【連載第10回 みんなの公園】公園から子供たちを排除したアレコレ
少子高齢化による公園から喪失した遊び場機能
明治新政府が正式に公園整備へと乗り出したのは、1873年。その方針から、東京に5大公園が誕生した。5大公園は社寺境内地を転用したもので、現在の公園とは役割も異なるし、見た目もまったく違う。
黎明期の公園はひとまずおくとして、明治後半からは公園は子供の遊び場であるという捉え方が、世間の共通認識になっていった。それは、戦後も変わることはなかった。
平成期、少子化という時代の流れもあって、公園からは「遊び場」という機能が薄くなった。そうした紆余曲折があったものの、公園に遊び場機能を取り戻そうという潮流も出始めている。
一方、高齢者の増加を受け、行政は公園整備を子供目線から高齢者目線へとシフトさせている。公園内で犬の散歩が禁じられたのは、飼い主が犬の糞を始末しなかったり、リードにつながずに散歩させたりといった要因もあるが、それ以上に公園のメインユーザーである高齢者からのクレームを事前回避する目的があった。
身体機能の衰えから、高齢者の動きはスローになるん。高齢者にとって、動きが速く、そして予測がつかず、なによりも言葉でのコミュニケーションがとれないペットは恐怖でしかない。だから、公園内にペットを入れない。そうした予防線を張ることで、高齢者の安全を確保した。これだけで終わるなら、まだ公園問題は大きくならなかったかもしれない。しかし、ペット問題だけで、公園のメインユーザーたる高齢者保護の潮流は止まらなかった。
むしろ、禁止事項は歳月とともに増えていった。公園内でボール遊びは禁止、水遊びは禁止、声を出して遊んではいけない、走ってはいけないと禁止事項は無制限に増加。もはや公園から、遊び場という機能は葬られたかのようになった。
こうなると、公園は単なる公共空間でしかない。勤務中のサラリーマンが職場を抜け出して缶コーヒーを飲んだり、タバコを吸ったりする仕事の合間に利用する、いわば隠れ休憩スペースのような場所になってしまった。
住宅街にある公園は、高齢者やまだ歩くこともままならない乳児を連れたママの溜まり場と化した。しかし、ゴミの散乱を防止する観点から、公園からゴミ箱が設置されなくなって久しい。そうなると、溜まり場機能も喪失することになる。なんのための公園なのか? 結局のところ、公園は単なる空地になってしまった。
都市の高層化をサポートした公園・空地
空地とは、いわば都市における緩衝地帯でしかない。過密化した住宅地では日当たりが悪くなるから、あまり家を高層化できない。不動産会社はマンションの価値を高めるために、高層化したい。なにより1階や2階は防犯上から高値では売れない。
高層化した方が効率的に販売できるメリットがあるから、マンションはどんどん高くなる。こうした建物の高層化需要をサポートしたのが公園や空地だった。
公園や空地があれば、日照権などが問題になりづらい。そうした事情から、図らずも公園や空地は東京の高層化をサポートする役割を担った。逆に、不動産会社などは都市計画制度を逆利用した。
政府は都市開発を加速させるため、マンション敷地内に公開空地をつくれば、容積率の規制を緩和するという特典をつけるようになる。公開空地をつくることで容積率ボーナスを得られるという特典を巧みに利用し、都市開発事業者・不動産会社は高層マンションを建てまくった。公園や空地の存在は、東京のビルの高さ左右(上下?)する力を秘めていたのだ。
その結果、東京都心部・大阪都心部には高くそびえるタワーマンションが乱立する。従来、高層ビルは20階建て以上は不経済と言われる。その理由はいたって簡単。耐震性を強化しなければならないからだ。
地震大国・日本では、地震の備えは万全にしておかなければならない。しかし10階建て以上の高層ビルともなると、特別な地震対策が必要になる。揺れを吸収するシステムのほか、食料や水などの貯蓄倉庫、停電などをおこさないようなシステム構築、非常口・避難経路の確保。災害は頻繁に起きるものではないから、そうした備えは不経済でもある。
また、平常時でも高層ビルは不経済と言わざるを得ない。例えば、20階建ての高層階にもエレベーターを設置しなければならんあいが、20階を使うのは単純計算でも20分の1の人間に過ぎない。5階や10階といったフロアを利用する人たちにとってエレベーターの待ち時間が長くなってしまうとオフィスビルとして使い勝手が悪くなる。
そうしたエレベーターの非効率な稼働を避けるべく、エレベーターを複数機用意することになる。そして、1~5階までの各階止まり、1階と5階、6階より上階は各階止まり、1階と6階は止まり、10階より上階は各階止まりといったように、エレベーターの停階パターンを複数設ける必要がある。高層ビルは管理・運営面から見ると、非効率極まりないのだ。
税から見る「空き地」や「広場」の増加
昭和期には空き地と呼ばれる原っぱがあちこちに存在した。厳密に言えば、これらは誰かの私有地で、本来なら駐車場だったり、建設資材の置き場として使用されているスペースだった。先述した空地と空き地は厳密には異なるものだが、近年では空き家が増加して社会問題化していることもあり、空き地が増えている。
敷地面積が200平方メートル以下の住宅用地は、固定資産税や都市計画税の減免を受けられる特例が存在している。通常の税額よりも、最大で6分の1になる住宅用地特例のため、誰も住んでいない家屋でも長らく放置された。そのうち、子供や孫が相続し、新たな住戸を構えるかもしれないという将来への望みが、空き家を増やすことにつながった。
空き家が増えることは地域の防犯・防火対策としても好ましくない。そうした観点から法律が改正されて、居住実態が認められない家屋は地方自治体が特定空き家と認定することが可能になり、認定された家屋は空き家とみなされて、住宅特例の適用除外にされた。報道などでは、これを「固定資産税・都市計画税などが6倍になる!」と大々的に取り上げられた。
住宅特例は200平方メートル以下の住居に適用されるもので、200メートルよりも大きな敷地に関しては、同じく住宅特例が適用されるものの固定資産税は通常より3分の1とされる。小規模住宅の2倍になるわけだが、これを2倍とか最大6倍になる!と口にした際、総務省固定資産税課の担当者から「6倍ではありません。通常よりも住宅特例で6分の1になっているのです!」と強く指摘されたことを覚えている。
いずれにしても、特定空き家という制度によって、実質的に空き家だった老朽家屋が次々に解体された。所有者は土地を手放したくないが、かといって差し迫って使途も思いつかない。税金が高くなると言われても困る。そこに地方自治体が助け舟を出す。無償で自治体に貸し出してくれれば、固定資産税や都市計画税といった負担をゼロする。自治体から、そう囁かれれば、土地所有者は飛びついて土地を貸してしまうだろう。
特定空き家問題が顕在化していたことで自治体も本腰を入れて取り組むようになった。無償で土地を預かる仕組みは、自治体にとって固定資産税や都市計画税を手放すことになるが、空き家問題の解決に一定の道筋をつけることにつながった。自治体にとって、空き家は長らく頭の痛い問題だった。無償で預かった土地は、自治体によって長短あるが、おおむね10年間という期限を設けて活用される。
10年という歳月は長いようで短い。預かった土地は10年後に返還しなければならない。なので、行政はその土地を公園に整備することはない。公園として整備すれば、都市公園法を適用しなければならなくなるからだ。都市公園法が適用されると、その公園は簡単には廃止できなくなる。その抜け道として「空き地」や「広場(ひろば)」という用語を使って、「空き地」「広場」として整備が進められた。自治体によっては、コミュニティスペースという用語を使っているケースも見かける。
法律によって空き家にならざるを得ないケースもある。建築基準法では、家屋は公道に2メートル以上面していなければならないと規定されている。これは、俗に言う接道義務と呼ばれるものだが、建築基準法や都市計画法んあどでは時代に合わせて安全基準などが改正される。そのため、以前には法律に適合していた建物でも、法律改正によって急に法律に適合しなくなってしまう物件が出てきたりする。
接道義務の規制で空き家になっていた土地を、文京区が広場として再整備
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