地方創生からみる人的資源を最大限に活かすためのシェアリングエコノミーとスキルシェアの未来
地方のお年寄りなど、買物弱者対策などのために、異業種(タクシー会社など)による買い物代行サービスの取り組みが広がっているというニュースがありました。
シェアリングエコノミーは、様々な文脈によって区分されており、たとえば、Airbnbなどのように民泊や部屋貸しをメインとする空間のシェアリングエコノミー、UberやAnycaなどのように移動する車の貸し借りにおける移動のシェアリングエコノミー、CampfireやMakuakeのように様々な事業にお金を出し合うお金のシェアリングエコノミー、メルカリなど、使っていないモノを貸し借りや売買するモノのシェアリングエコノミーなど様々なものがあります。その中でも地方創生などで大きな注目を集めているのがスキルや労働力をシェアし合う、スキルのシェアリングエコノミーです。
InstacartやTwidyなどの買い物代行
前述の記事のように、高齢者にとっての日常の買い物は一つの障壁であり、社会課題となっています。これらを解決するために買い物代行業という業種が発展しています。都内ではUberEatsなど、お弁当の宅配などを個人が請け負ってサービス提供するケースも増えていますが、これらの仕組みは利用者の利便性だけではなく、人材のスキルシェアとも呼ばれ、運転免許のある人や、手話ができるなどスキルのある人が副業的な賃金の確保できるという観点からも有効であると言われています。
スマホからサービス上に登録されているスーパーを選び、欲しい商品を注文すると、自宅まで届けてくれる買い物代行サービス「Instacart(インスタカート)」は新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、売上を急拡大しています。Instacartは元アマゾンのエンジニアが2012年に創業したお買い物アプリで、クラウドソーシングのような形で個人のshopperに買い物を依頼できる仕組みが特徴です。北米の7割以上の世帯で利用可能なインスタカートの需要は、パンデミック後に自宅で過ごす人が増えたことを追い風に急拡大し、受注は過去12カ月で500%の伸びとなったそうです。他にも、インスタカートの“日本版”とも言えるプロダクト「Twidy(ツイディ)」がなども一部エリアにてローンチされる予定になっています。
限られた人的資源を最大限に活かす
買い物代行については、スーパーマーケットがサービスを提供しているケースなどもあり、注文から発注、配送まで一社が一貫してサービスを行えば良いのではないかと思われるかもしれませんが、ここにリソースの問題があります。「宅配クライシス」などという言葉が生まれている通り、個人宅向けの配達物量が急増し、宅配業を中心に人手不足は今後も進んでいくと言われている現代、特に地方都市などにとっては、リソースの問題は大きく、そのような中では、限られた人的資源を報酬モデルを通じて、最大限に活かすことが重要になってくると言われています。また、適材適所という言葉があるように、野菜をお店でピッキングする人は、普段買い物をする主婦の方が良かったり、関わる複数の人の協力によってより高いレベルのサービスを提供することもメリットです。店舗から見ても、例えば、大手スーパーの場合は、ネット用の在庫を積んで、専用のピッキングスタッフを雇い、専用の物流網を作ることもできますが、ローカルのスーパーなどはそこまでの設備投資は難しいので、初期コストがかからずにネット販売が開始できるというメリットもあります。
ますます伸びているスキルシェア市場
スキルシェア市場は年々多くのサービスが誕生しており、クラウドソーシングや、家事代行サービス、翻訳などの通訳、またはイラストの提供などなど、分野に応じて様々なサービスが展開されています。メルカリアッテなどご近所などで困りごとを相談できるサービスや、ワオミー、タイムチケットなど個人の隙間時間を提供するサービスなどは、新しい副業の新しい形としても、注目されました。
ブロックチェーン分野では、TIMEBANKと言った著名人や専門家の時間を「10秒単位」で売買できるアプリであったり、個人の価値を「VA」と呼ぶ独自トークンで株のように売買できるVALUも注目を浴びました。VALUは、株価のように個人の価値の変動によって、利益が生まれるため、アイドルなどの先行投資のようなクラウドファンディング的な使い方にも期待されています。(注意:ここで紹介した一部サービスは、既にクローズしているものもあります)
買い物代行以外にもこのように個人が隙間時間などを使って、スキルを生かす場は多くあり、今後も増えていくと考えられています。
地域通貨と地方創生
企業にとっても、都市にとっても人材というのは重要で、人がもつスキルを経済価値に置き換えることはビジネスの基本であると言えます。そのような中で、ブロックチェーンを使った地方貨幣経済との連動が注目されています。米国では最古で最大の現地通貨システムである「Ithaca Hours(イサカアワー)」であるとか、ボルチモアのBNoteなどに代表される地方通貨。日本でも、岐阜県の高山市、飛騨市、白川村限定で使える電子地域通貨「さるぼぼコイン」が注目を浴びました。これまで紹介したスキルと、その報酬としての経済が連動することでより、地域に密着した新しいビジネスモデルの構築ができると期待されています。
コミュニティ通貨が表現できる一番大きなメリットとして、お金に換算できない価値を換算できるという部分にあります。
自分にとっては、ほんのささいなことでも、他人にとっては、大きな価値のあることはたくさんあります。車を持っていないお年寄りを、ちょっとした空き時間にスーパーまで運んでくれること、コンピューターの苦手なお年寄りの代わりに、ネットの宅配サービスを代わりに注文してあげることなど、これらは、困っている人にとっては、とても大きな価値で、お金には換算できない価値があります。
ブロックチェーンの世界には、PoWやPoSというコンセンサスという概念があります。はじめて会う人同士が安全に取引をできるように、あらかじめ、決められたルールにのっとって、監視しあう仕組みがコンセンサスと呼ばれています。通常であれば、このコンセンサスを構築することに莫大なコストがかかってしまいますが、ローカルのコミュニティにおいて優れている点はこのコンセンサスが地域のネットワークという観点で既に存在しているという点にあります。顔馴染みにの人とコミュニケーションをしながら助け合うこと以上に、安心感のあるコンセンサスはないのではないでしょうか。
かといって何のきっかけもなく、手伝って欲しいと言うのはなかなか気がひけるかもしれません。そういったコミュニケーションの手段として地域通貨はひとつのコミュニケーションの触媒として働く可能性があります。
コミュニティ通貨まちのコインの事例
すでにこういった体験がつくられているサービスとして、まちのコインなどが挙げられます。
まちのコインでは、コミュニティ通貨を通じて、そのコンセプトに共感する地方自治体や民間事業者などを中心に価値の交換を行うことができます。たとえば地域のラジオ体操に参加したり、様々な地域の交流をおこなうことでコインを得て、そのコインもまた、様々な地域のサービスに利用することができます。
まちのコインでは「お金で買えないうれしい体験」というものをテーマとして、お店の方やほかのお客さんとの距離が縮まり、来店する機会が増えることで法定通貨の消費行動自体も促すし、経済効果が期待できるとしています。
こういったコミュニティはDAOともいわれ、新たな地域のあり方として注目されています。他にも地域の課題をスマホで解決するFixMyStreetなど様々な事例があります。
Conclution
以前AirbnbStoryという書籍を読みました。とても印象的だったのが、ブライアン・チェスキーが、住居をシェアするビジネスモデルについて、様々な人に否定された末、彼の祖父に意見を求めると、”昔はみんなそうだったね”と、特に目新しさを感じることなく、応援するといったという場面でした。
シェアリングエコノミーという言葉が作られ、先進的に思えるサービスでも、その昔はそれが当たり前だった時代があります。その原型は、お隣からお醤油を借りるようなイメージに過ぎないかもしれません。しかしながら、今や、近所から物を借りることや、物物交換をするようなことは都会ではほとんどみられないと思います。隣人関係の希薄化になった現代において、システムの力によって、信用や信頼というものをシステムで担保することで、人々がより安心で、安全にシェアリングエコノミーを体現する手助けができるかもしれません。