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人は見た目ではない

仕事柄、あまりスーツを着ることがない。
ジャケットくらいならもちろんあるが、
スーツを上下で着る機会は、一年でも数えるほどしかない。

人は見た目ではないとよく言われているし、自分もそうだと思っている。
思ってはいるが、
スーツ姿のビジネスパーソンに囲まれた平日午後の大手町は、
まるで大学生がふいに飛び込んだ大人の世界のようだ。
所在なく、落ち着かない。
ここにいてもいいのかなと、一瞬不安になる。
周りにいるビジネスパーソンたちは、
おそらく年下もたくさんいるのだろうが。

「大人の象徴」としての服装は、
いくつになってもそのイメージを変えない。
スーツはもちろんそうだし、
個人的には高校野球のユニフォームもそうだ。
小学校や中学校のころに見た、自分より年上の少年たち。
焼けた屈強な腕で白球を追い掛けるその姿は、
「大人っぽいなあ」という憧れのイメージをそのまま、
いまでもやっぱり「大人っぽいなあ」と思ってしまう。

先日、千駄ヶ谷にある喫茶店に行った。
よく晴れた水曜日の午後で、
店内は冷房がとてもちょうど良かった。
初夏の屋内は、Tシャツだとすこし寒いときがありますよね。

イスに座ってコーヒーを頼み、
すこしぼうっとして店内を眺めていた。
1人客が3名と、2人客が1組。
広めの店内にパラパラと、三々五々に座っていた。

コーヒーを飲みながらよく見ると、
全員、仕事をしていることに気付く。
1人はPCを触りながら、商談らしい電話。
1人はスケジュール帳を片手にアポイントの設定。
2人組は社内のマネジメント体制がどうとか口角泡を飛ばしている。

なにがすごいって、その全員の洋服がB系だったことだ。
ツバが真っ直ぐのキャップに、白いTシャツ。
ひげを生やしていて、体格が良い。
それでいて、しっかりビジネスを動かしている。

人は見た目ではない。
事実、そのとき店内でいちばん暇そうだったのは、
唯一ジャケットを着ている僕に間違いなかったのだ。