[ユタカジン]タスクシュート小説 【はぎさんと私の100日位】第二話
https://note.com/ogipooh/n/na4049a40f5ab
「おーい。こっちの処理も頼めるかな?」チーフはプリントアウトしたメールを私のデスクに置きながら言った。
転送してくれればいいのに、と思いながら事務的に受け取った。プリントアウトされると、何だか重くなる気がする。チーフは、それを狙っているのかもしれない。
私はいわゆるIT系。スマホアプリのゲームメーカーに勤めている。業界の中では、2番手ゾーンかな?20年近く前に、いわゆるガチャ系ゲームが大ヒット。一気に会社を拡大した。「ドラバタ」(ドラゴンバスターズ)と言えば、当時の高校生知らない人はいないものだったらしい。
しかし、その後各メーカーから似たようなゲームが次々発表されドラバタ人気も落ちていった。その後、発表するゲームもそこそこ売れはするものの、正直な話、別の会社が作ったゲームの二番煎じ感は否めないものばかり。
会社としては、第二のドラバタを目指すために、企画の社内公募を始めた。
もし企画が社長承認まで通ったら、そこのプロジェクトマネージャーに就任し、プロジェクトを進めることができる。予算がつき、開発から営業戦略まで任されるのだ。私のようなカスタマーサポート部門であったとしても。
私はこれに懸けている。 でも、日常の仕事に手一杯で、なかなか手がつけられていない。・・・、いや1文字も書いていないのが現状だ。書いている時間がなく、月日だけが過ぎてゆく。
今の仕事に大きな不満も大満足もない。新卒入社で7〜8年経った。同期入社の女性社員は、もう半分以上が退職している。寿退社とキャリアアップ転職が半々ぐらいだろうか。私はその波に乗れなかった。認めたくはないが事実なんだろう。
私の仕事は、カスタマーサポート。電話は受け付けておらず、専用フォームからの問い合わせに答える。問い合わせ内容で圧倒的に多いのが「課金したのに、反映されてない」だ。でもシステム上はほとんどあり得ない。
そこをいかに早く丁寧に相手に納得してもらうかが勝負だ。
来た問い合わせは担当分類されて社内システムで表示される。専用フォームでのやり取りは、一往復で終われば良いが、何度も往復が必要な場合もあり、タスクが終わったようでまた復活することがあり、管理がしづらいのだ。
そのため、今取り組んでいる案件をやっている最中にも常に別の案件のことも気にしなくてはならない。案件の担当者は決まっているけれど、チーフのから案件が回ってくることもあるし、後輩から相談されて、それをそのまま引き受けることもある。企画書も書かなくてはならないし、チーフからの案件も処理できていない。
あー、またこれだ。頭の中でタスクがこだまする。最近はこんな日が多い。終わらない仕事も増えてきた。ふと、先日居酒屋でもらった名刺を思い出してアクセスしてみた。
その日の夜、いつもの居酒屋に入る。奥の店員の「お好きな席にどうぞ!」を浴びながら、「別にこの席好き!」とかないけど。と思いつつ、キョロキョロと辺りを見回す。
いた!この前のおじさん。中央付近のテーブルで1人で飲んでいる。意を決しておじさんのテーブルへ向かう。
「あ、あのー、」と声をかける。
おじさんは、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みで立ち上がった。「こんばんは。先日は失礼いたしました。」
「こちらこそ、失礼いたしました。ちょっとお話を伺ってもいいですか、」
「もちろんです。ありがとうございます。なんでもお話しさせていただきますよ。どうぞおかけになってください。」
おじさんの向かいの席に座ると、とりあえず勧められるままにレモンサワーを注文した。
おじさんは、すでにビールを飲んでいる。
「何をお話ししましょうか?」
「動画を見たんですちょっとだけなんですけど。」
おじさんの名刺にはQRコードが載っており、そこにアクセスすると1分ほどの動画がずらと並び、タスシュートに関することをまとめてあった。
「【タスクシュートに挫折した方へ】を見ました。それでちょっとお伺いしたいんですけど、、私、2〜3年前にタスクシュートを使ったんですが、その時はだんだんをするのを辛くなってきてしまったんです。動画の中で「マッチョな使い方をやめよう」「プラン通りにいかなくても良い」とおっしゃっていましたが、その辺がよくわかりません。
プラン通りに行かないと、タスク管理の意味がないと思うんですけど?」
おじさんは、ビールをぐいっとひと口飲むと、
「まずは動画を見ていただいたこと、質問にまで来ていただいたこと、心より感謝申し上げます。ありがとうございます。
さて、ご質問に答える前に確認したいことがございます。タスクシュートサイクルについてはご存知ですか?」
「タスクシュートサイクル?なんですか?それ?」
「はい、ご説明いたしますね。1日のやることをシミュレーションするプラン、実行の開始時間と終了時刻を記録するログ、そして繰り返し実行するものはルーチンとして登録する。これらをサイクルとして回していくこと、これをタスクシュートサイクルと呼んでいます。」
「プラン、ログ、ルーチンの3つの言葉は聞いたことがあります」
「ありがとうございます。ここで重要な事は、タスクシュートは何が何でもプランを実行するためのものではない、ということです。
タスクシュートは開始時刻と終了時刻を記録することによって現実に目を向けるものです。」
「現実に目を向ける?どういうことですか’?」
「自分の立てた目標や計画、プランにこだわるという事は、自分が立てた理想が正しいということですよね。それって現実に目が向けられていないと思うのです。
そうではなくて、タスクシュートを実行することによって、現実に目を向けていくのです。
仕事、頑張っている自分、思うようにいかない自分、どちらも人の記憶は簡単に自分自身の手によって改ざんされます。
タスクシュートを通じて、自分の行動を知ることによって、現実に目を向けていくのです。
おそらく前回辛くなってしまったのは、プランのことを考えすぎていたからではないでしょうか?プランとログの差に落ち込んでしまったのではないでしょうか?
そんな必要は全くないんです。タスクシュートの世界にはこんな言葉があります。『プランよりもログが正しい。』」
おじさんの言葉に、私の中で気持ちよく何かが崩れていく音がした。
この人の弟子になろう、いつの間にか決意していた。
本記事は、「時間的豊かさを追求する」ユタカジンへの寄稿となります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?