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何も考えない夜。10月9日 日記

10/9水

なんとなく夜は遅くまで起きる。

0時を過ぎてもなおだ。
例のアーティストのラジオの日だから。



風呂を出る頃には22時を回っていた。


母はテレビを。父はダイニングでゆっくりスマホを眺めていた。





今回は水を一杯飲み、「また明日」と聞こえるかどうか分からないくらいに呟く。


「おやすみ。また明日ね」
返事が返ってくる。



階段を上り部屋に入る。



意味もなくスマホをいじり、SNSをローテーションさせる。





0時を過ぎ、1時に近づく。

ポ。ポ。ピーン。

ラジオの番組が切り替わる。





「どうもこんばんは。」



パーソナリティの彼が話し始める。



それとともにTwitterを開き、番組ハッシュタグのみを呟く。

リスナーたちが一斉に投稿する。



やはり、オープニングトークには新発売のエッセイ本の話であった。


結局、シリーズ1は手を止めることなく終わらせてしまった。



読み終わった時には達成感、満足感が一気に僕の心を攫ったが、今となってはもの寂しいようで。


寂しさが待ってるなら。。と、いまだに最新作は一文字も読めていない。


絶対に楽しいのに。
絶対に喜びが溢れるのに。


終わってしまう寂しさ、悲しさを想像し行動に移せるような気分には陥らなかった。



まだ、学校用のカバンに息を潜めている。



いつか。読もうかな。





そろそろオープニングトークが終わる。



恒例の曲紹介だ。
彼の流す音楽はどれも好きになれそうな気がする。




曲を聴く。




だが、だんだんと意識が遠のく。
音がだんだん向こうへ行ってしまう。



まるで彼がマイクのカフをゆっくり下ろしてしまうように。
小さくなっていく。


気づいたら番組は終わり、母の声がする。





朝だ。




こんな寝落ちが1番気持ちよかったりする。


どんな話をしたのか。
どんな曲が流れ、どんなメールが届き、どんなコーナーで盛り上がったのか。




なにも知らない。



これでまた楽しみが一つ増えたのかな。 




毎朝、ギリギリに起きる。
今日は特に。


準備を済ませ、あとは出るだけ。


思いのほか、外は大雨。

電車を長時間利用するため折りたたみ傘を重宝しているが、今日はしっかり傘を持っていこう。



毎度のごとく、母に送迎を頼む。


申し訳ないが、快く車に乗せ、運転してくれることに甘えっきりだ。



ものの数秒で傘はびしょびしょ。
ズボンもかなり濡れてしまった。
すげぇ雨だ。




今日は珍しく制服を着る。



生徒会選挙なんてもんがあるらしい。

そのためだけに制服を着るのはあまりいい気分ではないが、ルールのため仕方なく着る。



またまたギリギリ。
車で送ってもらったものの電車に乗り遅れそうだ。


小走りでホームへ向かう。
ギリギリ間に合った。
ちょうど電車も到着し、いつもの2号車4番ドア前に立ち止まることなく乗り込む。


雨だからか?
いつもより少し混雑してる。
ドアの隅で縮こまる。
何も考えない時を過ごす。
ただひたすらに乗り換えの駅を待つ。


この乗り換えでの移動はすべて屋根の下で完結する。
とてもありがたい。




学校の最寄りまで座る。
とてつもなく眠い。


1時まで起きた日はいつもこうだ。



すぐに眠りにつく。
最寄りを通り過ぎてしまうかもしれないことも気にせず。



ふと目を覚ます。
おっラッキー。

最寄りの一個前で起きる。


意外にも大雨でダイヤが乱れ、少し遅れているらしい。
この遅延がなければ乗り過ごしていたんだろうか。



ホームから改札へ階段を上る。
改札を出たらすぐに傘が必要だな。


改札を出た人たちで溢れかえり、誰しもが傘を開くことに苦戦してるようだった。


やはり強い雨。


下を向き、いつもより少しだけ早めに歩く。


傘をさしているのに。
さしながら歩いているのに。


足元がびしょびしょだ。


視線に入る前の部分に意識を持っていき過ぎて、足首のすぐ上。ふくらはぎ部分が少し濃い灰色になっている。


皮膚にへばりつく。

最悪な気分の登校だ。


1限はただ話を聞き、先生の書いた単語を一緒に埋めていく授業。


なんだか集中できない。


完全に両足元に邪魔されている。


どうにか気持ち悪くなくしたい。


裾を折り曲げる。
あまり変わらない。
乾くのを待つ。


1限が終わる頃には少し乾き気味だった。
うれしかった。



1限がないクラスメイトが今頃になって登校し始める。


たわいもない挨拶を交わす。



2限も淡々とした作業がメインであった。
3限もあんま記憶していない。




4限だけはしっかり覚えている。


制服登校させた元凶。
生徒会選挙だ。



全校生徒が体育館に収容される。
まさに拷問とでも言おうか。




候補者全員が薄っぺらいことを並べ出す。


1人目の生徒会長立候補者。
スピーチをする。

新iPhoneを発表するかのように歩き始める。


霜降り明星の漫才にある「きっしょいジョブスやな」とツッコむ件を思い出す。
人知れず笑う。
もちろんマスクの下で。



この1人目で完全に僕のやる気は天へ昇った。



終わったら拍手をする。
いかにもやる気のなさそうな拍手だったように思う。



ある候補者が「みなさん。天井をご覧ください。」と呼びかける。


折りたたまれているバスケゴール。
ただ眩しい照明が目に入る。


天井、あんまり見てこなかったな。




「この私の一言で多くの方が天井を見てくれました。言葉には大きな力があると思います。」





腹が立った。




ただこの候補者の手の上で転がされてただけかよ。
特になんもねぇのかよ。
退屈な時間は続く。




50分授業の中で45分もの浅い内容の演説をリピートされる。




体も痛くなるほど座らされ、ようやく司会が話し出す。
やっとだよ。




クラスへ戻る。立ち上がり、出口へ向かう。

「はあ。」
「はあ。」


後ろに座ってた友達とハモった。


ふたりして笑う。


こんなんでも笑えるのが嬉しかった。




クラスへ戻り、投票用紙が配られるのを待つ。
各々愚痴をこぼす。




もうとっくに昼休みの時間。
しかも10分も経とうとしてるが、まだ終わらない。





みんなのフラストレーションが溜まりゆく。

担任が締める。





解放された僕たちは教室には居られない。
少しだけ廊下に出て手を洗うが、人が多い。


教室に戻る。
ほとんど人がいない。


みんなもしんどかったのだろうと思う。


5限には小テストが待ち受ける。


やりたくない。だが、やらなくてはならない。
ただ教科書を眺める。


覚えてるかどうかは、テストで分かるが、毎回覚えてないことが立証される。


チャイムが鳴り、担当の教員が出席を取る。
すぐにテスト用紙を配る。



長めの時間設定のテストだ。
この問題数にしては、という話だが…。



終わって解答を交換し、隣のやつが採点する。

今日は隣のあいつがいない。

まあ、雨だし。
いやでもあんまり休むのは聞いたことない彼。




こんな気持ちはすぐ消え、テストに向かってしまった。
3人で回転させるように交換する。




プロジェクターに回答が写されて僕たちがまるかバツをつける。


20点満点。いつも10点くらいしか取れない。

さて、今回はどうかな!



12点。可もなく不可もなく。
まるでなんの取り柄もない僕のよう。





1限と似たような授業スタイル。


淡々と穴埋めをする。

つまらない。


6限も同じ授業だが、間の休み時間に耳にイヤホンを突っ込む。



話し声。笑い声。
雑音混じりに音楽を聴く。


チャイムが鳴る。


6限が始まる。




僕はまだイヤホンを付けたまま。
ノイズキャンセリングで教員の声をシャットアウトする。





ぼーっとしていた。






右手にオレンジのペン。


書く動作をしようとすると同期したように僕も動き始める。

長く感じた。

集中力は5限に置いてきた。



授業が終わる。




颯爽と教材をロッカーにしまい、傘を手に取り、校門から出る。



ほんの少しだけ。
ミストのような雨が降っている。

傘を開くつもりはない。


今日、1番の速さで歩く。


もしかしたら電車があったような。



そのとてつもなく曖昧なもののためだけに、早く歩く。

全くそのような電車はなかった。




ホームの椅子に腰を下ろす。
日記を書き始める。



あ。
いつも彼女と帰る彼が今日は1人だ。


そんな彼を見つけたが、なにもコミュニケーションを取らず電車を待つ。


同じ車両だが僕と彼の間には二つほど長椅子を挟んでいるかたちだ。




彼も1人か。
彼はなにか、スマホか、参考書か、単語帳か分からないが没頭してるように見えた。



ふと気がつくとかなり電車が進んでおり、彼の最寄りは過ぎていた。
当たり前だが、彼の姿はなかった。


みんなもみんなの日常に必死だ。




乗り換えを済ます。
やけに人が多い。
僕と同じ、下校の高校生がこれでもかと立っている。



少し息苦しさを感じながら電車を待つ。


偶然空きがあった。
座りながら時間を潰す。

車窓を覗くとほとんど雨は感じられなかった。



どんどん人が入ってくる。
まさに満員電車のよう。


細い道を掻い潜るようにホームに出る。
端だけ濡れたホーム。



いつものように帰路につく。
全く降っていない。




前を行く女子高生が突然走り出した。
曲がってすぐの信号が切り替わろうとしているのか。



すぐに察してたまらず僕も走りだす。



やった。間に合った。
横断歩道の真ん中で点滅する。



スマホばっか見てなくてよかった。



大きい道から細い道へゆく。



人も少なくなる。



また今日もひとりになる。







帰宅すると姉がいた。



リビングでだらけている。
この時期にもなって、まだ夏休みなんて。
大学生は羨ましいよ。



この人も音楽が好きだ。
バンドを組み、ライブハウスでバイトするほどの。



とても話が合う姉弟でいられて嬉しい。

自分の部屋へ行く。


それでは。


今朝新しくできた楽しみを消費することにしようではないか。



ひとり、イヤホンとともにベットに横たわる。





では。



また明日。

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