的」が意欲を邪魔して、留学に行くきっかけを放棄している人もいる気がする。
僕の場合、留学したかった理由はとてもシンプル。洋楽、洋書が好きだからだ。
高校の時から洋楽にハマり、ビートルズ、ビーチボーイズ、レットホットチリペッパー、オアシス、ミューズ、スティング、エリッククラプトン、ジョンメイヤーなど書きだすときりがないほどの海外アーティストに傾倒していた。
海外特有のビート、レリック、アクセントが自分の体にしっくりときた。
次第に海外小説も読むようになった。レイモンドチャンドラー、レイカーヴァー、カフカにカミュ、ヘミングウェイにモーム、フィッツジェラルドとか。
そして村上春樹さんの本も僕を後押ししてくれた理由の一つだ。
特に紀行文では世界各地の生々しい生活が面白く書かれていて、僕を虜にした。特に「遠い太鼓」はギリシャ、イタリアの2年間の生活が詳しく描かれている。
そして本を読むと分かるのだが、生活の多くが大変だったことと失敗したことで書かれている。
実際にイギリスに来てしばしば同じ様な経験をした。
シャワーの圧は弱いし、時々お湯が出なくなる。ご飯はおいしくないし、その割に高い。
バスに乗っていると突然エンストを起こして一時間以上遅れたりすることもある。
街の中はゴミであふれている時があるし、土曜の夜なんてフットボール(ここイギリスでサッカーと言うと殺される)の試合があるから、地元のチームが負けたときなんか辺りで暴動がおこる。
天気なんてほとんど曇りか雨で、気持ちのいい晴れた日なんて滅多に見られない。
海外生活なんてそんなに良いものでもないのだ。
正直に言って日本ほど過ごしやすい国はない。これは断言できる。
けれども、これらが海外に住む理由がないとは言っていない。むしろこうした要素が留学する理由になるのだ。
生きやすさだけが人を幸せにするのではない、優しさだけが人を救うわけではないのと同じように。
それは古風なマニュアルの外車を好んで乗るように、人は時々不自由を求めるのだ。
だから留学に目的なんて要らない。「海外で活躍できる人材になる」とか「英語を使って日本との架け橋になる」とかそんな意識の高い目的なんで足を引っ張るだけなのだ。それは後付けの飾りだ。
こんなことを書いて誰かの意欲をそいでいるのなら大変申し訳ございません。
けれど一つだけ心に持っていると、留学の助けになるものがある。
シンプルに憧れだ。
日本に来る外国人を想像してほしい。彼らの多くは日本のアニメが好きだから。漫画が好きだから。カルチャーが好きだから日本に来ている。
彼らは異質なカルチャーが生まれた未知の国に憧れを抱いてわざわざやってくる。
僕たちが海外に行く理由がこれと同じで何が悪い。
こうした憧れを原動力にした人ほど、何かに落ち込んだときに立ち直れる。こうした人は鉄壁みたいに強い。
僕の場合、本当に音楽好きだったので、一週間に一回は近くのライブハウスに行って、リアルタイムの音楽を聴きに行っていた。
ビートルズとオアシスのファンなのでわざわざマンチェスターとリバプールに行って彼らの聖地を歩き回った。
ロンドンでギターを借りて公園でDon`t look back in angerを気持ちよく歌った。有難いことに何人かのアーティストと仲良くもなれたのだ。
英語ももちろん勉強する。こんなことを書いていると勉学をおろそかにしているように思われるかもしれない。実を言うと僕自身は内向的で、1人が好きなタイプだ。
それでも授業では誰よりも発言しているし、100%集中して取り組んでいる。
発音、文法なんてはちゃめちゃになる時があるけれど、そんなの気にしない。
日本人は発言をしないと思われがちだけれど、そんなの気にせず間違っても発言している。
その原動力もシンプルで、純粋にネイティブの発音が心地よいから会話したいのと、上達すればするほど、洋楽を歌うときに気持ちのいい発音で歌えるようになっているからだ。
凄くくだらないことかもしれないけれど、僕にとってはこれほどの喜びはない。毎日小さな夢がかなっているような気分になる。
だから便宜的な目的なんてなくて良い。好きと好奇心があれは十分だ。
もうすぐ日本に帰るけれど、十分に楽しめた。20代のうちにイギリスに来れてよかった。本当に。
もしこの記事が誰かの背中の後押しになってくれることを祈ります。