近畿大のワクチン接種プロセスを考えるハッカソンで登壇してきました
近畿大学理工学部情報学科電子商取引研究室とIOSTが共催するワクチン接種のプロセス証明の簡略化をテーマとしたハッカソンに、企業登壇、およびチームメンターとして参加させていただきました。ブロックチェーンのトレーサビリティを用いて、ワクチン接種というモデルに対して、どのような貢献ができるのかについて学生の皆さんと丸二日議論を行い、プロダクトの作成を行いました。
企業登壇では、ゲームエンタメ分野でのNFT活用について説明をしました。
さて、ブロックチェーンを用いたワクチン証明書の仕組みは、既に色々なところで利用されています。
シンガポールにおけるHealthCertsなど規格化の動き
シンガポールでは、ブロックチェーンテクノロジーを使用して、COVID-19テスト結果を検証するためのグローバル標準を開発し、旅行中の国内および海外の入国審査ポイントのクリアをスピードアップするといった記事も出ています。
Singapore has used blockchain technology to develop a global standard for verifying COVID-19 test results to speed up clearing local and foreign immigration checkpoints when travelling.
私の登壇発表の中で、ERCなどの規格化の重要性についてコンテナを例にして説明しましたが(私の過去の記事でも解説しています)
様々なステークホルダーが存在する中で、情報を相互に利用するためには、ブロックチェーンのインターオペラビリティによって、データ自体を相互利用する必要があり、そのためにはグローバル標準というような規格化が有効です。
このシンガポールの事例では、GovTechとMOHが連携してHealthCertsという国際標準を作成したと書かれています。HealthCertsについては、すでに詳細なドキュメントが用意されており、オープンエコシステムと官民パートナーシップをサポートするようにも設計されているそうです。
ハッカソンでも活発に議論されていた相互運用性の重要性
私がメンターを受け持ったグループでの議論も、最終的にはどのような情報を規格として載せれれば良いかという話題になりました。
ワクチンを受けた人の名前、場所、回数などに加えて、他にも様々な項目がデータベースの定義に追加されていきました。私が非常に驚いたのは、シンガポールのHealthCertsのような取り組みに誘導したわけではなく、学生さんたちが自発的にワクチンの異物混入などをテーマにした時に、上っ面だけのアプリケーションを作るだけでは不十分で、ワクチンなどの企業側のサプライチェーンとのデータの接続が必要であるとか、または接種を行う病院で働く看護師さんたちの人数などキャパシティを知るために、病院のシステムなどと連携する必要があるのではないかというような、データの相互運用性について非常に活発に議論を交わされていたことです。ブロックチェーンの活用として、やはり1社の中で完結するものよりもこのように様々な企業やシステムが連動するような場面での課題解決に、ブロックチェーンという仕組みの可能性はより広がると改めて感じました。
今回、ワクチンというものがテーマであったこともあり、自ずと個人情報やセキュリティ、またレピュテーションリスクなどについても、自然と課題に上がったことが良かったのではないかと思います。
今回、基盤として採用されていたのは、IOSTという基盤で、Proof of Believability (PoB)というコンセンサスアルゴリズムを採用していることが一つの特徴です。セキュリティとスケーラビリティに特化していることなども、このようなワクチンなどの取り組みと非常に親和性のある基盤とも言えるかもしれません。
Only the individuals' hash – or digital finger print – will be published to the blockchain upon issuance to keep data private, claims the Smart Nation and Digital Government Group (SNDGG).
シンガポールのワクチン証明書の事例ではEthereumを利用していますが、EthereumはPublicチェーンであることから、全てのデータは公開されてしまいます。そのため、ワクチン証明書のサイトには、このように個人のハッシュのみがブロックチェーンに公開され、データそのものは、他の場所で管理されていて、非公開になると説明が書かれており、セキュリティ観点などの工夫はチェーンごとにも工夫がされていく必要があると思います。
Verify.govのシステムはすでに運用されており下記のリンクから見ることができるようです。
terms2には下記のように記されており、ブロックチェーンエンジニアが、非常に慣れ親しんでいるEthereumとInfuraでの構成でシステムが提供されていることが伺い知ることができます。
Verification is performed by accessing the Ethereum Distributed Ledger via endpoints hosted by Infura
Conclusion
この記事にはアフリカにおけるCovidと、求められるブロックチェーンの必要性について書かれています。特に、人工呼吸器とワクチンの不足のために奪われた命は多く、医療情報交換と分散型元帳によって支援された医療サプライチェーン管理によって減らすことができたのではという問いかけもありますが、システム間の連携の重要性として、スピードと安全性という面も非常に重要な観点です。ディスカッションの中でも今、多くの行政で行われている作業が、システム間の連携ができず、その間のルートを紙で行なっていることにも触れられていました。csvやxmlさらにはapiというデータの連動の仕組みを各システムで連動することも可能かもしれませんが、そうなってくると、さらに、相互のシステムのカラムを揃えるとか、convertするとか、複雑な作業が必要になります。データの格納先や、見えてはいけないものが見えてしまうなど、権限管理など複雑な制御が必要になる可能性があります。
そういった点で、ブロックチェーンの規格化を行い、その規格を各システムで踏襲、さらに、スマートコントラクトを用いて、セキュリティの制御を行うということに繋げられれば、もっと多くの社会的課題を解決できる可能性はあります。ただ、一方で、先に述べたコンテナの規格化の事例でも、業界や労働者たちの大反対に遭いながら、その規格の統一には並並ならぬ努力が必要であったという経緯もあるわけで、このような規格化は非常に根気のいる時間のかかる作業になるかもしれません。この辺りの経緯について書かれている書籍、コンテナ物語は2013年のビルゲイツが選ぶ推薦図書7冊にも入っているそうですので、もし興味があればいかがでしょうか。