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「緋田美琴の退場が齎したもの:XRライブをジュークボックスにしないために」2025年1月12日
・今日は、シャニマスのXRライブに来ている。基本的にアイマスのライブは各キャラの楽曲を担当声優が歌う形式だが、今回のライブはキャラクターがスクリーン上に映し出され、キャラクターだけでパフォーマンスを行う形式となっている。
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・シャニマスはXRライブの前例がほとんどなかったものの、高度な映像技術と照明等の演出によって魅力的なパフォーマンスになっていたと感じる。
・例えば、踊っている途中にアイドルが立っている足場が10mほどせり上がっていき、その足場がスクリーン代わりとなっていた。足場が不安定かつ高度が上がっていく中、激しいダンスをするというのは、危険性を鑑みると生身の人間でやることは限りなく不可能に近いだろう。
・この他にも、XRライブでないと不可能な演出が数え切れないほどなされていた。その演出のどれもが、XRライブが持つ「プログラミングの如く、事前に綿密な組み立てが出来る」という特性を遺憾なく発揮していて、非常に見ごたえがあった。
・ただ見ごたえがあると同時に、俺はどこかパフォーマンス中に退屈さも覚えていた。XRライブのパフォーマンスにおいて、キャラクターの彼女たちは歪な表情になることもなく、観客が慣れ親しんだCD音源のまま楽曲を歌い上げ、寸分の狂いのないダンスを執行している。
・つまるところ、完璧すぎて緊張感がないのだ。俺はナマモノであるはずのライブに来ているはずなのに、映像付きジュークボックスが再生されているのを見守っているような感覚に陥る。
・ここで今回のライブ[liminal;marginal;eternal]のキャッチコピー「完璧・永遠であることは美徳であり、彼女達は幾度も到達の機会を与えられる」を思い出す。ライブに来るまでは意味が分からなかった。ライブが終わった今考えると、これはXRライブのことを説明している言葉だったのだな。
・XRライブ=ジュークボックスと解釈するのなら、我々は再生ボタンさえ押すことが出来れば、永遠に完璧なパフォーマンスを楽しむことが出来る。そんな成功が確約されたライブは美徳あり、美徳であるが故にファンたちからこのジュークボックスは何度も再生ボタンを押される。キャラクターの彼女たちは観客に到達する機会が幾度も与えられる。
・ただそんなものは、制限的(liminal)で僅か(marginal)だと言いたいのだろう。永遠(eternal)ではあるものの。
・ここで公式パンフレットを見てみよう。
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・このページでは、本ライブの魅力がスタッフ目線で紹介されている。注目してほしいのは、最終段落。急に文字化けを起こし、「完璧・永遠であることは美徳であり彼女たちは幾度も到達の機会を与えられる」という先ほど紹介したキャッチコピーが繰り返される。
・この明らかに妙な描写は、このライブが過去に途方もない回数繰り返されたことを示唆していると俺は考える。ジュークボックスの例えでいえば、何度もスイッチが押され、幾度も観客に到達している状態だ。
・先ほど言った通り、そのライブが何度もループされている状態は制限的で僅かなものだ。永遠だけれども。(liminal・marginal・eternal)
・ただこのループは我々が参加した回のライブでは壊されることとなる。それこそが、第2公演における緋田美琴の体調不良による退場が齎したものである。
・演者の中から退場者が出るライブは、完璧なライブではない。退場は永遠という言葉からはかけ離れた事象であるし、体調不良は一切美徳ではない。よって観客はこのライブを何度も再生したいとは思わない。
・緋田美琴の体調不良によって、彼女たちは観客に幾度も到達する機会を初めて奪われた。ただそれゆえに、今日のライブはループの制限から解き放たれ、見ていて緊張感がある刺激的なものになっていたはずだ。永遠ではなくなってしまったが。
・だから俺は「緋田美琴の体調不良」という本ライブの演出を否定したくない。このライブを【liminal;marginal;eternal】の檻から解き放つには、何らかの劇薬が必要だったはずだから。
・その証拠に俺はこの演出があったからこそ、今日参加した最終公演は緊張しっぱなしで参加した。永遠に再生できるならば退屈に感じたはずの、彼女たちの寸分の狂いがないパフォーマンスに対して「誰かが体調を崩してしまうのではないか」・「美琴は早々に復帰したものの、未だに精神面では不安定なのではないか」・「でもこの苦境を彼女たちに乗り越えて欲しい」と不安感と期待感を持って見守った。
・この演出を否定する意見が出てしまうのは至極当然だと思う。
・特に緋田美琴目当てでライブに参加した人は、公演途中で自分が見たかったアイドルのパフォーマンスを取り上げられた気持ちだろう。しかも体調不良という不幸な形で。
・またこれが「プログラミングの如く、事前に綿密な組み立てが出来る」XRライブであることは彼らの神経を逆撫でしたかもしれない。
・声優さんのライブで体調不良による退場が引き起こったならば、それは完全なアクシデントであり、少しは溜飲も下がっただろう。
・ただし、今回はアクシデントは起こり得ないXRライブだったわけで。まるで自分が応援しているアイドルが、総合演出のために何者かによって生贄にされたと思っても仕方がない。
・また緋田美琴のことを、1人のアイドルではなく、架空のキャラとして消費された感覚になった人もいるかもしれない。今回の体調不良はゲームの状態異常みたいな軽さを伴ったもので、生身の人間のソレとは違うというか。
・ただ俺はこの演出にGOサインを出した人は、これまでの緋田美琴の物語で彼女を血の通った1人の人間として表現してきたことに自信があって、この判断に至ったのではないかと思う。
・これまでのシャニマスで描かれた緋田美琴といえば、「パフォーマンスで観客を感動させられるアイドル」になることに異常な拘りを持っている女性であった。
・飄々と「目指してる通りのアイドルになれるなら死んでもいいって思ってる」と言えてしまうほどの覚悟がある。劇中、不安定な足場でのターンという自殺紛いのパフォーマンスを独断で実行しようとしたこともある。
・緋田美琴の物語を追えば追うほど、彼女はいつか本当に壊れてしまうのではないか?という疑念が強くなっていく。
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・今回の体調不良は、我々のそんな疑念に対するアンサーと取ることも出来、これはある種の運営からのサービスであると俺は思ってしまう。
・だって、わざわざこんな博打を打つメリットがないから。
・セットリストはそのままに、演出・曲順・MCの内容で多少の変化をつけるような、不公平感が少ない内容のXRライブを4回公演したとしても、興行として一定の成果・反響を得ることは出来たはずだ。またそのことは運営も十分理解しているだろう
・ただそんなライブは、永遠であっても制限的で僅かなものである。
・彼らは「見せかけの永遠と変化のない日々こそが真なる美徳であると示すような※」世界に甘んじるつもりはない。このループから抜け出すための鍵を見つけ出すために、このライブを使って足搔いてみせた。
・足搔いた過程で、沢山の人を傷つけてしまっただろう。それを今後更に多くの人から批判もされるだろう。
・だけど、少なくとも俺は今回の演出を決行したことを称賛したいと思う。ここまで心が震える演出は受けたことがない。俺を退屈な世界から出してくれてありがとう。
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アイマスエキスポ【シークレット謎解き #円環を待つ点P 】より
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