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【コラム&創作怪談】「隙間が恐ろしかったはなし」 2022/08/09筆

隙間ってあるじゃないですか。

身の回りにたくさん。何かと何かの間。光の差さない小さな、狭い暗がり。奥が見えない。最も身近で小さく、それだけに無限の奥行き、深淵の入口を幻視してしまう。
そんな隙間が怖かった。引き込まれそうな不安。何かが、正体の分からない何かとしか言えないようなモノがソコから延びてきて、掴まえて、ずるりずるり、引き摺られて連れて行かれるんじゃないか……そんな虞れを抱いていた。そんな思い出はありませんか?


月皓りの明るい夜のこと。

急に目が覚めて起き出した。夢を見ていた気もするし、夢の中のお話の展開が一区切り付いてほっとした気がしたような気分でのそりと立ち上がる。とてとて歩いてトイレへ向かう。

月の明るい夜だった。きらきらと輝く真っ白い月は、余りに美しく、神々しくて、まるでその照らされてる光景がいつもの家の中とは違った別の世界のことのように思えて、ドキドキとしながら、わくわくとした、ふわふわした感じで。僕は、縁側に腰掛けていた。

三重になった襖戸。その内の一つを開けて縁側に出たのだけども、どうもその隙間の陰が気になって。そこは月皓りの差さない、闇。深淵の、きっと多分、人が墜ちてはいけない深い深い闇の奥底、人ではない何かが犇|《ひし》めき蠢く。そんなところへ繋がっている。奈落の入口。そんな風に思えて、僕は怖くなって、部屋に戻ろうとした。

人……? 木製の縁に身を潜めるよう寄りかかる小さな何か。紙切れか、そうでなければ虫か。そう思ったけども、何か違う気がする。だってそれには、手もあり足もあり、顔があって、小さな瞳でこちらをじっと見詰めていた。小人さん……なのかな。それは親指程に小さな女の子だった。

「君は誰?」僕の掛けた言葉にその子はきょとんとした顔で、ただ見詰めるばかり。言葉が解らないのだろうか。僕は身を屈め、その子のことを覗き込もうとした

ぞわりと背中の皮膚が泡立つ。鉛のように重い冷水をぶっかけられたように芯が冷え、お腹の底が熱く重く、内蔵が捩れるような不快な、
何かが視えた。無限に続く、狭い闇の奥の奥。深淵の少し手前。此の世と彼の世の端境、じっと見詰めるソレは、瞳だったろうか。

女の子は、へたりと萎れた風船のように倒れていた。元々中身などなかったように、しわしわと、萎れ、皮だけのソレが、ぞろぞろと引き摺られて闇の中に消えていく。

悲鳴は、出なかった。何も考えられず。恐怖も何も感じなかった。その瞬間、僕は真っ白な、生まれたての赤ちゃんのように、震えることも、縮こまることもできずに、ただ、ソレを視ていた。僕を視ているソレを。視ていた。

闇。闇から伸びてきたモノは、やはり闇だった。じわりと滲み込む暗がり。僕の中に沁み込んで沁み込んで、やがて、僕は……
闇になる。

皮だけになった僕だった物を棄てて、僕は、闇の中へ、ずろりずろり、ああ、温かい。心地好い。僕は、僕の居るべき場所へ。深淵へ。闇ノ奥底へ。さようなら、僕だった物。


「隙間女」と云うお話があるそうです。

「隙間」「怪異」でググって見付けました。Google&Wikipediaは便利ですね。

江戸時代に流行った都市伝説で、話の内容を変えながら今に伝わります。桜金造さんバージョンが秀逸なようです。
お話は、そのまんま。『帰ってくると誰もいないはずなのに視線を感じる。部屋の中を探し回って、そして見付けたのは…… 細い隙間の中にいる女の姿』

金造さんバージョンだと、『出社しなくなった同僚を心配して職場の何人かで様子を見に行ったところ、「女が心配するので出られない」と言う。だが女の気配など何処にもない。探してみると狭い隙間に女がいて…… 皆逃げ出した』

映画にもなっているようですね。アマゾン評価は……低いです。Wikipediaであらすじ見る限り、設定や筋立てに手を加えてるっぽいですね。怪談話を無理矢理にホラー映画に仕立て上げたような。アマゾンプライムで見れますが、うぅん……


(。・_・)ノ

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